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風花の舞うころに  作者: あるる


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 ようやく見つけた未来は、消えそうなほど力なく光っていた。非常に可能性の低い未来なのだろうと想像つくが、例え僅かな可能性であろうとも白藤が助かるのであれば、その未来を掴むために努力する意味はある!

 深雪との僅かな時間、ほんの一瞬交わした会話を思い出した。



 ◇◆◇◆◇


 過去5回の記憶を思い出した後、紗雪は恐怖に心が、魂が悲鳴を上げパニックになっていたのだけれど、ふと目を開くと夢で見た大きな藤の木のしたにいた。

 そして幼い少女、深雪が「ごめんなさい」と言いながら背を撫でてくれていた。


『なんで?』


「わたしのせいで、おねえさんは痛い思いをしているから。ごめんなさい。」


『あなたのせいじゃないよ?あの恐ろしい鬼のせいだよ』


「そうだけど、そうじゃないの。

 みゆきは、かかさまにもう一度お会いしたいの。」


『あの綺麗な人…… 銀髪に藤のような淡い紫の目の』


「うん、みゆきのかかさま。おねえさんが視たのは昔の記憶。

 遠い遠い記憶。おねえさんがみゆきだった時の記憶。」


 それはしっくりくる内容だった。だからあの女性を見た時に切なくなるほどに懐かしかったのかと。そして人間にはない色合いであっても違和感を感じることもなかったのだと。


「みゆきはね、魂に誓ったの。かかさまより先に死んで悲しませてしまったから……。

【必ずかかさまの元へ帰る】、と。

 だからおねえさんは死んでしまうと、時が巻き戻るの。そして、苦しい記憶は思い出さないように閉じてしまうの。

 でも、全部閉じてしまうと同じことの繰り返しになるから、ちょっとだけ必要な時だけ視えたの。」


『そう、だったんだ…… でも、そのおかげで、今生きているよ。ありがとう。』


「みゆきこそ、ありがとう。かかさまに会えた、かかさまの元に帰ってこれた。

 おねえさん、かかさまは誰よりも優しくて、奇麗で、泣き虫なの。仲良くしてあげてね。

 それと、これでおねえさんの繰り返しはお終い。みゆきの誓いは果たされたから。


 だから、気を付けて……あいつは、まだ狙っている。この世界も、おねえさんも、かかさまも。

 ずっと、あいつは狙っていて、もうすぐまたこっちに来るよ。

 あいつは怖い、準備して。みゆきは、勝てなかったけど!!きっと、きっと勝つ方法が見つかるから、諦めないで……。」


 幼い姿の深雪は、悔しさに涙ぐんでいた。

 理由は分からないけど、みゆきを殺したあの鬼は一度この世界からはじき出されたようだ。そして、今もなお狙っている。

 その理由は深雪は知らないようなので、紗雪が調べる必要があるだろう。


『私ね、紗雪っていうの。にてるね、深雪ちゃんと。

 必ず、勝つよ。相手は強いかもしれないけど、深雪ちゃんのお母さんにも伝えるね、みんなできっと未来を勝ち取るから。

 だから、見守っていてくれる?』


「うん!」


 そうして紗雪の心は休まり、回復のため夢さえも見ない深い深い眠りに落ちて行った。

 一気に解放された霊力を体に慣らし、馴染ませるために。


 ◇◆◇◆◇



『私は誓ったの。過去の私に、諦めないと……』


 敢えて口に出し、覚悟を決めて最後に残った小さな小さな希望の未来を覗く。

 相変わらず街は崩壊し、誰も彼もが満身創痍だった。そして紗雪は白藤に支えられながら、一人の青年に結界や補助の術をかけていた。

 無造作に切られた黒髪の青年は太刀を持って、大柄な鬼と対峙していた。つまり、未来は決まっていない……。

 白藤を失えば、勝った未来は複数存在するが、白藤と共に生き残る未来はまだ未確定。


『負けてないなら、勝てるという事よね。なら、私は諦めない!

 まずは、あの人が誰なのか見極めないとね』


 そう言いつつ、葛木でないことが少し寂しかった。そして、青年は後ろ姿しか見れなかったため、不確定要素が多いがこれが限界だった。


『かかさま、帰ります』

『可愛い紗雪、戻っておいで』


 上から温かな光が差し、藤の花の優しい香りに紗雪の魂魄は導かれるままに上がって行った。



「紗雪、おかえり」


 白藤の声に意識が浮上し、紗雪の目が開くと視界は一面藤の花だったが、空はもう暗かった。


「かかさま、あれからどのくらい経ちました?」

「数時間かのう?」


 数時間…… 正座で、大人の紗雪を膝枕?!一気に覚醒して飛び起きつつ紗雪は白藤を確認する。


「すみません、ずっと支えてもらってて!疲れましたよね!」

「ほほほ、ほんに紗雪は愛いのう。

 妾も鬼の端くれ、顕現できる程度の力はあるから、この位では疲労などせんのじゃ。

 愛しい吾子に気にかけられるのは、こんなにも良き気分なのじゃな。嗚呼嬉しや。」

「我が君、ほんに紗雪様がお戻りになってよろしいことばかりで」

「妾の吾子は愛いじゃろう?」

「ほんに、ほんに」


 いつのまにか紗雪は数人の着物を着た女性に囲まれ、褒め殺し状態にいたたまれなくなっていた。


「かかさま!もう、恥ずかしいです!」

「まあ!ほほほ、許してたも。紗雪が可愛くて仕方ないのじゃ」

「怒ってはないですけど…… 他の人の前ではやめてくださいね?」

「紗雪がそう言うなら仕方ないのう。さあ大分いい時間じゃ、紗雪は部屋に戻ってお休み。

 明日も顔を見せてくれるかえ?」

「はい!明日は、僅かに掴んだ希望、その為に必要なものを探したいです」

「そなたは頑張り屋さんじゃの、委細承知した。母に準備は任せてゆっくりお眠り」




 一方その頃、卜部徹は護りての中でも特に守り、結界や封印に特化した物部に連絡を取っていた。

 一般的には物の怪を討つことで知られている物部だが、物の怪を抑え込む事を得意としていた。物部が封じ、葛木が討つのは現代の護りての中での常識となっていた。


「ぃよう、徹からの連絡とは珍しい。何か面白い予言でも出たか?」

「お前好みの予言が出たよ。第一級警戒だ。」

「はぁ?!お前本気か?」

「残念ながらな、白藤が言い切った。惡羅(うら)が千年の時を経て、再びこの国に来ると。」

「……嘘だろう、あんなのただの伝説で言い伝えだとばかり!」


 物部の気持ちも分かると思い、苦笑しつつ卜部も続ける。


「お前なぁ、私たち護りてが言っていい言葉じゃないだろう。

 日々鬼や悪霊と呼ばれるものを討伐している癖に。」

「そりゃそうだがよ、しかしあの惡羅(うら)かぁ……で、いつまでに何を用意すればいい?」

「物部にやって欲しいのは3つだ。

 1つ、惡羅(うら)が狙っている娘が身に着けられる防御結界を行う呪具の用意。この娘が死ねば、奴の討伐は絶望的になるから、これが最優先だ。

 次に、娘を守るためにも卜部の結界の強化。最後は惡羅との決戦の地に張る結界の準備。

 奴が再び来るのは2年後だ。」

「2年後か、周りに被害を出さないための広範囲結界だな……。まあまだ時間はある、問題ないだろう。

 そっちにはオレの一番弟子を行かせる、そいつなら卜部の屋敷も娘の護衛も問題ない。ただまあ、ちょっと偏屈なのは許してくれ。」

「問題は…… ないが、娘とぶつかるのは止めて欲しい」

「そんなに貴重な能力なのか?」

「白藤の娘、深雪の生まれ変わりで、つい昨日まで一般人として生きてきた」

「はあ?!マジかよ……」

「本気だ。」


 亡くしたと思っていた自分の娘だとは言いにくいので言ってないが、まあいいだろうと卜部はしれっと隠す。

 昨日会った時は普通の日本人らしい容姿だったが、今日あった時には全体的に色素が薄くなり、瞳は完全に紫だった。

 魂魄が戻ってしばらくすると、薄い茶色に戻ったので、恐らく能力を使っている時は紫になるんだろう。


「おい、徹!それで、その娘の能力は?」

「存在を問わない、人でも鬼でも対象を指定しての超強化。あと、白藤同様に未来視もありそうだ。

 何しろ白藤曰く、白藤を失うより娘を失う方が不味いとの事だ。


 …………物部?聞いているのか?」

「ああ…… なあ、その娘、人なのか?」

「能力は非常に高いが、心は人だ。驚くほど、普通の女子大生だった」

「なら、まあ。それも含めて、良く言い聞かせて向かわせる」

「頼んだ」


 さて、応援は呼んだ。部下たちに指示して不自然に見えないように屋敷周りの鬼は討伐しすぎないようにしつつ、結界を強化する。あからさまに結界強化や討伐を行えば、ここに何かあると言っているようなものだからこそ、自然を装うのが大事だ。

 その代わり卜部の中心で守る本宮は見た目も気にせずガチガチに固めている。


 紗雪には申し訳ないが、家族との再会はしばらく我慢してもらおう。そう一人呟いて、卜部もまた怨敵でもある悪鬼を迎え撃つために出来ることを考え、実行に移していく。

読んでいただきありがとうございます。

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