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 対照的な当主2人を目の前に、紗雪はまさかこんな事になるなんて、と焦りを隠せなかった。


「紗雪ちゃん、おかえりなさい。」

「は、はい、すみません……おまたせしました。」


 面白そうにしている葛木に対しても卜部は眉間に皺を寄せていた。


「紗雪ちゃん、お散歩は楽しいと思うけど、さっきのは魂魄(こころ)を飛ばすものだから実はとても危険を伴うのよ?」

「えっ……」


 葛木の発言に卜部を見ると、渋い顔のまま頷いている。


「知らなかったのは理解しているが、あまりに無防備過ぎる。

 普通は意識だけで移動出来ることに危機感を覚えるものだ。ましてや君は攻撃手段も自衛手段も持たない。」

「まあまあ徹さん、将来有望な証拠よ。

 とはいえ、ここ以外でやる時は周りを護衛で固めて結界を張れるようになってからねぇ。」


 護衛や結界と物々しい話しに紗雪が目を白黒させていると、葛木がにこやかに続けた。


「紗雪ちゃん、鬼が異界の存在だって話しは覚えてる?」

「はい、こちらの世界に焦がれていると。」

「そうなのよ。どうやって侵攻しようとしてると思う?」

「えっ?!」

「ヒントは幽霊やらのホラー」

「……もしかして憑依とか体の乗っ取りとか?もしくは実体化?」

「どっちも正解。そして、そのトリガーとなるのはアタシたちの魂や霊力と言われる生命エネルギーなのよ。

 嫌になっちゃうわよねぇ、しかも向こうはヒエラルキー的に上だし。」

「……葛木さん、もしかして」

「そうだ、君はこの場所でなければ自殺行為なことを無防備にしていた。」


 そう卜部に言われ、思い出した過去の記憶に血の気が引く。

 なんで忘れてたのだろう、あの狩られる側の恐怖を。明らかに餌としか見ていない存在の厭らしい眼差しを。


 紗雪の反応を見て、卜部も溜息をつきつつ表情を柔らかくする。


「分かったのならいい、すまなかった脅かし過ぎた。

 だが私の目から見ても、君は霊力が強い上に卜部の血を引いているから更に危険なんだ。」

「卜部は予言の能力ではないのですか?」

「正確には神降ろしによる、予言だ。」

「神降ろし?え、でも、それって……」

「そうだ、危険がある。ただ神降ろしする側の器の大きさや相性で誰でも神降ろしできる訳では無い。

 また、特殊な契約を結んだ者しか降ろせない。

 ただし、器が壊れるのが構わないなら、無理矢理に降りることができる。その典型例が有名な映画で出てくる悪魔付きの状態だ。」


 紗雪の脳裏には過去から全く変わらない白藤と昨日会った有希姫が浮かぶ。

 2人とも契約に縛られているのだろうか?


「白藤のかかさまと、有希姫さまは?」

「あの2人は他の鬼とは格が違うわ。

 そんなチンケな契約じゃ縛れないし、そもそも葛木や卜部の一族は姫さまたちと繋がりがあるから裏切られることは無いの。」

「なぜ?」

「鬼はね、精神生命体なのよ。そして、自分の血筋の者を攻撃するのは、ひいては自分の存在を自分で否定するのと類似(おなじ)になってしまうらしいわ。

 だからね、彼女たちにとって血の繋がる一族は絶対に裏切れないの。そう考えると、アタシたち人間は薄情よねぇ。」

「その、……なんと、言えばいいのか。」

「そういうものだと、一旦は理解した方がいい。私たちとはやはり価値観も何もかも違うんだ。

 ただ、分かり合える一面はある。全ての神や鬼ではないけどね。


 さて、この話しはここまでにしよう。私たちが来たのは紗雪さん、君の能力と今後について話すためだ」


 現状でもある程度分かっている事もあるが、詳細にはやはり調べないと分からない、と検査のため紗雪は白藤のいる、本宮の藤の木の元へと連れていかれた。


「待ちかねたぞ、紗雪。叱られたのかのう?

 ふふふ、徹も葛木もとても心配していたからのう。」

「……白藤」

「良いではないか、そなたたちにしっかり絞られたのであろう?

 なら、妾は紗雪は愛されているのだと伝えぬとな?


 さあ、戯れはここまでじゃ。紗雪、妾の元へ。」


 紗雪に伸ばされた白藤の元へと近寄り、手を触れると力が抜け紗雪は崩れ落ちる。

 そのまま白藤に膝枕され、両目を細い手で隠されると、柔らかな花の香りに包まれる。

 白藤の少しひんやりとした手の温度が体を巡るような感覚がして、少し落ち着かないが暫くして目元から手をどかされた。


「起き上がれるかえ?」

「はい…… あの、なんと呼べば?」

「まあ、愛いこと。吾子からの呼びかけならなんでも嬉しいが、白藤と呼んでたも。」

「白藤のかかさま」

「吾子に呼ばれることはなんと嬉しや。紗雪はほんに愛いのう。

 のう葛木の、この子を守ってくれるかえ?

 この子は愛いだけでのうて、とても稀なる吾子のようじゃ。

 信じられるかえ?妾よりも敵に囚われたら危機を呼ぶのに、この子は危機に立ち向かう運命にあるようじゃ。」

「白藤、もう少し具体的に!」

「徹は無粋じゃのう。

 まあ、でもからかっている余裕は正直に申して無いようじゃ。

 紗雪はのう、鬼や神だけでなく、人もその能力を引き出し、更には増幅させる。

 本人が望んだただ一人だけにその祝福は与えられるようじゃ。この能力と紗雪自身の無垢な霊力は鬼たちにとって酷く香しく、『旨そう』なのじゃよ。

 紗雪は今まで6回繰り返しているが、全て逃れる為に自死しておる。辛かったろうに、吾子を知らずに失ってしたなんて、口惜しや。紗雪、情けない母を許さないでたも。

 そして、今度こそそなたを妾も守って見せようぞ。」

「かかさま…… 今も、昔もかかさまはちゃんと助けてくれたよ。

 かかさまに会うために、深雪も紗雪も頑張ったんだよ、だから泣かないで?

 かかさまに会えて、やっと帰って来れたんだってホッとして、深雪はちゃんと上がったよ。私と、紗雪とかかさま、仲良く、楽しく生きてって」

「み……ゆき。優しい子だったのじゃ……」


 白藤ははらはらと涙を零し、そして、決意を固めるように紗雪を見る。


「深雪からの伝言はそれだけではないな?

 深雪は幼くとも未来を視るのに長けている子であった。」


「はい。今から2年後、深雪を殺したあの邪神とも言うべき最悪の鬼が来ます。」

「!!葛木!徹!紗雪を守っているだけでは足りぬ。

 早急に最強の護りてまたは紗雪と番になれる鬼を選ぶのじゃ。その者に紗雪の加護を与えた上での決戦になる。

 戦いの舞台も整えねば、総力戦になるぞ!……そうか5回目のあの影は彼奴めか!深雪だけでなく紗雪にまで手を伸ばすなど、おのれぇ……許さぬ!

 妾の一族総出で未来予測を始める、徹、任せたぞ?」

「承知」


 短く返事をすると卜部は部下を伴って小走りで去っていく。


「アタシは護りて全体に通告しましょう。

 それと、葛木や如月(きさらぎ)九十九(つくも)神崎(かんざき)の四家による武術大会ね。

 紗雪ちゃん、あなたを賞品にするようで申し訳ないけど、最終的に選ぶのはあなたよ。

 あなたの番、パートナーはこの国でもっとも強い護りてになるから、真剣に考えてね。」

「パートナー…… 実感はないけど、私も死にたくないので、一緒に戦える人をちゃんと選びます。」

「いい子ね。それでは白藤の君、失礼しますわ。」

「すまぬが、頼んだぞ葛木の。有希姫にも、よろしくの」


 ニコリと笑むと葛木もまた急いで去って行った。残されたのは白藤と紗雪、そして紗雪の世話をしてくれた女性だけだった。


「紗雪、先程は魂魄(こころ)が離れる事が危ないと話したが、これから紗雪には時の波に潜って貰う。

 そなたの身は妾と、そこな妾の眷属が守る故安心して欲しい。」

「はい」

「妾の声に導かれるままに進むのじゃ」


 目を閉じて意識を白藤の声に集中すると、周りが見えてくる。

 白藤の嫋やかな手が身体を出た紗雪の顔を優しく撫でてくれる。

 下へと導かれ、下へと進むと複雑な色の川が見えてきた。その川の更に下へと、流されないように流れに逆らって更に下へと進む。


 降り立った場所から様々な景色が浮いて見える。それはさながら大木になる実のように。説明がなくとも、それが可能性のある未来なんだと分かる。


 最も惹かれる明るい景色を覗き込むと、破壊された街並みの中、倒れ、消えかかっている白藤を抱きしめて泣く自分が見えた。

 葛木も卜部も家族も見えない。

 こんな未来は嫌だと紗雪の魂は叫び震える。


 他にも未来はある筈だと他の未来を覗くと、やはり街並みは破壊され、白藤は倒れていたが、葛木が紗雪を支えながら守ってくれていた。覗く未来、覗く未来、隣に立っている人は変わるものの、白藤は死んでしまう。

 そこに、うっすらと赤く光る未来を恐る恐る覗くと、手を血に染めた紗雪がその手で白藤の胸を刺し貫いていた。


『いやあああああああ!!!』

『紗雪!紗雪!!落ち着くのじゃ!紗雪……!!』


 必死な白藤の声に一瞬理性が戻るが、同時に【こんな未来認めない】と怒りが込み上げてくる。


『紗雪、もう良いのじゃ!戻ってたも!』

『いや!かかさまが死ぬなんて、絶対認めない!』


 深雪に託されたのだと、紗雪は必死に未来を探し続け、そしてうっすらと隠れるようにあった未来を見つけた……!



読んでいただきありがとうございます!

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