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幕間2

 武術大会からしばらく経った、如月家にて――。


 如月玄一は孫の玄夜の訓練をしていた。まだ5歳でしかない孫は如月家に相応しい圧倒的な霊力を誇り、勤勉で素直なかわいい盛りの孫であると共に有能な後継なため教育にも熱が入るというものだ。

 とは言え相手は5歳児なので、健やかに育つことがもちろん第一で、玄一もまた孫の前ではただの好々爺となってしまう。


「そこまで!誰か玄夜にタオルと水分を」


 ぜーはーと肩で息をする玄夜は側近に支えられ、縁の下まで運ばれ冷えたスポーツドリンクと、冷やしたタオルで汗を拭われて一息をついていた。その間も幼い子供特有の少し高い声で「ありがとう」と言ってくれるのが可愛らしい。

 玄夜は如月家のアイドルだった。玄一をして「うちの孫は天使じゃ」と言わしめるのだから間違いない。


「術の制御が上手くなったな、玄夜」

「はいっ!じいじにおしえてもらったとおり、1つ1つさいごまでちゃんとやったらできました!」

「うむうむ、偉いぞ玄夜。まずは1つ1つを完璧にしてくのが大事だからな」


 素直な玄夜に玄一は相好を崩して微笑ましく見つつ、将来性しかない孫が心強い。数日前、夕食が終わった後に玄夜は祖父玄一の部屋を「お願いがある」と訪ねて来た。


「じいじ、ぼく、つよくなりたいんです」

「玄夜……」

「かあさまが、ぼくはじいじより、つよくなれるって」

「ほほう? 夜空、玄夜の母はなんと言ったか教えてくれるか?」

「うん! ぼくがたたかいたいなら、じいじにおねがいするように。おかあさまは、おいえをまもりますってつたえてって。

 じいじ、ぼくはじいじのおてつだいできる?」

「………」

「じいじ?」

「……玄夜、お前は十分戦力になる。だが、だが……この爺の方が今はまだ強い。

 玄夜、本当に強くなりたいか?」


 如月家の現当主として、いくら孫は可愛いけれどもこと護りてとしての修行は生中ではなく半端な返答は出来ない。玄夜には見せて来なかった厳しい眼差しの祖父に玄夜は驚いたが、同時に納得した。


「じいじは、つよいんだね……ぼくは、じいじみたいになりたい。

 かあさまをまもりたい」

「玄夜、夜空もまた、お前より強い。夜空の強さは如月とは別だが、信頼できる素晴らしい嫁だ」

「うん、かあさまがおしえてくれたよ。でも、ぼくはじいじとおなじ、きさらぎのちからだから。

 ぼくはきさらぎのみんなとしゅぎょうしたい」

「そうか」


 玄夜の母である夜空は如月一族ではなく、玄一の息子、如月玄人が物部から娶った娘だった。物静かなのに芯が強く、これぞ大和撫子という雰囲気の女性で凛々しくも夫を立てる奥ゆかしい。自分は他家から来ているから、と積極的に如月のしきたりも積極的に学び、分家や本家に勤める女性たちにも早々に馴染んた遣りてだ。

 玄人が任務で亡くなった際も、如月の女衆が集まって夜空と玄夜を守り、玄夜以外に如月当主の後継はいないと奏上してきた時に玄一は改めて夜空の影響力に驚いたものだった。


 そして今、玄夜の教育状況と素質を見極めちゃんと如月の修行を、と勧めて来た。本当にできた嫁だ、と玄一はただただ感心するしかない。しかも本人は本家を守るために物部の力を発揮させて守って見せると豪語する。


「じいじ?ダメ?」

「ダメではない、が……幼い子供の修行でも7歳となる年から始めている。お前はみんなより幼い分、辛いぞ」

「ぼく、なかないよ」

「ああ、玄夜は強い子だからな」


 玄一は悩んだが、結論が出るまでの一瞬だった。確かに玄夜には可能性を感じていた。幼い体に似合わない霊力の大きさ、武術大会で見せた鬼を怖がることのない胆力の強さ、そして木崎を捕縛した際の堂々とした態度と油断のない術制御。側近を付けていたとはいえ、捕縛していたのは玄夜だった。

 確かに幼い頃の2歳の差は大きいが、問題ないだろうと確信できる。完敗だ、とさえ思わされいっそ愉快な気分になっていることに気付いた。


 少しだけ不安そうに自分を見上げる孫が年相応で可愛く、玄一は獰猛にニヤリと笑って答えた。


「よし、玄夜に如月の修行を始めよう」

「ほんと?やったあ!」

「ただし、1つだけ約束だ。修行で実践を行うことももちろん、ある。

 戦場に出たらこの爺の言うことは絶対だ。嫌だと思っても言うことを聞け。……それができないなら修行はつけぬ」

「うん、ゆびきりするよ」


 決して、決してこの孫だけは死なせない。確かにこの子は如月の後継に相応しい、未来の如月当主を育てる楽しみに、玄如月当主、玄一は興奮していた。

 惡羅(うら)の襲撃には間に合わないだろうが、自力で夜空と共に生き延びる事はできるようにしよう。



 翌日から玄夜は子供たちの修行へと合流した。

 初日は他よりも小さいから子供たちの中でも可愛がられていたが、修行が始まると子供たちの玄夜を見る目が一変した。玄夜は誰よりも正確に術を制御して動かぬ的とは言え余裕を持って破壊をしたのだ。玄夜への反発が起きないか心配したが、流石に護りてたちの子供だけあって真っ直ぐに受け止めて玄夜に負けまいと全員発奮したという報告を受けて玄一は将来有望な子供たちの様子にほくそ笑んだ。


 未来は決して暗くない。


 決戦まで2年を切った今、下手をすれば子供たちも亡くなるだろう。だが、それでも人は勝ち抜く。それこそが我等護りての存在意義そのものなのだから。例え我等は死のうとも、将来を守るであろう希望の種である子供たちと無辜の民は守る。

 如月玄一は孫のため、子供たちのため、死兵と化して戦う覚悟は既にできていた。最古参の護りての当主として、無様は見せまいと。





 一方、孫である玄夜は道場で集中する祖父の覇気の強さに目を見張りつつも、幼いながらに決心していた。


「じいじは死なせない」


 それは玄一の覚悟を真っ向から否定するものであるが、玄夜はどれだけ母が亡くなった父を失った空虚を必死で耐えているか見ていた。穏やかに微笑む母が、夜泣きながら寝ている事を玄夜だけが知っている。

 母はいつも「如月を守らねば」と寝ながら呟いている事を知っている。


「かあさま、大丈夫だよ。ぼく、つよくなるから……じいじも、みんなもまもるから。

 ぼくはきさらぎげんや。きさらぎともののべの力をつかえるんだから」



 だから玄夜はどうしたら祖父に修行の許可を取れるか母に相談した。

 父が愛し、その父が愛した如月を必死で守ろうとする母夜空もまた愛する、祖父が当主のこの家を守るのは自分なのだと自然と考えていた玄夜は正しく天才、麒麟児なのかもしれない。



 惜しむらくは、時間が足りない事だった。後2年弱、玄夜が7歳となった時に護りての怨敵が来る。

 祖父と孫、互いに互いを守ろうと気炎を吐き、その時に向けて準備をしている。



 時は刻一刻と過ぎていく。



 人間と鬼の戦い、勝利の女神は一体どちらに微笑むのかはまだ決まってない――。

読んでいただきありがとうございます。


祖父と孫がお互いを守りたいと思うお話しでした。

各家の姫さまたちは2章で!(プロットねりねりが終わらない)

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