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久々の更新です!
舞台を包む結界に溢れるくらいの黒い染みと鬼たちで溢れていて、鬼たちの不愉快な声が結界から漏れ聞こえてくる。
葛木の姿は全く見えず、紗雪は不安に押し潰されそうな気持ちになるが、同時に葛木の霊力は微動だにしていない事にホッとする。
紗雪に理屈は分からないが、恐らく結界等で身を守っているのだろう。問題は結界が鬼で溢れかえり、結界がミシミシ言いだしている方だ。
手を組み、祈るように結界を見つめる紗雪に、何故か決して大きくないはずの、冷静に呟いた葛木の呪言が聞こえた。
『滅破』
赤であり、オレンジの、温かな朝焼けののような光が真っ黒に染まっていた結界内を切り裂いた。
結界内の黒い染みは煙となり、崩れ落ちるが、結界もまた限界に来ていた。
鬼たちが溢れ出た一瞬、近くに控えていた多部は葛木がニヤリとしたのを見ていた。
あの葛木だ、万が一にも問題ないだろうが、結界を破られ鬼が溢れ出るのは不味い。それに、まだ何かある。
それは多部の直感だが、護りての直感、特に悪いことに関しては備えておいて損はない。
「喜一!九十九の双子、協力しろ!」
「「了解!」」
多部の号令の元、結界は崩壊と共に即座に張り直す準備を行う。重ねて同時に破られるより、破られた後により強固なものを張る。
中のモノは決して出してはいけない。
「九十九、内に留め、封じるつもりで容赦するな!」
「マジ?!」
「葛木当主は問題ない!それよりアレはダメだ!!」
「蓮斗、オレと合わせるぞ!」
「分かった」
ミシミシと鳴る結界が崩れ落ちるのを待ち兼ねたように、結界に幾何学模様のような線が描かれ、硬質な音と共に崩れた。
透明な硝子のような結界の破片と、黒い粒子が混ざり不思議と神秘的に見える模様の中に、先程の朝焼けのような、宝石のパパラジャのように輝く瞳と紗雪の目が束の間、合う。
「あっ…」
小さく、微笑んだ気がしたけれど、次の瞬間には結界が張りなおされ、溢れている黒い粒子で見えなくなってしまった。
紗雪は見た事のある色に動揺していたが、同時に納得もしていた。
だが、今は確認する方法がない為、紗雪はただ葛木の無事を祈るしかなかった。
一方、結界の中――。
「まぁったく、数が多ければ倒せるとでも思われているのかしらねぇ?」
【遊んでないでさっさと殲滅しないか!清一郎!】
「有希姫はせっかちね。でも、飽きたし、そろそろ本気出してくれないとあんたたちの依り代、壊すわよ?」
言うと共に元は木崎だった「黒い球体」を軽く刀で撫でるよう切ると罅が入る。
「ふふ、いつまでこの依り代はもつかしら?もっとも、依り代も呼び出される方も三下程度じゃあ、大して期待もできないでしょうけど……。
ねえ、それで隠れているつもりなのぉ?シャイなのは良いけど、アタシもう面倒だからこのまま滅しようかしら」
この間も絶え間なく雑魚を切り捨てつつ葛木は待つが、目的の敵は無反応だった。
「はあ…… まじ、だっるいんだけど。どーせクソ雑魚だし、ここまで言われて出てこないなんて臆病者の玉無しだし、もういいかしら。
木崎も可哀そうにねぇ、こーんな雑魚に夢見させられるなんて、ね。じゃあね、雑魚、わざわざこのアタシが相手するまでも無かったわ!」
煽りに煽り、刀に霊力を纏わせて「黒い球体」の中心を突き刺した。球体全体に罅が入ると共に周り中の鬼たちにも罅が入り、脳に直接響くようなうめき声が響き渡った。
『おのれ!おのれ、おのれおのれえええええええ!!!!』
「ぷっ!やっと焦って出てきたの?こっちからそっちに攻撃できないなんて、あると思って?油断しすぎ~、ざーこざーこ!」
『きっさまああああ!!』
「あらぁ、ほんとの事言われて怒っちゃったの?器ちっさー、流石雑魚だわー。反論できるなら、してみればぁ?ざーこ」
【……清一郎、相手顔真っ赤だぞきっと。可哀相だから、そこまで本当の事を言うてやるな】
「あっはははは!ですってよー?ざこ~?ひいさまの慈悲に免じて相手してあげるからぁ、さっさと出て来いよ!」
球体を貫いていた刀を器用に捩じって引き抜くと、釣られて黒い影が球体から引きずり出された。
影はもがくようにもぞもぞしていたが、観念したように人型を形成すると、そこには140cm程しかない少年が現れた。
「あらやだ、本当にお子様だったのね。本当の事を言ってしまって悪かったわね」
全く悪いと思ってない葛木の発言に少年の姿をした鬼はやはり顔を赤面させて怒る。
「貴様、この俺を捕まえて雑魚だの童だのと!!俺は貴様よりも余程年長者だ!!」
「ふぅん、ショタジジイってニーズあるのかしら?」
【そういう問題か?だが、まあ、中々に有名なやつを引き当てたな】
「あら、ひいさま知ってる鬼?」
「ふん!無知な奴め!
俺様はいばな童子、茨木童子の一子とは俺の事だ!!」
ドヤって仁王立ちするのは、とても残念なお子様にしか見えなかった。
「ねぇ、ひいさま…」
【言うな。アレで実力はそこそこあるから、清一郎の覚醒を促すには良い相手だろう】
「そうねぇ…… うん、遊んであげようかしら」
言うなり切りかかる葛木を難なくいなすいばな童子は内心では焦っていた。
雑魚の鬼を瞬殺されているのは見ていたが、実際に葛木の太刀を受けると思った以上に重く、鋭く、徐々にいばな童子が消耗を強いられていた。反面葛木は徐々にスピードは上がっていき、攻撃は重さを増していく。
「ふふ、思った以上に楽しいわぁ!もっと上げていくわよ!」
「くそっ!貴様アキ姫の眷属とは言え、本当に人間か?!」
「失礼なクソガキね。正真正銘、ヒトよ?但し、当代最強と言われている護りてを担っているの。だ・か・らぁ、油断するとすぐ死ぬわよ?」
「くっそがあああ!人間ごときが舐めんなっ!!」
結界の外では多部と物部、九十九で必死に結界を維持していた。
内側からの圧力をいなしつつ、結界の保持をしているが葛木の霊力と鬼の妖力ぶつかり合いによるエネルギーの奔流を閉じ込めるため、10人近くの護りてで結界を保持していた。
「蓮斗、大丈夫か?」
「うん、まだ…大丈夫」
「分かった。喜一さん、多部さん、オレたちは霊力の消耗が酷い、もってあと10分です」
「承知した、悪いがギリギリまで粘ってくれ。喜一、2人の霊力が切れたらお前が保護しろ」
「はい!悠斗、蓮斗、悪いがもう少し一緒に頑張ってくれ」
健気に頑張る高校生2人を背後に守りつつ、物部喜一も彼等の負担を少しでも下げるべく結界の強度を上げていく。結界に掛けられる負担は、維持している護りてのダメージとなり、維持するための霊力をどんどん消費していく。既に今日2戦している悠斗と蓮斗にはきつい状況だった。
「悠斗、蓮斗。私の可愛い子たち、お待たせしました。時間がかかってごめんなさいね、後は私が引き継ぎましょう」
「「千姫…!」」
「良く頑張りましたね、さあ少し休んでいなさい。馨、私に合わせて」
「はっ!」
九十九当主である父と、千姫に結界を受け渡すと悠斗も蓮斗も崩れ落ちるように座り込んだ。益々結界内の戦闘は激しさを増しているのが外からでも感じられた。
「凄いな」
「うん」
「…負けてられないな」
「っうん」
いばな童子との対峙は10分程経過しただろうか、既にいばな童子は細かな傷を多数負い、更に腹部に深い傷を負って膝をついていた。
「ようやく、馴染んだかしら?」
【そうだな、同調率は90%を超えているから問題ないだろう】
「ふふふ、ありがとう。あなたのお陰でアタシの準備は整ったわぁ。
お礼に、向こうに返してあげるわね?」
「…クソ、バケモンが」
「あら、ありがとう。そうよ、こちらには化け物が居るから来ない方が良くってよ。
じゃあね、さようなら」
そう告げると、葛木は霊力を高め視認できるほどに眩い光を大太刀に纏わせいばな童子を縦横無尽に切り刻んだ。
最後は童子の額、その中心にある角を貫くと何かが軋むような音を立てて消滅した。
内部のプレッシャーに負けて結界が崩れたのはほぼ同時だった。
物部の者たちも、九十九も既に疲労困憊だったが、葛木の姿を確認してホッとしつつも視認できるほどの霊力を纏っているに驚いた。
暁のようなオーラのように纏っていた霊力を解きつつ、自然と目線は紗雪を探す。
少し遠い観客席にて、大きく手を振る紗雪に笑みが溢れる。
【清一郎、もうそのボロボロなウィッグは取らんか】
「あら、そうだったわね」
木崎の罠で三つ編みごと切られたウィッグを外すと、日本人らしい艶のあるスッキリした黒髪が現れた。
ぐしゃぐしゃと手ぐして整えると、そこには長身で黒髪の男性がいた。
「あっ……」
聞こえないはずの紗雪の声が聞こえたような気がして、紗雪に振り返って微笑むと、紗雪は真っ赤になって固まっていた。
「ふふ、大成功だったみたいね」
【全く、お主は。だが、その口調のままで良いのか?今の姿には合ってないぞ】
「ふむ、それもそうだな。まあ、元々オレの口調はファッションの一部でしか無いしな。
これからはその時の服装に合わせるか。その方が、あの子は喜びそうだ」
【はいはい、本当にお主は妾の血が濃い】
そう話しつつ、ボロボロになった舞台や護りてたちを助けているとにわかに騒がしくなったので振り返ると、待ちかねていた紗雪が葛木に向かって走ってきているのを見つけて、葛木は破顔した。
読んでいただきありがとうございます。
こんなとこで切るなよ、って所で止まっていたのに冷や汗書きながら更新しました。
お待ちくださった方には心よりお礼申し上げます。mm




