表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/26

21

流血表現がありますので、苦手な方は気を付けてください。

 葛木の木刀はその一太刀が重く、とても木刀とは思えない鋭さに神崎は必死に捌いていた。

 一瞬たりとも油断出来ない、しかも木刀には壊れないようにと霊力は込められているが、それ以外は一切術を使っていない。

 つまり個人の力量のみでこの重さ、速さ、鋭さを生み出していると言う事実に神崎は益々苦い顔をする。


 神崎も今の日本の法律では成人になる。

 そして、葛木が当主に就いた時と同じ歳だと言うのに、自分との差が余りにあった。


 チクショウ、やっぱり遠い……!

 あの人は本当に凄い、けど!!


 少しでもこの試合から学ばねば、と気持ちを切り替え、葛木の剣を受けながら葛木を見る。


 あの人はどこを見ている?

 あの人の視線は?

 あの人の意識は?


 そして気付く、にこやかに全体を見ているようで葛木は自分を、自分の目を見ていると。

 思わずギクッとして飛び退く神崎に葛木は益々笑みを深める。


「ふふ、正解。

 相手をちゃあんと、視ないとね?」

「くっ!」


 神崎から切りかかると、ふと葛木の視線が奥を見ているのに気づき、思わず前進して回避をしようとした。


「残念、不正解」


 楽しげな声と共に神崎は転がされていた。

 そこで初めて視線で誘導された事に気付き、羞恥で赤面した。


 そこからは稽古をつけるように葛木は神崎の隙をつき、指摘し、神崎の反撃は軽くいなしながら神崎が体勢を戻すのを待つ。

 文字通り子供扱いだった。


「このペースにも飽きたわねぇ。少し上げるわよ?」


 言外に「もちろん着いて来れるよな?」とニヤリと笑まれ、神崎は舌打ちしつつも必死で食らいついく。


「良いわねぇ、その調子よ。

 ほら、足はもっと細かく丁寧に運んで!体重移動が甘い!」

「クソっ!」


 いい様にやられっぱなしでたまるか!と、仕込みをしていた即時発動の術もアッサリ木刀で切り裂かれた時には、流石の神崎もその非常識さにあんぐりとしていた。


「ふふ、さあ、そろそろ終わりましょうか?」


 そう言うと初めて構えを取った葛木から圧倒的な覇気が溢れ、神崎が一瞬硬直した。


「お終い」

「勝者、葛木清一郎!」


 葛木と如月の声で初めて神崎は自身の首に木刀が当てられていた事に気付いた。


「見えなかった……」

「これでも、今代最強なの。でも、アナタは伸びるわぁ〜。

 まだ身体が出来上がってないから、今は基礎を嫌ってほどしっかりね?」

「は、い。ありがとう、ございます」

「うん、良く出来ました。素直な子は好きよ、伸びるしね」


 本気を出させる所じゃ無かった、自分もまだまだだと神崎は頭を下げた。

 そんな有望な後輩に葛木がほくほくとし、一秒にも満たない一瞬、油断した。


「うわあああっ!!」


 叫び声に葛木が振り返ると、神崎は鎖に雁字搦めにされかかりながら、抵抗をしていた。

「不味い」そう思う間もなく、愛用の大太刀をどこからともなく出し、鎖を切り裂きつつ神崎へと進む。


 十重二十重に鎖が縦横無尽に葛木をも巻き込んで拘束しようと迫り、思うように動けない。


「チィっ!防御しろ!!」


 葛木の短い指示に抵抗ていた神崎は即時に切り替えて結界札を実行する。ほぼ同時に葛木が全ての鎖を切り裂き、燃やす。


「……っ!!!」

「良く耐えた。すまなかった、俺のミスだ」

「あっ……か、つらぎ、さん……髪が」


 葛木の長い茶髪の三つ編みはちぎれ、ぐしゃぐしゃになっていた。

 神崎も髪は乱れ、服も何ヶ所か破れて血が滲んでいる。


「ああ、まあ、気にするな。ほら、お前もちゃんと手当てして貰え」

「はい」


 何か言いたそうな視線を神崎から感じ、葛木が視線を向けると、神崎が肩すくめて苦笑していた。


「いえ、葛木さんはやっぱり男なんだなーって」

「はっ?

 あらぁ、なあに?アタシが女じゃなくて残念?」

「いいえ、葛木さんが女性だったら怖いですよ」

「まっ!口が減らないわねぇ!」


 そう話す2人の元に神崎の人間と、如月の人間に縛り上げられた木崎が引きずられて来た。

 散々抵抗したようで、木崎は満身創痍になっていたが、その眼はまだ諦めはなく爛々としている。


「神崎、お前は下がれ」

「でも!」

「俺は無傷だ。お前に何かあってはお前の親父殿に申し訳が立たない」

「……はい」

「いい子だ」


 神崎を下がらせると同時に、幼い少年が木崎の影から姿を見せ、ぺこりと頭を下げる。


「かつらぎ、とうしゅに、ごあいさつします」

「やあ、玄夜くん」

「えと、ごめんなさい……。きざきが、わるい子でした」

「玄夜君が捕まえてくれたの?」

「はい、じぃじ…… おじい、さまに言われて、かあさまと」

「まあ、怪我はしなかった?」

「はいっ!」

「そう、えらいねぇ。さあ、後は大人に任せてお母さんの所に戻って大丈夫だよ」

「はい!」


 嬉しそうにペコンと頭を下げると、小走りで去って行く玄夜を守るように如月の者たちがついて行き、木崎は床に打ち捨てられいるが、その表情は見えない。


「葛木当主、我が一門の者が迷惑をかけた」

「お気になさらず、幼い玄夜君が体を張って捕獲したのです。頼もしいお孫さんだが、何事もなくて本当に良かった」

「心遣い、感謝する。こやつは儂が責任をもって処理しよう」

「いえ、お待ちください。まだ、何かありそうだ……。

 物部の者はいるか?」

「ここに!多部と言う。物部当主より当主代理を任命されている」

「この舞台上の結界の強化を。如月当主は出てください、俺とこいつだけ残ります」


 その一言に木崎は僅かに、一瞬だけ身じろぎした。

 やはり目的は葛木清一郎なのか、と葛木も如月も瞬時に悟るが、まだ何が仕掛けられているかが見えない。


「……承知した。お主に何かあった場合は全員で結界ごと滅せよう」

「ふふ、心強い。……が、こんなむさい奴と心中はご免被るので、さっさと終わらそう」


 如月と多部が舞台を降り、舞台全体を更に結界が覆うのを確認すると同時に葛木は大太刀を抜いて一息に木崎を刺した。

 結界が声を防いでいるためか、声は聞こえないものの、大量の出血と口からも血を吐いて何やらわめいいるのが結界の外からは見て取れたが内容は分からない。


「ぐああああっっ!!お、おのれぇ……!か、つらぎぃ……!!」

「まだまだ元気そうだな。そろそろ飽きたし早く終わらせたいから、さっさとお前が懇切丁寧に仕込んでくれたものを発動してくれないか?」

「っ!! はっ、後悔するがいい……我が命を持って、この術は完成する!!」


 そう叫ぶと、木崎は黒い血を吐いて倒れた。

 黒い血は舞台上に広がり、汚染するように、沁み込むように……黒い染みは驚異の速さで葛木の足元を、その先をどんどん、どんどん黒く黒く染めた。

 黒は結界に阻まれ、舞台全体を覆い、球状になっている結界にへばりつくように広がり、そして破裂した。


 キィイインと耳鳴りのような酷い音が響き、カシャンと何かが割れる音がして、結界内は大小の鬼が溢れ葛木を囲んでした。結界の外からは葛木の姿が見えなくなるほどに溢れた鬼の姿に紗雪は声にならない悲鳴を上げる。


「幸江さん、葛木さんが……!」

「だ、大丈夫、葛木様はお強いから」


 紗雪と幸江は支え合うように、それでも舞台上から視線を外せなかった。

 こんな未来は予知していない、こんな事故や襲撃の可能性は見当たらなかった…… 如何に未来は決まってないとは言っても、紗雪は安全を確認するために何度も視たのに。


信じがたい気持ちと、ただ葛木の無事を祈って紗雪は見守るしかできなかった。

やっと更新できました。

読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ