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 葛木清一郎、若干18歳にて前当主を下して当主の座に着いた今代最強の護りて。

 ただ強いだけであったなら、若輩への教育として他の五家にいいようにされただろうが、葛木は恐ろしいことに戦闘だけでなく、当主としての采配もまた難なくこなし、海千山千の各家の当主とも張り合えていた。

 更には芦屋湊という右腕を得ると書類関係や調整を芦屋に任せ、葛木自身は葛木一族の強化を図り、自分だけでなく葛木一族を護りての最強戦闘部隊へと育て上げた。同時にその訓練は他家の術者たちにも公開し、参加を望む者には同じ訓練を行い各家との交流を行う事で相互の得手不得手をカバーできる体制や軍隊のようなバディ制などを提案、実行して護りて全体の戦闘力強化を如才なく行った。

 葛木自身、自分が他よりも鬼に近い、先祖返りの自覚はあったため部下に自分と同じ強さを求めた事はない。だが、自身がどこまで強くなれるかは興味があったため、誰よりも過酷な訓練を行い、率先して鬼との戦闘に加わり能力向上に努めていた。

 ストイックなまでの訓練は他の葛木一族さえもアレは真似できないとまで言わせていたのだが、ある一件で葛木はその行動を一変させた。


 何の変哲もない鬼の討伐に葛木は芦屋と共に出向いていたのだが、そこで事件は起きた。探索を行う護りての一人が本気で戦う葛木の霊力の恐ろしさに敵と誤認して攻撃してしまったのだった。

 所詮は探索がメインの感知能力の高い若手の護りての攻撃だったため葛木自身は無傷、討伐も問題なく完了したが、問題は葛木に攻撃してしまった若手だった。自責の念と、葛木の恐ろしさがトラウマとなり前線に出られなくなってしまったのだった。

 勿論葛木が何をした訳でもなく、誰も責めることもなかったのだが、葛木が何も感じない訳ではなかった。それまでも鬼より怖い鬼上司とか鬼師範と言われてきているが、そこには親しみや尊敬があった。だが、今回は違った。


「あんな恐ろしい鬼のようなのが、護りての訳がありません!」


 15歳で護りてになり、18歳で当主の座に着いた葛木が初めて自分の能力は恐れらるものだと認識したのだった。

 その後も葛木は特に態度を変えることもなく、当主として護りてとして日々働き続けている中、芦屋はいつも何か言いたげに、でも何も言わずに葛木と共に常にいた。

 そんなある日、葛木は女装をして当主会議に現れた。四家の当主は絶句する中、如月玄一だけは呵々大笑して「似合うぞ」と言ってくれたと言う。その後、今に至るま葛木の女装は継続し、何なら美女ぶりが増してきてさえいる。

 討伐の際も霊力を抑えることを覚え、全ての一撃で瞬殺するようになり、威圧するような葛木を見ることはなくなった。


 そんな逸話を持つ葛木が、久々に人前で力を見せる。

 葛木の相手は葛木一族の若手の中の注目株である芦田満。護りての階級は「金」、ベテランと言われる「水」まであともう少しという立ち位置なので、葛木清一郎の敵ではない。

 だが芦田にとっては尊敬する一族の当主との試合は非常に貴重な機会だ。悠然とゆったり歩いて自分の正面に立つ一見類まれな美女にしか人物の恐ろしさは身に染みて分かっているが、同時に楽しみで仕方がなかった。


「あらぁ、そんなにアタシとの対戦が楽しみ?」

「勿論です!若輩の身ですが、精一杯全力でやらせていただきます!」

「ふふ、いい眼ね。うん、この試合も糧にして更に成長しなさい」


 そう言って嬉しそうに葛木も微笑む。

 如月当主の号令と共に芦田は刀を抜き、今回はちゃんと構える。葛木相手に相手を誘うのは無理なので自分から攻撃をするつもりだ。

 何より、葛木は真剣ではなく木刀だ。それだけの実力差があると示しているのだ。


「起動、加重」


 初っ端から方何風を纏わせる。しかも風を重ねて、刀全体が発光するように風が渦巻いているのが見える。

 芦田は1回戦は攻撃に術を使ったが、今回は攻防一体で風の術を使っていた。

 1つは遠距離攻撃、2つ目は切れ味上昇、そして3つ目として受け流しとして盾のように。


 術をかけると共に葛木に切りかかるが、葛木は微笑んだまま木刀も構えない。

 芦田の刀を片手でいなしつつ、芦田が更に何を仕掛けてくるのか待っていた。


 芦田としても想定内ではあるとは言え、片手で武器も使わずいなされるのは悔しい。

 だがまだ手は残している。


分け身(わけみ)


 3人に増えた芦田は同時に術を展開したが、葛木は炎の矢を避けつつ足元のトラップを踏みつけ解除し、危なげなく対処していたが不意に背後に巨大な鬼が現れ葛木を背中から襲い掛かった。

 間一髪で避け、木刀で反撃で切り払い、牽制を行いながら体制を立て直そうと距離をとるのと同時に、芦田の援護で炎の矢が鬼を縫い止めた。葛木はその一瞬に周りを見渡すが動揺する周囲に異変は見当たらない。芦田のとっさの判断に助けられたのは嬉しい誤算だ。


「今のは良かったわぁ!」

「恐縮です!」

「それにしても、護りてが大勢いる所に鬼が来るなんてねぇ?

 芦田、思い上がっていると思わない?」

「はっ!」

「とはいえ、ここにこのタイミングで現れてくれたんですもの。

 遊んで差し上げて?あなたなら余裕でしょう?」

「承知しました。即座に排除します」


 分身が食い止めていた鬼に芦田が音もなく歩み寄ると居合で一閃、アッサリと首を落とし、更に分身が首と胴どちらも焼き尽くした。

 余りに呆気ない最後だったが、葛木の表情は険しいまま周囲を警戒していた。


 舞台上は何事もなくおさまったが、物部は調査と確認で慌ただしくしていた。

 そして、未だに微動だにしない葛木がすっと動きだすと、徐ろに木刀を舞台に突き刺した。


「イギャアアアアアア」


 絶叫に紗雪と幸江は思わず身が竦むが、葛木の表情はやっと和らいだ。


「物部」

「感謝する!!」


 複数の護りてで葛木の刺した辺りを多重結界で囲み、凝縮して捉えた。引きずり出されたモノは結界内で黒く蠢いていたが、距離のある紗雪からは良く分からなかった。


「これでもう大丈夫そうねぇ。芦田、待たせたわね」

「いえ、当主はどうぞこのまま調査に。元より自分に勝ち目は無いので、如月当主様この試合は我等が当主、葛木清一郎の勝ちで宣言をお願いします」

「あら、いいの?」

「はい!今度出来れば稽古をつけていただけると有難く!」

「その位ならお安いご用よぉ。次の休みを湊に伝えておくからスケジュールを入れておいてね?」

「ありがとうございます!」


 主従であり、師弟の会話をしつつ舞台を降りる2人に如月玄一は葛木清一郎の勝利を宣言した。

 だが、如月玄一の表情は険しいまま、葛木が木刀を刺した場所を睨むように見ていた。

読んでいただきありがとうございます。


スピード感のある戦闘、難しいですね。

葛木をもっと暴れさせようと思っていたのに、芦田が頑張っちゃいました。

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