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 第4試合は神崎昂大と甘楽一成の対戦は非常に緊迫感をもって始まった。

 どちらも多様な術を使う護りて同士、その手の内は知っていても何を使ってくるのかは分からないため、一瞬の動きも見逃すまいと緊張感が漂っていた。


「ふん、このオレの相手が九十九の双子でもなくお前如きとはな……」

「……」

「おい、木偶の坊。先手は譲ってやる、仕掛けてこい」


 明らかに反撃でこちらを捩じ伏せる気なのが見え見えだが、甘楽は敢えて乗ることにした。


「……では、お言葉に甘えて。倒れないで下さいね?」

「貴様」


 ちょっと煽れば食い付いて来たが、まだ冷静だ、上手くやらなければ。

 走り出した甘楽は神崎に複数のクナイのようなものを投げつけ、避けられるのを前提で2回目、そしてタイムラグをおいて3回目が神崎の頭上から降る。


 3回目を予期していなかったため、危うい所で神崎はギリギリ躱すが、頬や袖を少し切られたのに、怒りではなく笑んだ。


「へぇ、お前やるなぁ。ちょっと面白くなってきた…… 今度はオレから行こう。」


 先程の甘楽と同じように走りよりながらクナイを投げ、危なげなく躱した甘楽と切り結ぶ。ふと、甘楽は背後から術を感知し、前方に回避すると雷を纏ったクナイが神崎の目の前で止まり背後に浮かぶ。

 僅かに雷を受けたのか、左手に痺れを感じるが、表情も変えず甘楽は臨戦態勢のまま神崎と向き合う。


「いいねぇ〜 さあ、どんどん行くぞ!」


 楽しげに嗤う神崎は複数の人形(ヒトガタ)を使い、式神で自分の5体の分身を作り、分身たちが甘楽をクナイで攻撃を始める。

 数が多いから、先ずは減らさねばと呪符で2体焼き払うが、四方八方からクナイがまだ飛んでくる。お互いに式神を増やしたり、焼き払ったりの攻防が続く中、少しずつ甘楽が攻撃を受けることが増え、細かな傷が増えて行く。

 雷による痺れや、一瞬の硬直が更に甘楽の傷を増やし、ジリジリと追い詰めていく中、ようやく甘楽の術も完成する。


「風」


 小さな一言が生んだ結果は劇的だった。甘楽と神崎を中心とした狭い円は渦巻く風に囲まれた。

 鋭い風は触れる者を刻むため、中にいる者も外にいる者も触れられない。2人は竜巻の中心にいる状態となり、どちらの式神も入ってこれなくなった。


「へえ?お前意外と根性あるな。コレは予想外だったけど、惜しいなぁ……」

「ほざけ」


 話しながらも2人はお互いクナイと小刀で渡り合っている。どちらも刃を潰していない真剣なので一歩間違えれば死ぬまで行かなくとも大けがは間違いない。


「ふん。格の違いを見せてやるよ。……四連華(しれんか)、燃え上がれ」


 竜巻の外、神崎の分身たちは一斉に印を結ぶと共に巨大な炎の柱となり、4つの炎柱が竜巻と混ざり合い、いっそう激しく燃えると嘘のように消えていった。


「うそ、だろ……」


 唖然と甘楽が呟くのも無理からぬ状態だった。


「あのまま自滅技にしちゃえば、どちらもダウンで引き分けだったのにな」


 神崎にはまだまだ余裕があるのが見えるが、甘楽は既に手持ちの道具も大分使い果たし満身創痍だった。流石に次期当主と言われるだけの実力の持ち主だった。手の内は多少は引き出せたが、まだまだ底が見えない。


「自分の負けです」

「うん、潔いのは美点だ。だが、鬼相手では悪手なのは、言うまでもないな。」

「はい、勉強になりました。」

「お前はもっと伸びるよ、だから、もっと泥臭くあがけよ。オレたちの世界は最後に生き残った奴が正しいんだ。

 あの双子が大事なら、お前が肉盾になれよ。今のままじゃ盾にすらならねえぞ?」


 まさかのアドバイスと忠告に、甘楽は驚きと感謝、恥、様々な感情で言葉が出なかった。その代わりに、低く頭を下げる。

 如月当主による神崎の勝利宣言が行われ、神崎がステージを降りるまで。

 甘楽は決して驕っていた訳でも、修行をさぼってきた訳でもなかったが、まだ考えが甘いのだと思い知らされた。2年後に総決戦があるとは通達されていたが、現実味がなかったのは事実だ。

 だが、今それが分かった。今から死に物狂いで鍛えるしかない、大事な主人を守るために。


 九十九の元へ戻ると、悠斗と蓮斗の2人が迎えてくれた。


「晃、お疲れ様」

「粘ったな」

「でも、足りませんでした……」

「俺も、俺たちも、まだまだ甘かったな。レクリエーション気分だったよ。」

「……悠斗、悪い。オレ、あいつに勝てる気がしねぇ」

「俺たち2人で行って、張り合えるかどうか、だな。はあ、やれるだけやるしかないな」

「あー……アレか?」

「アレだ」

「……?っ?!まさか、ダメですよ!!当主に禁じられているでしょう!」

「だって、それしか手がないもんなー」「なー」



 そんなこんなで賑やかな九十九はさておき、第1回戦最後の5試合目は始まろうとしていた。

 葛木側からは芦田満、神崎からは崎口圭吾。この2人は今までの護りてと違い、どちらも刀を差していた。


「あっ…… でも、違う……」


 そう小さく呟いた紗雪をそっと盗み見しつつ、隼は葛木清一郎が未だに姿を見せないのが気になっていたが、卜部当主である父が何も言わないので紗雪や幸江に気付かれないよう、そっと席を外した。


 葛木側に向かうとすぐに芦屋湊が目に入り、会釈をすると湊の方から来てくれた。


「何かございましたか?」

「いえ、あの葛木清一郎さんがいらっしゃらないので、何かあったのかと……」

「いえいえ、清一郎様は単に集中するために席を外しているだけですよ。」

「そう、なのですか……?」


「ええ」とにこやかに答える湊からは何も伺えないが、葛木清一郎の実力からすればこの武術大会はさして厳しくもないはずだというのが隼の見立てだった。

 何故ならば、あくまでも紗雪のパートナーを見極めるための武術大会なので若手が多く、ベテラン等の各家のトップ陣はほぼ参加してなく、唯一が葛木なのだ。


「ご安心ください。次の試合が終わりましたら清一郎様が皆様を水卜ご一家の所までご案内しますよ。」

「わかり……ました。すみません、こんな時に。」

「いえいえ、清一郎様は万全を期して臨む方なのです。獅子は兎を狩るのも全力だと言いますでしょう?」

「そうですね。紗雪の家族を、よろしくお願いします。」

「畏まりました。」

「それでは、自分は戻ります。お邪魔しました。」


 5試合目が始まったようで、歓声が上がる中、隼は弟妹の元へと急いでいた。

 あの葛木清一郎なのだから、きっと問題はないのだろうと。また仮に問題あった場合、自分は兄として紗雪を守る盾にならねばと密かに決意して。


 そんな隼を見送りつつ、湊のため息はひたすらに重い。


「ぎりぎり……間に合いそうですが、本当にぎりぎりですね。全く、清一郎様も有希姫様も……」


 そう、一人愚痴る湊からは冷気のような霊力の圧が満ちているため、葛木陣営にいる面子は一族の2番手の実力を誇る湊の怒りに触れぬようそっと息を潜めていた。「オレは壁」とか「頼むこっち見ないでください」とか思っているのは、湊にバレバレではある。

 そこで八つ当たりしない分、清一郎より大人なのだが、その分ストレスの原因である清一郎本人には嫌味を返しまくるらしい。

読んでいただきありがとうございます。

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