鬱になったので勇者を辞めることになりました
勇者として活躍していた青年、エリックは、ある日突然鬱病にかかってしまった。彼は自分の弱さに苦しみ、何もかもがうまくいかない日々を送っていた。
勇者が鬱になった時、一番苦しんだのは自分自身への失望と無力感だった。かつては強く勇敢であった自分が、突然抑うつ症状に襲われ、何もできない状況に置かれたことが彼を苦しめた。
エリックは自分を責め、弱い自分を受け入れられないでいた。また、仲間たちに迷惑をかけてしまうことへの罪悪感も彼を苦しめた。自分の力を信じられないまま、未来に希望を見出すことが難しい状況に陥った勇者は、苦しい日々を送っていたのだった。
鬱になった勇者が国から迫害されるという状況は、彼にとってさらなる苦しみをもたらすことになった。勇者はかつては英雄として称えられていたが、鬱になったことでその姿が変わり、国民からは理解されずに孤立してしまった。
鬱になり、以前の強さを発揮出来ないエリックは国から迫害される。国から迫害されたエリックは、自分の弱さや病気を隠すことができず、差別や偏見に苦しむことになった。彼は過去の栄光とはかけ離れた姿で見られ、孤独な戦いを強いられることになった。
しかし、仲間たちは勇者を支え、共に立ち上がって国の迫害に立ち向かう決意を固める。少しづつだがレオは自分の過去や病気を乗り越え、仲間たちとともに再び立ち上がる勇気を取り戻していくのだった。
仲間たちとともに生活する中、エリックは新たな目標を見つける。彼は勇者としての過去を乗り越え、今は仲間たちと共に、平凡ながらも幸せな日々を過ごすことを決意するのだった。
全文
ある日、世界中で称賛された勇者、エリックは突然の鬱病に襲われた。彼は以前のような輝く姿を失い、心に暗い影が差し込んでいた。
エリックは朝目覚めることさえ辛く、自分の存在価値を見失ってしまった。かつての勇敢な姿とはかけ離れた、無気力な日々が彼を襲い、心の底からの絶望に包まれる。
彼は人々の期待に応えることができず、自分を責める日々を送っていた。友人や仲間たちにも心を開けず、孤独な戦いを強いられる中、彼は自分の内面と向き合うことの難しさに苦しんでいた。
エリックの心は重く、暗闇に包まれたままであった。果たして、彼はこの苦難を乗り越え、再び光を取り戻すことができるのだろうか。
1章 鬱になったので勇者辞めることになりました
概略
よく人生は競技に例えられる。長い距離を走り時間を競うもの、王族の前での模擬戦。厳しい修練、周囲の人々のサポートの上に達成される栄光や挫折は確かに人生に似た側面を持っている。そこから学べることも多い。それでも両者には大きな隔たりがある。ひとつは競技にはルールがあること。もう一つは競技にはゴールがあること。
英雄はなるよりも、外から眺めている時が一番幸せなのかもしれない。
かなしい景色には何の色味も無く、ただ毎日が今日も降り注ぐ。
夜に眠れなくなったのはいつからだろう。
エリックは部屋の天井を見ながら考えていた。カーテンが夜も昼も閉じたままの部屋は少しカビた匂いがする。なんとか清潔に保っていられるのは毎日掃除をしてくれる王族付きの女中達のおかげだ。
「エリック様朝食が出来ております。」
女中長のエレーンが澄んだ声で
魔王を討伐し、英雄として祭り上げられた。
人々の模範となるよう行動し、人々に愛されるように気を配った。
魔王討伐の際の仲間達は自らの祖国へ帰り、自分は王都に残ることに決めた。そこに自分の意思は無かった。生まれて直ぐに両親を亡くし、孤児院で育てられたエリックには帰る場所がなかったからだ。孤児院にいたころ、特別な力があると分かった時の周りの大人や子供達の排他的な目は今でも忘れられない。国をも滅ぼしかねない力、周りの人々を傷つけてしまうかもしれない力、ただ幼いエリックにはそれは自分ではどうにも出来ないことだった。
騎士団の指揮と、教会での演説。町の人々との交流。
平穏な日々なのだろう。それでも心の何処かに風が吹いているようだった。そしていつからか風の音は、自分に語りかけるようになっていた。お前は英雄などと呼ばれる資格はない。
そんな中、魔族に新しい魔王が生まれたとの噂が広まった。王都への影響はまだ無いが、辺境の村では魔族の被害が出ているという。
王からの勅命は直ぐにエリックに届いた。仲間を招集して、新しい魔王を討伐するためである。
ただ、エリックは王に対して「まず自分が一人で見極めてきます。私が仲間と共に魔族の領土へ向かったとなれば、大きな戦になることは避けられない。新しい魔王が生まれたという確証を掴んでから仲間を招集するべきです。」そう言い放った。
なんのことはない。あいつらは今の自分を見たら直ぐに何かに気づくだろう。心に吹く風を、今の自分をただ見せたくなかった。それだけのことだった。責任感というものが自分にあるか分からない、それよりも自責の念が強く押しかかっていた。
エリックが初めて自分には他の人々とは違う力があると気づいたのは、孤児院に旅の魔法使いが来た時だった。
魔法使いは簡単な魔法や、身体強化等のギフトと呼ばれる力について孤児院の子供達に説明した。
孤児院は本堂と表の庭、そして自分達が野菜等を栽培している裏の畑に区画が分かれていた。
表の庭で10人くらいだったろうか、孤児院の子供達を集めてギフトについて説明した。
ギフトは人間だけに与えられた力では無く、本来生きている者達全てが持っていること。それは目に見えない精霊と呼ばれるものを媒介として、自然に漂っているエネルギーの方向性を決めること。木が成熟することも、人が成長することも、このエネルギーが作用している。そんなことを魔法使いは説明した。
エリックは疑問に思っていた。目に見えない精霊?それでは昔から自分に話しかけてくる彼らは一体なんなのだと。
幼くまだ記憶も曖昧だった頃、母親に「この家に不吉な出来事が起こるからこの場所から離れた方がいい」と話す声が聞こえると話したことがあった。
母親(エリックの本当の母親ではなかったことは、父と母が亡くなった時に聞かされた)はエリックに気持ちが悪いと言い放ち、箒で何度もエリックを叩いた。結果声の言う通り、家は放火で全焼した。エリックはたまたま外に出ており、戻った時には両親も家も全て燃えていた。あの時の鼻をつく匂いはまだ記憶の片隅に残っている。
それ以来、エリックは聞こえる声、そしてその声は次第に光を帯びたホタルのように見えるようになったが、それらを無視することにしていた。
自分が変なのだろう。この何か分からないもののせいで両親は亡くなったのだ。