表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

7 私達の決断


ミアはしっかりと前を向き、自分の気持ちを口にする。


「私は、自分がこれからどうしたいのかも、

まだ決められていません。

もっとしっかり考えたいのです。

ダニエル様のご希望に沿う事は出来かねますので、

婚約のお話は白紙に戻して下さい」



「……私はミアと一緒にいたいんだ」

諦めたくないとダニエルが苦しげに言う。



ミアは考える。


ミアはダニエルに、

無理やり受け入れて欲しいわけではない。

ミアも説得してまで一緒に居たいか?と聴かれると

「無い」と言い切れる。



セオと話していてわかったことだ。


自然とお互いを認め合えて、

一緒にいるだけで楽しい人というのは必ずいる。

そしてそんな人と巡り会える事は奇跡だ。



ダニエルにも、彼の考え方を知った上で、

上手く付き合える相手がいるかもしれない。


(私には難しかったけれど…)


無理に自分を変えるのではなく、

そういう人と出会って欲しい。




私もダニエルも、自由に生きて幸せになるべきだ。


「このままでは二人とも幸せにはなれません。

無理に一緒にいても、お互い苦しむだけです」


彼が、悪い人ではないのはわかっている。


友人でいた時は、気楽な関係だった。

関係が変わって距離が近くなったから、

居心地が悪くなったのだ。




するとダニエルが唇を噛んで、黙り込んだ。



そしてミアに問いかける。

「あの平民の男と一緒になる気なのか?」




ミアは急にセオの話になって驚いたが、

ふむ…と考えてみることにした。


(私はセオのことを、どう思っているんだろう?)



今は『良い友人同士』という関係であり、

『これからどうなりたいのか?』と訊かれても、

まだハッキリとした答えを持っていない。


それよりも、お菓子作りの腕をあげて仕事にするという

『夢』で頭がいっぱいだ。


ただ…セオと一緒にいると、

とても温かい気持ちになるのはわかっている。

これから私達の関係は変わっていくのかもしれない。



「先のことは分かりませんが、

セオの事は良い友人だと好意は持っているので…

可能性が無いとは言えません。

まあ相手の気持ちも必要なので何とも…」




ダニエルは傷ついた様な顔をして、大声で言い放つ。


「あんな平民と一緒になっても、この先高が知れてる!

生活の質も下がるだろう!

それに君は貴族として生きてきて…それを捨てて、

平民などと一緒に生きていけるのか?」



やたらと噛みつきますね…

先の事は分からないというのに…。

しかも平民を悪く言って。


「それは…やってみなければ分かりませんが、

まあその時はそれなりにやっていくつもりです」


(平民?どんとこいですよ!前世の記憶のおかげで、

平民の暮らしだって何とかやっていけそうです)


そうです。私は転生者です。


ちなみに小さい頃からエミリーと恋愛小説を嗜み、

『推し』やら『萌え』やらを布教しちゃったのは私です。




ダニエルは、彼の両親によって、

これ以上の発言を止められる。


そしてダニエルのお母様とエミリーが、

部屋からダニエルを連れて出て行った。





そのあと、両家で話し合われた。


ダニエルも冷静さを取り戻しており、

申し訳なさそうな顔をしている。


父達も、二人を無理やり婚約させたかった訳ではないので

理解してくれた。


そして私達の婚約の話は、白紙に戻された。



場違いにエミリーの明るい声が響く。


「お兄様、これから頑張って下さいね!

私のお友達を紹介して差し上げますわ!」


ダニエルがジトッとした視線をエミリーに向ける。


兄妹の仲の良さが窺える。

微笑ましくて、みんなからも笑みがこぼれた。




ミアは、ダニエルを真っ直ぐに見た。


「ダニエル様、これまでありがとうございました。

これから私、いろいろと頑張ってみるつもりです。

ダニエル様もお体に気をつけて頑張って下さいね」


(まずはお菓子作りの修行からかしら?)


これからの期待が膨らみ、自然と顔が綻んだ。



ダニエルは一瞬目を見張ったが、

ふ…と軽く息を吐き、すぐに表情を戻した。


「…ああ。色々と…すまなかった。さっきも。

…君も…頑張って…」


ダニエルは謝罪した後、

少し不本意そうではあったが…それでも応援してくれた。



私達は、それぞれの道を歩んでいく事を決めた。



***



婚約話も落ち着いたので、久しぶりにセオに会いにきた。



報告すると、セオは口元に手を当てて

「はあ〜」とひと息ついてから話し始める。


「…じゃあ卒業後の婚約話は、白紙になったのか…」



「そうなの。

だから卒業したら、お菓子作りの腕を鍛えようと思って。

もっと上手くなってレパートリーが増えれば、

お店で雇ってもらえると思わない?」


楽しみすぎて、今からワクワクが止まらない。



セオは難しい顔をして考え込むと

「あ〜どうだろうな〜」と、ためらいがちに言う。



「え〜やっぱり難しいかしら?」 


(もしかして考えが甘かった?)

ミアは不安になった。



そこでセオがポンと手を打ち、

とても嬉しい提案をしてくれた。


「……手始めに、ウチの店で客に提供してみれば?

うちの両親もミアの菓子食べて、イケるって言ってたし」



「え!いいの?

じゃあ好評なら、お持ち帰り用のお菓子とかも

置かせてもらえるかも…よね?」


ミアは期待に目を輝かせる。



「ああ、そうだな」

そう言って、セオは頑張れ!と笑った。


ミアも満面の笑みでお礼を言う。


「ありがとう!セオ!」




そのまま二人で、提供するお菓子の話に花を咲かす。



セオは終始やさしく微笑んでいたが…


『巡って来たチャンスを、絶対に逃すつもりはない』と、


彼の目は獲物を狙う捕食者のソレだった。





お店の窓の外から、

コッソリと中の様子を窺う人影が…三つ。

エミリー、オスカー…とあと一人。


セオの妹ルーシーだ。


だいぶ前に覗きをしていたのがルーシーに見つかってから、

エミリーとルーシーは友人関係だ。

同い年で気も合う。


ルーシーも、ミアと兄の事が気になり

コソコソ見ていたそうだ。


今は二人で、『セオとミアの恋』の応援をしている。


「やるわね、セオ兄さん。

さらっとミアさんを繋ぎ止めたわ!」


「さすがはセオ様!

もうお姉様を逃さないという目ですわね!うふふ」


オスカーは姉が大事なので、

姉を大切にしてくれる相手なら誰が結婚相手でも構わない。

二人の楽しそうな様子を眺めながら、

次回作の下書きを書き進めた。


「ああ、これからどうなるのかしら?

楽しみすぎて、目が離せなーい!」


エミリーとルーシーは仲良く顔を見合わせ、

声を潜めて叫んだのだった。




☆読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ