5 ミアの誕生日
特に私の父は真面目なダニエルを気に入っている。
お祭りに行った日から、
ダニエルに期待することは諦めたが、
両親達にどう言えばわかってもらえるだろうか…。
そんな時だ。
弟のオスカーが話があると、
私の部屋にやって来たのは…。
*
ちょうどその頃、私は18歳になった。
今日は前々から予定されていた、
私の誕生日パーティーが開かれている。
参加者は、両親たちと、ダニエルの妹エミリー、
私の弟のオスカーだけなので、とても気楽だ。
私とダニエルは同い年だが、
私達よりエミリーは2歳、オスカーは3歳下で、
彼らはひとつ違いだ。
ダニエルがプレゼントを持ってきてくれた。
「ミア、お誕生日おめでとう。これ、プレゼント」
渡されたプレゼントを受け取り、ミアは笑顔を作る。
「ありがとうございます」
「役に立つものが良いと思って選んだ。
これなら役に立つだろう」
シンプルな筆記用具やノートのセットだ。
…確かにありがたい。無難だ。
婚約する気が無いミアは、
アクセサリーなどをもらうと…とても困る。
どうするべきか…と悩まなくてはならなくなるからだ。
*
パーティーは和やかな雰囲気で、
食事もとても美味しかった。
私はピアノの発表をする予定だったので、
頃合いを見計らい、
ピアノへ向かってゆっくりと歩き出した。
すると途中で、ダニエルに引き止められる。
「ミスしないように、
落ち着いて弾くんだよ?頑張って!」
「……はい」
(気楽に弾くつもりだったのに…)
プレッシャーをかけられたからか、
何だか急に弾きにくくなった。
結局…最後まで楽しく弾くことは出来ず、
二カ所ほどミスもしてしまった。
それでもみんな笑顔で拍手をしてくれる。
ずっとモヤモヤした気分のままだったが、
雑念を振り払い、私は笑顔で礼をした。
席に戻ると、またダニエルに捕まる。
「惜しかったね、ミア。
もう少し練習を頑張っていれば、良かったんじゃない?」
「……そうですね」
「頑張ります」とは言いたくない気分だったので、
そのままお菓子を取りに向かった。
*
(なんで?)
来なくていいのにダニエルがついてくる。
パーティーのお菓子のいくつかは私の手作りだ。
クッキーやパウンドケーキなど
作るのが簡単な物だけだが、
お菓子を作るのは趣味なのでとても楽しかった。
向かいのテーブルではお互いの母達も
「ミアが作った」と話しながら、
私の自信作のお菓子を食べている。
ドライフルーツをたくさん入れて焼いた、
贅沢パウンドケーキだ。
私も食べようと思って、パウンドケーキを取り皿に取る。
すると母達の話を聞いていたダニエルが
「ミアは使用人のように菓子を作っているのか?」と
訊いてくる。
「……はい。趣味なので」
ダニエルの表情がくもる。
「君はそそっかしいし、火傷をしたりケガをしそうだ。
心配だから、今後控えて欲しい」
「……」
「それにプロが作った方が美味しいしな」
「……」
(何でもかんでも、自分の物差しでダメと言うんだな…)
もう何も思わなかった。
その時、タイミング良く母が呼んでくれる。
「ミア〜!ちょっとこちらへ来て〜」
母達のそばにはエミリーやオスカーもいて、
手を振ってくれていた。
「…はーい」
そのまま、ダニエルのそばを離れた。
***
次の休日「はい、これ」と、セオに手渡される。
「?何?」
急でビックリして、目をパチパチさせる。
「誕生日のプレゼント」
「えっ!覚えててくれたの?」
「まあな、気に入ってもらえると良いけど…」
受け取ったプレゼントを、ワクワクしながら開けてみる。
「これ!私が前に欲しいって言ってた
『クッキーの抜き型』じゃない?売ってたの?」
丸や四角しか無いので、
ハートや星など可愛い形の抜き型が欲しくて…
ずっと探していたのだ!
でも売っているお店が無かった。
「合ってる?」
セオが自信なさそうに訊いてくる。
「うん!これこれ」
私はハートの抜き型を持ちあげて確認しながら言う。
「良かった〜。
俺も探してみたけど売ってなくて、
知り合いに頼んで一緒に作ってもらった」
「え!」
(オーダーメイド?)
「もっと凄い物やれたら良かったんだけど…」
セオが苦笑しながら言うので、
前のめりになってハッキリと言った。
この喜びがちゃんとセオに伝わって欲しい!
「これがいいよ!
私の大切な趣味の道具なんだもの!
しかも売ってないのよ?これは私の宝物決定よ!!」
「ふ…そっか。それは良かった」
セオが安心したように笑う。
自慢して回りたいほど嬉しすぎて、私も笑顔になった。
そしてふと思い出して、カバンから袋を取り出す。
「これ、作ったんだけど、食べる?」
手作りのクッキーだ。今日のはチョコとナッツ入り。
「え?いいの?ずっと食べて見たかったんだよ」
セオが袋を受け取って、クッキーを眺める。
「そうなの?言ってくれれば良かったのに」
「サンキュー」
ガサガサと包みを開き、パクッと食べる。
そして目を見張った後、パァっと笑顔になった。
「うま!これすごく上手いよ!
店のやつより美味しいんじゃないか?」
「……ええ?そうかな?
…プロには敵わないだろうけど嬉しい」
誰かに認めてもらえるってやっぱり嬉しい…
泣きそう、どんどん視界がにじんでくる。
いや、泣いちゃダメ、泣いたら変だ。
涙をこらえて笑う。
「また何か作って持ってきたら、もらってくれる?」
「いいの?」
セオが食い気味に訊いてくる。
「うん、たくさん作るし、食べてくれたら嬉しい。
アドバイスも欲しいし」
「こんなに美味いのにアドバイスいる?」
セオはスルスルと嬉しい事を言ってくれる。
しかも本気で言ってくれているのがわかるので、
すごく嬉しい。
「いろんなバリエーションが欲しいじゃない?
いろいろ提案してくれれば、
たくさんアイディアが浮かぶもの!」
「なるほど、料理と同じだな〜。わかるわ」
セオが、うんうんと頷く。
「じゃあ、また持ってくる!」
「ああ、楽しみにしてる」
セオと笑いあう。
ミアは、とても楽しい陽だまりのような時間を過ごした。