05.サプライズ準備
「サルビア様!フェリーチェ様がビックリされていますよ!?」
「あ…そうだね。すまないフェリ。」
シオンは慌てた顔で二人の間に割って入り父を宥める。
「お父様、ただいま戻りました。
少し驚きましたが大丈夫ですよ。ところで…すすだらけですが…お怪我はありませんか?」
もじゃ男もとい父が飛びついてきた時は流石に驚いたし竹刀を持っていたら叩き倒してしまいそうだったが、それも娘への愛ゆえと思うと可愛らしく感じられる。フェリーチェはその愛が疎ましかったようだが…
それより気になるのが目の前にいる記憶からは想像のつかない変わり果てた父の姿だ。
「あ……あぁ……あのフェリが私の心配を…うぅ…
大丈夫だよ。もうすぐ母さんの誕生日だろう?
高価な物は喜ばないから愛のあるプレゼントをしたくてね。料理をしてみたんだけど…何故か爆発してしまって…ハハ…」
フェリーチェの心配に嬉し涙をためながら燃え尽きたと言わんばかりに苦笑する父。
一体どうしたら爆発するのか疑問しか生まれないが、そういうことなら私も手伝えるだろうと思い立つ。
真白の頃は長い間一人暮らしだったため料理には少し自信があるのだ。
「お父様。実は私、最近料理に興味があり勉強中ですの。良かったら一緒に作ってもよろしいですか?」
(前世は家族愛に恵まれなかった…だからかな温かいフェリーチェの両親を見るとついつい応援したくなっちゃう。
そうだ!せっかくだからクッキーも作って驚かせよう)
瞬間サルビアの顔がパァっと明るくなる。
「本当かい!嬉しいよ。母さんたちが旅行中の間にレシピも決めたくてね。ありがとうフェリ。」
こうして三人はサプライズ料理の練習に取り掛かるのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
結論から言おう料理は完成した。味も見た目もなかなか自信がある。
しかし父の爆発の才能にはかなり驚かされる結果となった。
ウインナーに切込みを入れず炒め爆発、卵を温め爆発、たらこを膜ごと温め爆発などなど数々の爆発との戦いであった。
「ありがとうフェリ…当日はこのメニューで母さんを喜ばせよう…この細かいレシピ通りに調理すれば大丈夫だ…」
サルビアはゲッソリとした顔をしているが料理を眺める瞳は優しくこちらも嬉しくなる。
「はい…険しい道のりでしたが無事完成し良かったです。…あ!」
料理が完成したフェリーチェは同時進行で作成していたお菓子の存在を思い出す。
「あとお父様、こちらもお出ししてもよろしいですか。私の自信作なのです。」
それは真白の時によく作っていた甘さは控えめだが食感が美味しいクッキーだった。
「これは… すごく美味しいね!サクサクだ!
フェリにこんな才能があったなんて知らなかった。父さんは誇らしいよ〜」
真白として父に褒められた記憶がないため照れくささを覚えながらもサルビアの好反応に安堵する。
(楽しい…こんなに穏やかな食事はいつぶりだろう)
試作料理を囲みながら暫し幸せな食事タイムを過ごした後フェリーチェは父に挨拶し部屋に戻ることにした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「シオン今日は色々と手伝ってくれてありがとう!とても助かったわ。」
「いえ!私もフェリーチェ様や旦那様との料理とても楽しかったです。
それではまた明日。今日はゆっくりお休み下さいませ」
シオンは丁寧にお辞儀をして部屋を後にする。
部屋で一人になった途端、疲労感がどっと押し寄せベットに沈み込む。
(はぁ…今日は色々なことがあったな…
最初はどうしようかと思ったがフェリーチェの生活も悪くないかもしれない。)
あの優しい両親なら今後私を守ってくれるだろうし、王子と婚約が解消となっても無理やり嫁がされることもないだろう。
何よりお金持ちだから一生働かなくても暮らしていけそうだとフェリーチェは考える。流石に何もしないのは落ち着かないので働くとは思うのだが。
(意外にもここの使用人は年配者がほとんどだけど皆優しく暖かい目で私を見つめていたな…
あのフェリーチェのどこに愛される部分があったのかは不思議だが私としてはとても助かる。)
予想外の嬉しい出来事に安堵する
「…よ〜し修復だ〜……」
この調子で学園でも皆と良好な関係を築いてスローライフを勝ち取ろう!そうフェリーチェは改めて誓いながら訪れた睡魔に抗えず瞼を閉じるのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
(卵に粉砂糖…っと)
メモを用意し今日はシオンとクッキーに使用するアイシングの材料を街へ買い出しに行くこととなった。
ここマグノリアはサンスベリア王国の首都であることから街は賑わっておりどこも美味しそうな食材が並べられている。
「シオン!あのお店何かしら!あれも食べてみたいわ!」
「フェリーチェ様!そんなに先に行ってははぐれてしまいますよ!」
見慣れぬ料理が立ち並ぶ店舗はお祭りを思い出させフェリーチェは活気溢れる店舗に興味津々でテンションが上がりっぱなしだ。
中身が20過ぎた大人がはしゃぐのは大人気ないが好奇心がまさり身の振り方を考えるのはやめた。
「あれは……」
いくつかの店を訪れシオンを連れ回し食べ歩きをしていると遠くに身知った人物が目に入り思わず声をかける。
「クロッカス様…?」
「…フェリーチェ嬢。」
そこにはマントで姿を隠したクロッカスが立っていた。二人は驚いた顔で見つめ合う。
「今日はどうされたのですか?貴方はこういう場は苦手だと思っていましたが。」
沈黙を破ったのはクロッカスだ。
相変わらず何を考えているのか分からない目で見つめられたため毒でも仕込みに来たと疑っているのではないかと考えてしまう。
(まぁ、平民嫌いのフェリーチェがこんなところに来たら、よからぬ薬とかを買いに来たって思うのもわからなくもないかも〜…)
思わず苦笑いを浮かべながら、やましい事は一つもないため正直にことの成り行きを説明する。
「父と母へサプライズパーティーを開く計画を立てておりまして、そこに出すお菓子の材料を買いに来たのです。」
クロッカスは驚いた表情を浮かべる。
「ご家族のために?…」
(あ!フェリーチェは家族を避けていたんだった!)
急すぎる変化は逆に怪しさを引き上げてしまうことに今更ながら気づいたフェリーチェは目を泳がせる。
「さ、最近両親の大切さに気づいたのです!
………あ!」
言い終わるとフェリーチェの目が輝く。目線の先には先程売り切れと書いてあった美味しそうなお菓子が再度並べられていた。
(今日は食べられないと思ったのに…!!!)
「あのお菓子!先程売り切れだったのに在庫が追加されています!!美味しそうだと思いませんか??不思議な果物がのったシュークリームですよ!!」
キラキラした瞳で嬉しくなり熱弁するフェリーチェだったが背後からの衝撃にふらつく。
「…わ!!」
突如人混みに押され前に倒れ込みそうになる。
”転ける!”そう思いギュッと目を閉じると硬い板に支えられ転倒は避けられた。
「…むぅぅっ」
何が起きたのかと思い、ゆっくりと顔を上げると…
(……え?)
「今日の貴方はそそっかしいのですね」
クロッカスは瞬時にフェリーチェの体を支え吹き出すように笑う。
「…っ」
突然の笑顔にフェリーチェは固まる。その瞬間クロッカスも自分が何をしたのか気づき驚いてすぐに体を押し離す。
「っすみません!怪我をさせたら後が大変だと思いまして…今日はまだ用事が残っているので私は先に失礼します。
…周りには気をつけて」
そう言い残しクロッカスは早足で去っていく。
(な…な……なに……あの顔であの表情は反則では?)
……
その後、自身の顔に熱が集中しているのを感じながらシオンと買い物を済ませたフェリーチェは屋台を楽しみ帰ったのだが先程とは違いどこか上の空なのであった。
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