04.帰宅
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
・・・
(……私はバイ菌なのかもしれない)
そんなアホなことを考えるほどフェリーチェの頭は混乱しておりその顔には疲労感がにじみでていた。
今日一日慣れない環境なだけでも疲れたというのに周りの反応が気がかりで神経を使ってしまったのだ。
フェリーチェが廊下を歩くだけで道が開け、目線が合うだけで全力で逃げられる。人混みで肩がぶつかれば青い顔をした生徒が肩を床で拭いていた…もとい後ずさっていた。
…ごきげんよう、ありがとう、お怪我はありませんか、様々な言葉をかけたがきっと生徒たちの耳は恐怖で塞がっているのだろう。
(…はぁ…疲れたなぁ〜…)
いかにも悪役令嬢のようなことを経験し最後の催しが終わるや否やその場の雰囲気に耐えかねフェリーチェは避難した。
心の中では全力疾走だったが、その動きは実に優雅だったことにさすが美意識の高いフェリーチェだと苦笑する。
(よし…ここなら誰もいないでしょう…
はぁ〜おかしいな。今まで私が見てきた異世界モノは愛され主人公に転生したり、プレイ中のゲームの世界へ転生し、チートな記憶を駆使して俺TUEEEEを満喫する話ばかりでしたよー!)
そして現在、人気のない場所に到着した途端緊張の糸はきれ深いため息を吐く。
どうやら今日は学園の創設記念日を祝したパーティーだったようだ。
創立150年とキリの良い年ではあるが、そのためにパーティーを開くことに驚きを隠せない。しかし、金持ち学校の考えることはよく分からないものだと割り切ることにした。
それにパーティーで良かった点もある半日でこの疲労感だ。丸一日講義がない日でかえって良かった。
加えて明日は休日のため頭を整理するのにうってつけだとフェリーチェは考えるのだった。
(その間に全力で関係修復計画を練らねば…)
1日過ごす中でフェリーチェに関する記憶が少しずつ呼び起こされた。
この世界の常識について理解を深められたのは嬉しいが、正直感情は流れてこないためフェリーチェが何を考え今まで高慢な行動をとっていたのかは理解できない。何も考えていない可能性もあるが早く記憶が戻ることを願わずにはいられない。
うだうだ悩んでいても仕方がないのだが真白の人生、人の顔色を伺いながら目立たず密やかに過ごしてきたため荷が重い。まだ1日も経っていないというのにフェリーチェはお腹がキリキリ痛み出す気配がしたのだった。
(きっと今日は疲れて気絶するだろうから作戦会議は明日からにしよう…とりあえず家に帰ろうかな。)
フェリーチェはこの学園を家の馬車で行き来しておりそろそろ従者のシオンが待機している時間であったため校門に向かって歩を進める。
(それにしても広い学園だな…)
4分ほど歩くと身に覚えのある人影が目に留まる。
「シオン…お待たせ」
目の前の従者はフェリーチェの姿を見るやいなやくりっと大きな瞳を輝かせ急いでこちらに駆け寄り笑みを浮かべる。
「フェリーチェ様。本日もお疲れ様です。」
「…あ」
この世界に来て初めての人からの好意に安心感を抱く。
あの高慢なフェリーチェのことだ強く当たった日も少なくないだろうに…記憶にある彼女はいつもフェリーチェを尊重し大変良くしてくれていたことを思い出す。
「シオンもご苦労さま。いつも良くしてくれて、ありがとう。」
ついて出た感謝の言葉にシオンは信じられないとでも言うように目を見開き嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
(こんな些細な一言でこんなに喜んでいる。きっとフェリーチェは今まで一度も感謝を言葉にはしてこなかったのだろうな…)
これからお世話になった人に感謝を沢山伝えよう。フェリーチェは改めてそう思うのだった。
「オホンっ…馬車の準備は整っておりますが本日はどちらへ向かわれますか?」
口元を緩ませたシオンは、仕切り直しというように一度咳払いをし言葉を続ける。
(ふふ。シオンは可愛いな〜)
「今日は少し疲れてしまって…家にお願いできるかしら」
返事を聞くや否やシオンは一瞬驚いた顔をし目を泳がせた。
(??…私おかしなことでも言ったのかな)
「承知いたしました。」
しかし不思議な顔は一瞬ですぐに笑顔に戻り馬車に同行した。
(え、なに…まさかフェリーチェ…あなた家族とも不仲とは言わないわよね?家に帰りたがらない理由。それはきっと家族しかない…!!)
フェリーチェはシオンの異様な雰囲気に家までの道を緊張した面持ちで過ごすこととなってしまった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
…………
考え事をしていると いつの間にか自宅という名の宮殿に到着してしまった。
家の記憶が戻っていなければきっと腰を抜かしていただろう自宅を眺めながらハーっと息を吐く。
覚悟を決めた時ドアが開けられる…
__ガチャ
そこには予想外の景色が広がっていた…
「おかえりフェリ〜ちゃーーーーーーん♡」
「──────────はぇ??」
ドアを開けた途端、ヒビ割れた眼鏡をかけた、もじゃもじゃアフロが襲いかかってきた。そして何故か焦げ臭い。
あまりに突然の出来事に体は固まり変な声を漏らす。
瞬間家族の記憶が蘇った。
(あ、あぁ〜なるほどなるほど〜)
どうやらフェリーチェは妹たちとはかなり壁があったが両親からは一方的に愛されており関係は良好だ。
では何故帰宅を遅らせていたのか…理由は簡単だサルビア・ミラ・ランカスター。
この父の溺愛が重すぎ逃げたかったのだとフェリーチェは瞬時に理解した。