02.転生?
風にあおられフワッと髪が宙を舞う。
瞬間、視線の端にプラチナブロンドの美しい髪が映り込んできた。
(……!?)
睡眠時間確保のためにばっさり髪を切っていた真白からはありえない。そう、ありえない髪質が映り込んでいるのだ。
ドクンッ……
心臓が波打つのがわかった。自身の心音を感じながら嫌な予感は一つの可能性を導き出す。
そんなことはありえない。そう思いながらも一度芽生えた疑問は徐々に膨らみ広がっていく。
その髪はまるで先程流れ込んできたもう一人の記憶の主。”フェリーチェ・ミラ・ランカスター”まさにその人物と酷似していたから。
サーっと血の気が引くのがわかる。自身に起きている変化に理解が追いつかず勢いよく窓を見つめる。そこにはやはりフェリーチェが立っていた。
腕を動かしてみると窓に移る人物は訝しげな表情を浮かべながら同様に腕を動かす。
(っ!?…やっぱり私、フェリーチェになってるの?)
フェリーチェ、彼女は王家に次ぐ権力を持つランカスター家の長女。
財力と権力、そして美貌その全てを手にする令嬢だ。
普通に考えればスローライフを送れるであろう優良な転生先だ。しかし、その性格と今までの行いが大問題のため素直に喜べないのが現状だ。
(もしかして。これが広告でよく流れてくる異世界転生…)
漫画やアニメに関心はなかったが推しがアニオタであったことから真白も多少はファンタジーに理解がある。だが、自分の身に降りかかる日が来ようとは思いもしなかったため混乱する。
フェリーチェの記憶はまだ断片的にしか思い出せないがいくつか思い出すことに成功した記憶はどれも酷いものだった。
気に入らないことがあればカップを投げつけたり物にあたり癇癪を起こす、以前欲しい物が手に入らなかったときは商人を叩き、苛立った表情で周囲を罵倒していた。他にも言い出したらキリがないが、思い出す限りまったくいい所は見られない。
一体何人の恨みを買えば満足いくのか。悪事を思い出し頬がひきつる。
(全っ然…笑えないんですけどー!?
人も殴りすぎ!暴君かお前は暴君なのか。1つぐらい善行はないのか!?)
いくつもの悪行に嫌な汗が背中をつたう。
このままいると恨みで背後から刺されるのではないかと恐怖さえ感じる。
解決の糸口を見つけるためさらに思い出そうと努力したが何も浮かぶことは無かった。
(はぁ……)
思い出せないことを考えても仕方が無い。気持ちを切りかえ今も尚、嗚咽を漏らしている女性に視線を戻す。
彼女の名はジニア・ブラン、同じ学園に通う同級生だ。
確かジニアもフェリーチェが平手打ちをかました令嬢の一人だっただろう。
何故手を挙げたのか薄ぼんやりしか思い出せないがフェリーチェのことだ理由なく暴れて手を挙げた可能性も否めない。
(はぁ…考えただけで胃が痛くなりそう)
今までのワガママ放題を思うと正直このまま断罪されてもおかしくない流れでは?と思う。
権力があってもカバーするのに限界はあるものだ。
(これは謝罪して済む問題なの…?挽回できる気がしない。でも、せっかく生き返ったし、また不幸な目に合うのは避けたい…。)
自分の行く末を考えた結果やはり生き残るためには関係修復しかないという結論に思い至る。
残した爪痕は消えないが時間をかけて誠意を尽くせばいつか理解される日がくるかもしれない。
(そうよまだ時間はあるわ!
ここまで好感度底辺なら何をしても下がりはしないだろう…大丈夫!しり拭はあのハゲ上司で慣れているのよ…!)
とめどなく浮かぶ現状答えを導き出せない疑問に何とか蓋をする。拳を握りしめ気持ちを切り替えたその時……
「なんの騒ぎですか。」
突如野次馬たちの後ろから声が響く。
姿を見る前に誰なのか想像がついて冷や汗が出る。
今日の私が出した水分はきっとすごい量になっているだろう。
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