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01.見知らぬ地

………うるさい


__ 違う……こんなことがしたいんじゃあ…



…うるさい


___やめて……止まって……



「うるさいのよ!!!!!」



・・・・・・・パシッ…!!



…あ____



◇ ◆ ◇ ◆ ◇




乾いた音が室内に響きあたりが静まり返る。


(……え?)


ドレスやスーツに身を包んだ見知らぬ男女たちがチラチラとこちらの様子を伺っているなか


私、(あずさ) 真白(ましろ)はその中心に立ち困惑していた。


(ここはどこ…

………なんか空気重くないですか?)


さっきまで帰宅途中であったことは記憶しているがモヤがかかったように何も思い出せない。


周囲を見渡すがそこには見慣れぬ景色がただ広がっていた。


首が痛くなるほど高い天井、眩しいほど光を放つ大きなシャンデリア、繊細な作りの彫刻品、色鮮やかな花々が生けられたオシャレなテーブルの上には息を飲むほど豪華な料理がズラリと並べられている。


どこもやたら豪華な作りをしており小物ひとつにしても細部までこだわったデザインだ。


正直どれも高そうで私とは馴染みのないリッチな生活を覗いているような気分になる。


見慣れぬ贅沢に目を輝かせていると今更ながら自分の体がズシッと重いことに気づき視線を落とす。


(っ…私が着ているドレスすごく綺麗…)


青を基調とする落ち着いたデザインのマーメイドラインドレス。

華麗なスカート部分には小ぶりの宝石が散りばめられており動くと光に反射してキラキラと輝いている。


(私、いつの間にこんなドレスに着替えたの…?)


暫しおとぎ話のお姫様になったような夢心地でいると…



ガサッ



静寂を打ち消すように背後で音がする。


我に返り音のした方へ視線を向けると頬を押さえこちらを見つめる女性が座り込んでいた。


その瞳には怒りが滲み恐怖、軽蔑、諦め、悲しみ様々な感情が入り交じっている。普段味わうことの無い敵意にブルっと肩が震える。さっきまでの幸福感を打ち消すには十分すぎる衝撃に緊張が走り手汗が吹き出る。


(どうしよう〜…すごくお怒りだ…

こんな修羅場に登場させられても困るんですけど!?落ち着こう〜…)


深呼吸し、再度女性を見据える。

そこには大きな丸メガネに褐色の髪が特徴の女性がいた。


「えっと、大丈夫ですか?……ッ!!!!」


ずっとこちらを見つめピクリとも動かなくなった女性が心配になり手を差し伸べようとしたその時、反射的に両手で頭を押さえてしまうようなズキっと鋭い痛みが走る。


同時に様々な記憶が一瞬にして流れ込んできた。


(何これ!頭が割れそう…皇太子、聖女、婚約者?

…あぁ…これは私の記憶……と、誰かの記憶?映像…?)


自身が体験しているという感じではなく映像を見ているかのような、どこか第三者的な感じを含む記憶。


それはまるで映画を見ているような感覚だった。


激痛と共に ここへ来る以前の記憶を全て思い出し目を瞑る。


(そうだった。ここに来る前…。


あの日、私は生き甲斐だった推しのライブから帰る途中に事故に巻き込まれて……)


夕暮れ時、推しからのファンサを獲得し大優勝を果たした真白はすっかり浮かれきり鼻歌を歌いたがら帰宅していた。


明日もあのブラック企業に出勤かと思うと気が重いがライブの高揚感が残り今なら”なんでも出来る”そんなことを思えるほど幸福感に満たされていた。


「明日からも今日を糧に頑張ろう。Let’s貯金!Let’s推し活…!!」


次への期待を胸に明日からの生活に気合を入れ直していたその時、突如激しい地鳴りと共に揺れ始める。


(嘘…_______地震だ!!)


激しい揺れに歩くことも出来ずその場しゃがみこむ。咄嗟についた手の痛みがより現実をつきつけてくる。


一体何度の地震なのか、今まで体験したことの無い揺れに恐怖がどっと押し寄せる。



ガコッ…



「え?」



揺れが落ち着き始めた頃、少し前方の頭上から鈍い音と共に黒い何かが影を落とす。


運のないことに今は工事現場の隣を歩いていたのだ。


その場には私以外にももう1人。


今にも鉄骨の下敷きになりそうなおばあさんが震えながら空を見上げていた。


突然の出来事。周囲がスローモーションにみえ体が勝手に前へ動く。自分が下敷きになることなんて今は考える余裕もなく…真白は咄嗟におばあさんを横に押しやった。



「………グッ!」



直後凄まじい衝撃が背中に走りそこからの記憶はない。


あの衝撃にあの重さだ。恐らく私、真白の人生はそこで終わったのだろう。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇




ことの経緯を思い出すと妙に納得し受け入れることが出来た。


前の生に未練はないが、こんなに早く死んでしまうのならもっと贅沢をし好き勝手に生きればよかったと、社畜の人生を思い出し自嘲する。


「…なに…が…」


「…え?」


過去に思いを馳せていると震える声が耳に届く。


声の主は先程まで固まっていた女性だ。バッと立ち上がったと思ったら絶叫する。


「何が!そんなにおかしいのですか…!


貴方はいつも人を馬鹿にして…権力があれば何をしても許されるのですか…っ」


「…っ!」


堪えていた糸がプツッと切れたようにその瞳から次々と涙が溢れ始める。


(ひぃー!すみません!すみません…!)


「誤解です!あなたに笑ったのでは…」


急いで弁明をしようとするが、あまりの剣幕に上手く言葉が出てこない。予想外の反応にたじろいでいると…ふと疑問が湧いてくる。


(あれ…権力?いつも?

それ…私に向かって言っているの…?)


女性の怒声が響き渡る中、何かを知らせるかのように ひときわ強い風が吹き抜けるのだった。

この作品に、興味を持ち読んでくださりありがとうございます!

打ち切りなし、必ず完結まで投稿するのでよろしくお願いします。

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