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第9話 居候、いそう?

 エリステアとソフィアの願いに驚愕した明人は、額に手を当て、深く考え込むような仕草を取った。


(部屋は余ってるけどさ、女の人を二人も住まわせるとか、俺にはハードル高過ぎる。「寝る場所だけ提供しますよ」っていうならまだいいけど、それで収まらないな、きっと。食費とか水道代とか光熱費までは流石にカバーできない)


 下手に出ることなく、ただただ毅然とした態度で要求をする魔女。申し訳なさそうに頭を下げ、必死の思いを伝える聖剣士。そんな二人からの“お願い”。おまけに、このお願いには、「通常では有り得ない」という枕詞が付く。明人は今後の生活を鑑みて、極めて現実的な金銭面の問題に意識をやっている。


(二人には同情するけどさ。それでも、ただの大学生の俺に、そんなことは無理だ……)


 エリステアは、今やソフィアに力尽くで頭を下げさせられている。真剣さは充分に伝わっている。しかし、それを見ても明人は二人の要望を断る気でいた。そんな時、明人の視界にあるものが映った。


(何で、じいちゃんと目が合うかな)


 明人が見たものは、亡くなった祖父の仏壇と、そこに置かれた小さな遺影だった。優しい人柄がすぐに分かるような、明るい笑顔を振りまく老人。


『困ったときはお互い様だ。誰かに手を差し伸べてやれるような、心の強い人間になれ』


 明人の祖父が生前、常々口にしていた言葉。これが明人の脳内で繰り返される。遺影に浮かぶ祖父の顔も、「受け入れてやれ」と言っているように見えてしまう。明人は、いるはずのない祖父と対面でもしたかのような不思議な感覚で満たされた。


(そもそも、この二人。放っておいたら何をしでかすか分からない。ソフィアさんは何とかセーフかもしれないけど、エリステアさんは下手したら…………うん、ヤバいな)


 二人の異世界人は地球人と変わらない姿をしている。目立つ服装を変えれば、表面的には世間に溶け込むことはできるだろう。しかし、二人が持つであろう常識や倫理は通用しない。特にエリステアの浮世離れした物言いは、諍いを生みかねない。


(何かの拍子に魔法とか使ったら、大騒ぎになるだろうな)


 魔法中心で回っている異世界出身の二人。理屈は不明だが、こちらの世界でも魔法は使えてしまう。何らかの場面で咄嗟に魔法を使ってしまうことは簡単に予想できる。そうなると、世の中は大騒ぎになる。


(俺だって、違う世界へ放り出されたら不安だし、きっとその世界の人に助けを求めるだろうし)


「立場が入れ替わったとしたら?」と考えた場合、明人も彼女たちと同じく現地の人間に助けを求めることは簡単に想像できた。


『特に女の子には優しくしてやれ、明人。それが男っていうもんだ』


 明人の耳に、いないはずの祖父の声が届く。同じく、彼の教え。自分と年齢が大して変わらないくらいの女の子二人が目の前で頭を下げている。二人の願いを無下にし、女の子を見捨てるようなことをすれば、死んだ祖父に顔向けできない。何より、明人は自分自身を許せない。


 迷いを振り切って決意した明人は大きく息を吸い込むと、エリステアとソフィアに優しく語り掛けた。


「あ~、頭を上げて下さい」


 明人の声を聞いたエリステアとソフィアはゆっくり頭を上げた。


「仮にですけど、二人をこの家に住まわせるとして、この先、色々と不安なことが多いのが正直なところです。特に食費とか、食費とか、食費とか……。俺、ただの学生なんで、出来ることは限られてます。不自由な思いをさせることもあるかもしれないです。もしも、それでいいのなら、元の世界へ帰れるその日までここにいてくれても構いません」


 眉を上げ、困ったような表情を見せていた明人も、最後は、笑顔を見せた。


 エリステアもソフィアも、揃ってきょとんとした。二人とも無茶な願いを申し出ている自覚があった。目の前にいる異世界人の青年は、少しの葛藤の末に、そんな無茶を笑って受け入れたのだ。


「本当か?」

「い、いいのですか!? アサギリ殿!?」


 二人はお願いの無茶さ加減を自覚していた。それだけに明人の承諾を信じ切れないらしい。


「まあ、ここまで来たら、ね。『はい、さようなら』なんてできませんからね。それに――」

「それに?」

「いや、うん。これは内緒です」


「死んだじいちゃんに『助けてやれ』と言われた気がしたので」などと答えることを、恥ずかしく感じてしまった明人ははぐらかした。こうした気恥ずかしさを感じた時、明人は決まって大きな声を出す。


「と・に・か・く!! 二人とも、今日からウチに居候決定ってことで!!」

「あ、ありがとうございます!!」

「……世話になる」


 ソフィアは満面の笑みを浮かべ、明人に礼を述べている。そっけないように見えるエリステアも、目を閉じ、小さく頭を下げた。


「改めまして、ソフィア・アーク・ナギールです。これから、よろしくお願いします。」

「……エリステア・マウアーリだ」


 異世界人二人の二度目の自己紹介。エリステアの方はソフィアに触発されて何となくやったに過ぎないが、改めて名乗った二人。それに対して明人も再び自己紹介をする。


「浅桐明人です。違う世界、知らない環境で大変だと思いますけど、頑張りましょう」


 紆余曲折を経て、浅桐家に異世界の魔女と聖剣士という、極めて特殊な居候が浅桐家に住まうことになった。





いつもご覧いただきありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[良い点] とても楽しかったです! 魔女と聖剣士、面白い組み合わせですね。 この先、色んな事が起こりそうで楽しみです! [一言] ありがとうございます(*^^*)
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