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第8話 衣食住であります

「もしかしなくても、失敗? だ、駄目じゃん……」


 地面に倒れ込んでいるエリステアとソフィアを見て全身の力が抜けた明人だったが、二人をこのままにしておくのは不味いと思い、すぐさま彼女たちのもとへ駆け寄った。




 明人が呼び掛けたことでエリステアとソフィアは意識を取り戻した。明人の顔を見た二人の表情は驚愕の一色に染まっていた。同時に、帰還に失敗したことを悟り、絶望に満ちた表情も見せた。混乱する二人を宥めながら、明人は再び彼女たちを家に招いた。


「妾の仮説は正しかった。妾たちの魔法の衝突は再び世界の境界を破り、あの光の道を辿ることができていた。そこまでは何の問題も無かった」


 数時間前と同様に、魔法で身体の汚れを落とした二人は、何が起きたのか、明人に説明を始めた。


「ただ……」

「ただ?」

「妾たちの世界に辿り着く直前に、何かに阻まれ、跳ね返された。大きな障壁のような物があった!! あれさえ無ければ、帰還できた!!」


 イレギュラーな出来事によって帰還を妨げられ、悔しさが滲み出たエリステアは、拳をきつく握り、テーブルをガンと叩く。


「エリステア!」

「ふん!」


 感情的になったエリステアを諫めようとするソフィアだが、そんな彼女も不安げな表情を隠せていない。内心では酷く動揺していることが察せられる。


「申し訳ありません、アサギリ殿。正直なところ、私も驚いています。魔力量だけなら私とエリステアに差はありません。ですが、魔法の細かな技術や分析能力についてはエリステアの方が遥かに上です。私たち二人分の魔力に、エリステアの魔力制御と誘導があれば帰還は叶うはずでした。そう思っていました。しかし、結果は……」


 ソフィアは口を噤んだ。彼女なりにエリステアのことは認めているようで、信頼も置いている。そんな相手とともに臨んだ異世界への帰還は失敗した。これは紛れもない事実だ。自分たちの世界へ帰ることができないという、二人の悲哀や嘆きを推し量ることは、明人では難しい。


「アサギリアキト」

「は、はい!」


 エリステアが明人をフルネームで呼んだ。ソフィアと違い、エリステアは今まで明人を「お前」としか呼ばなかったが、この時、初めてエリステアは明人の名を口にした。


「あと一歩のところで帰還は失敗に終わった。妾の心は、悔しさで満ちている。だが、それ以上に、異世界の転移という事象に対する興味がとめどなく溢れてきているのも事実だ」


 エリステアは明人を真っ直ぐ見つめ、大きく息を吸った。


「今回の転移の失敗の原因は、あの得体の知れない障壁だ。この謎は必ず突き止める。いや、突き止めて見せよう。異世界転移の鍵を掴み取り、妾は妾のいた世界へ帰る。絶対にだ……!!」


 フレクシオ公国一の魔女と謳われるエリステア。彼女は研究者気質で、魔法への探究心が非常に強い。異世界転移という、稀有な事象への興味や関心が一気に膨れ上がった。新しい遊びを見つけた子どものような好奇心いっぱいの瞳を明人に向けている。転移失敗の悔しさや怒り、嘆きの感情は消えつつある。


「アサギリ殿。私もエリステアと同じく、私たちの世界への帰還を望んでいます。私に細かな魔法の理は分かりませんが、それでもエリステアを助けることくらいはできるでしょう。そのための協力を惜しむつもりはありません。もう一度、挑戦したいと思います」


 ソフィアは高い専門性を持つエリステアを支え、異世界転移の探究を手伝う意志がある。その根幹にはやはり、自分の世界へ戻りたいという思いが強くあるようだ。


「聖剣士である私と魔女であるエリステアが手を組めば、帰還への糸口は必ず掴めることでしょう」

「ただ、世界を越えるために必要なものがある」

「必要な物? それって一体?」


 明人はエリステアに訊ねる。


「……衣食住だ」

「へ?」

「衣! 食! 住だ!!」


 間の抜けた声で聞き返されたことが腹立たしかったのか、語気をやや強めるエリステア。彼女の迫力に明人は僅かに慄いた。


「我々が異世界転移の解明へ臨むこと。ただ、それをするなら、必然的にこの地に留まる必要がある訳でして……」

「そうなると、この世界で妾たちに生きるための手立てがない。食糧くらいはその辺りの生き物でも狩ればいいだろうが、やがて限界も来るだろう」

「ええっと、つまり?」


 何となく、二人が言いたいことを察した明人だったが、念のため、確認を取る。


「大変申し上げにくいのですが、私たちを――」

「この家に置いて欲しい」

(ああ、やっぱり!!)


 予想的中。明人は心の中で叫んだ。


「異世界人である我々に、いく当てなどはありません。自分勝手で迷惑なお願いをしていることは重々承知しています。しかし、今の状況で私とエリステアが頼ることができるのは、アサギリ殿しかいないのです!!」

「世界が変われば、人も国も、法も変わる。妾たち二人は、外に放り出されて上手く適応できる自信は無い!」

「いや、自信満々に自信無いって!?」


 切羽詰まった状況であることが、懇願するソフィアからひしひしと伝わる。一方で、開き直っているように見えるエリステアの発言に、明人は大きな声が出てしまった。





いつもご覧いただきありがとうございます!


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