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第4話 それって、魔法?

 二人の女性は大きな悲鳴を上げ、額を抑えてその場にうずくまった。明人が放ったデコピンは、不審な女性二人を沈黙させることに成功したのだ。彼は亡くなった祖父への思い入れの強い裏庭を滅茶苦茶にされつつあったことで怒り心頭だったのだ。


「これ以上暴れるようななら、もっと強いヤツ、行くぞ?」


 言葉が通じないはずだが、威圧感たっぷりの脅しとも言える明人の迫力は、言葉の壁を容易く越えて女性二人に伝わったらしい。二人とも借りてきた猫のように大人しくなった。


「で? アンタら、人の家で何してたの?」

「……#¥@=~‘*!」

「>*=:%“#$%&!!」

「うん、分かんない」


 不法侵入と乱闘の目的を問い質そうとするも、やはり、謎の言語を話す二人とは会話が成立しない。どうしたものかと明人が思案していると、銀髪の女性が不意に明人の頭の上に手をのせた。


「&%$#‘*+%’」

「え? 何?」


 デコピンの仕返しでもされるかと思い、明人はサッと身構えた。その次の瞬間、明人に猛烈な頭痛が襲い掛かる。


「うぐっ!!」


 痛みは一瞬だったが、その余韻は残る。明人は「何するんだ、コノヤロー!」という、怒りの気持ちを込めた視線で銀髪の女性を睨み付けるようにして見た。


「そう睨むな。だが、これで言葉も通じるだろう?」

「え? 言葉が急に?」


 突然、女性が日本語を流暢に話すようになったことに驚きを隠せない明人。


「今、魔法を使ってお前の使う言語体系を写し取らせてもらった。故に妾はお前の理解する言葉を聴き取り、話せる。癪ではあるが、妾がお前に合わせた」

「……は? ま、魔法!?」


 目の前にいる、海外の銀髪コスプレイヤーが意味の分からないことを言い出したことで混乱が加速した明人だが、現に会話ができるようになっている。それに、つい数分前まで見ていた火の玉や水流が勝手に湧き出す光景を思い出すと、「コイツの言っていることは本当だ」と、信じざるを得ない。


「……*>&+:=%$」


 二人のやり取りを横で見ていた金髪の女性が遠慮しがちに明人の頭に手を添えた。薄々、何をされるのか感じ取っていた明人はやって来るだろう痛みに身構えた。


「ごめんなさい。私も彼女と同じ魔法を使わせてもらいました」

「うう、痛い……」


 金髪の女性もまた日本語を話し始めた。二度目の頭痛に歯を食いしばりながらも明人は、「今起きている出来事は全て本当で夢ではない」と、文字通りに痛感していた。


「何が起きたかさっぱりだ。と、とりあえず、話せるようになったなら、お互いに話をしよ……しましょうか」


 先程は気持ちが昂って二人にデコピンを決めた明人だったが、冷静に考えると、女性たちは魔法というもので火や水を操り、武器まで持っている。二人が本気を出した場合に瞬殺されるのは自分だと考え、穏便に事が済むように話し合いを望んだのだ。


「……妾もこの状況には戸惑っている。すこしでも情報は欲しい」


 銀髪の女性はフンと鼻を鳴らし、明人の提案に同意した。


「そうですね。情報交換ができるのは有難いことです。決着はまた今度ですね」

(また暴れるのかよ!)


 金髪の女性も話し合いに同意するが、再戦はしたいらしく、明人は動揺した。


「え~っと、それじゃあ、立ち話も辛いんで、良かったらウチへどうぞ」

「ふむ。そうするか」

「お言葉に甘えます」


 話し合いの場を設けられると言っても、二人の恰好はそれにそぐわない。いくら夏とは言え、泥塗れの濡れ鼠になっている女性二人。彼女らとの会談をこのまま屋外ですることは憚られる。


(しょうがないか)


 不審者を招き入れることは甚だ遺憾だが、明人は二人を家へ上げ、入浴や衣服の洗濯をさせることにした。


「お邪魔する前に、まずは身体の汚れを落としましょうか」


 金髪の女性の身体が淡い緑色の光に包まれると、みるみるうちに髪や肌、衣服、鎧に着いた汚れが消えていく。数秒の後に、金髪の女性の身体の汚れはきれいさっぱり無くなった。


(よ、汚れが一発で!? 魔法ってやっぱりマジなのか!?)


 クリーニング屋を廃業に追い込むことが可能な能力を目の当たりにした明人はポカンと口を開けていた。


「おい。どうせ浄化魔法を使うなら、妾にも掛けてくれ。ついでだろう?」

「自分のことは自分でしなさい。そもそも、魔法の扱いはあなたの方が得意でしょう?」

「ふん。心が狭い」

「何ですって!?」


 金髪の女性が自分だけに浄化魔法を使ったことに対して、銀髪の女性は不満を漏らしている。つまらないことで二人は睨み合いを再開した。


「あ、あの、とりあえず、さっさと家の中に入りませんか?」


 たった一度の会話で一触即発状態になった二人を見て、「また暴れられたらたまったもんじゃない」と、恐怖した明人は、どうにか二人を諫め、家の中に入れようとした。


「……分かりました。こんなくだらないことで言い合いをするのも、時間の無駄ですから」


 金髪の女性は溢れ出していた闘気を抑えた。そして、銀髪の女性に、渋々、浄化魔法を掛けた。「最初からそうすればよかったものを……」と、小さく呟いく銀髪の女性の声は、運良く聞こえていなかったらしい。



投稿、忘れました。

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