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第9話 At Dawn They Sleep

 アンリは、上司であるコウゾウと、先輩であるサトシと共に、バー『ラナンキュラス』に来ていた。


「外回り、ですよね? なんでバーに来てるんですか?」

 アンリは怪訝な表情を浮かべた。


「これも立派な業務だよ」

 コウゾウは空いているカウンターに向かった。心做しか、嬉しそうに見える。


「えぇ……」

 今のコウゾウは、仕事中というよりも、仕事終わりに飲みに来たようだ。アンリの目には、そう写った。



 まず、コウゾウがカウンター席に着く。続いて、サトシが隣に座った。サトシは席に着くと、アンリを自分の隣に誘導したので、アンリはそれに従った。


「カシスオレンジお願いします」

 カウンターに着くなり、コウゾウはカクテルを注文した。


「部長! 今、仕事中ですよね!?」

 カシスオレンジは度数が低いとはいえ、アルコール入りだ。今は仕事中ではないのか? アンリはわけがわからなくなった。


「バーに来てるんだもの。頼まない方が変でしょ。もしかして、飲めないの? ノンアルコールもあるから大丈夫だよ」


「そういう訳ではないんですけど……」


「まぁまぁ、そう固くならないの。せっかくだから、好きなの頼みなよ。経費で落ちるし」

 サトシが、二人の間に割って入った。


 経費で落ちるのか? 仮にも業務中なのに? 一体どうなっているんだ。アンリは、ますますわからない。



「――ところで、なんで、ここに来たんですか?」

 アンリは頼んだカルーアミルクを口にしながら、コウゾウに尋ねた。


「最近、変な事件が立て続けに発生しててね。なんでも、人体が爆発するらしいんだ。それも一人や二人じゃない。


 最初は『リュクス』で起こったそうだけど、それを皮切りに、あちこちで起こってるって話だよ。

 俺たちのやることは、それの犯人探しってとこかな」


 それを聞いたアンリは、血の気が引いたのを感じた。


「部長、それ初めて聞きました! なんで、そんな大事件が報道されないんですか? あと、それ、警察の仕事ですよね?」


「キノシタ君、そこは深く追求しない方がいいね。俺たちは犯人探しだけをしよう。わかったね?」

 コウゾウはアンリに向かって微笑んだ。


「だから、僕が『外回り』に駆り出されたんだけど」

 サトシが、口を開く。


「ちなみに、連続人体爆発事件の被害者だけどね。正確に言うと人間じゃないんだ」


「……えーと、それ、どういうことですか……?」

 アンリは話が飲み込めない。話の途中だったが、それを遮るように尋ねる。


「部長、もしかしてキノシタは『ヴァンパイア案件』知らないの?」

 サトシは、コウゾウに話を降った。


「知らないねぇ。だって、特総に来たの、つい最近だもの」


「あー、なるほど」

 コウゾウの話を聞いて、サトシは納得したように頷いた。


「どこまで話せばいいかな……まずは『ヴァンパイア案件』の話をしようか。


 これは、もし、ヴァンパイアが事件を起こした、もしくは絡んでいたとする。

 そうなると、警察は捜査しない、マスコミは報道しない、というやつだ」


「ば、ヴァンパイア?」

 アンリは、信じられないという表情を浮かべた。


「そこからしないと駄目な感じ?」

 キョトンとした様子のアンリを見て、サトシは聞き返した。


「えーと、ヴァンパイアって、血を吸うやつですよね……」


「そうそう」


「コウモリになったり、昼間は棺桶で寝てたり、ニンニクと十字架が弱点だったり……」


「ニンニクは弱点だけど、十字架は平気だよ。残念ながら、コウモリにはなれない。昼間は寝てるのは正解だけど、棺桶は使ってないね。昼間寝てるのは、日光に当たると死んじゃうからなんだけど。


 そうそう、十字架は平気って言ったけど、銀製品は駄目だね。

 ちなみに、致命傷を負っても、瞬時に再生できる。けれども、心臓に杭を刺されたら死ぬね。銀弾撃ち込まれても死ぬし。あと、木っ端微塵にされるとダメみたい」


「随分お詳しいみたいですが……もしかして、先輩……」

 アンリはサトシをまじまじと見た。サトシは微笑みを浮かべていた。


「そうだよ」

 サトシは笑顔で返事をした。


 どおりで、サスペンス映画に出てくる人喰い教授のような扱いを受けていたわけだ。アンリは合点する。


「そういえば、先輩もカシスオレンジ頼みましたけど……」


「部長も言ってるけど、何も頼まないというわけにはいかないからね。僕は《《飲めない》》けど」


「飲めないって……」

 アンリはまじまじと、サトシを見た。サトシはニコニコしている。


「ヴァンパイアになると、人間の食べ物が喉を通らなくなるんだよ。もっとも、僕は甘いのが苦手なんだけどね」

 そう語るサトシは、相変わらずニコニコしていた。


 アンリにしてみれば、サトシの話がには現実味がなかった。だが、人喰い教授のように拘束されて出てきた。だから《《事実》》なのだろう。


 けれど、笑顔で話す様は、それこそ拘束されるほど危険な怪物にも見えない。


 右も左も分からない自分に対して、嫌な顔をひとつもせず、一から丁寧に説明してくれた。サトシは、親切な先輩ではないか。


 ――一体、先輩は何者なんだ? ――アンリは失礼を承知で、サトシのことを見つめていた。


 そもそも、ヴァンパイア云々言われても、さっきまで、フィクションの怪物扱いしてたのだ。話が飲み込めてないというのもある。


 しかし、今は仕事中だ。仕事中にヴァンパイアの話をしたのだ。しかも、冗談めかさず、実在しているという体で。

 それに、サトシの話を、上司であるコウゾウもまた、実在している体で話している――。


「先輩、こんなことを聞くのは失礼かもしれませんけど、いいですか?」


「何? 気になることは、なんでも聴いて」

 サトシは、微笑みながら返す。


「えーと、目が、赤いですね……」

 このとき、アンリは「なんでこんなことを聞いたんだ」という思いが去来した。


「ああ、これ? カラコンじゃないよ。なんでか知らないけど、ヴァンパイアになったとき、こうなったの」

 サトシは嫌な顔をせずに、質問に答える。


「一応言っておくけど、ヴァンパイアだからといって、赤目になってるとは限らないよ。むしろ、赤目のヴァンパイアって、僕しかいないんじゃないの?」


「もしかして、キノシタ君、セントウダくんのこと、怖いと思ってる?」

 コウゾウが、横から入ってきた。


「大丈夫だよ! セントウダ君、俺らは襲わないから」

 コウゾウはアンリを怖がらせまいと、フォローを入れる。


 アンリはそのとき「『俺らは』ということは、人を襲うことがあるのか」と口から出かけた。


「なので、犯人は僕を狙う可能性が高い、ということだ。まあ、会社の方だって僕のことを厄介払いしたいんだろう。だって僕は」


「セントウダ!」

 コウゾウは一転、険しい面持ちになる。そして、サトシの話を遮った。


「……セントウダ君。昔のことは後回しだ。遅かれ早かれ、償う時は来るだろう。でも、それは今じゃない、でしょ?」

 険しい面持ちから一転、いつもの穏やかな調子に戻った。


「部長もそんな顔をするんですね。初めて見ました。

 でも、事件発生時のカメラを見たけど、犯人の姿が見えませんでしたよ。だからエンカしたら、殺されるでしょうね。見えないんじゃ、抵抗のしようがないし。


 だから、僕のことを当てにしないでください。二人とも、死んだら申し訳ない」


「この話はやめやめ! さっさと外回りを終わらせて帰ろう!」

 コウゾウは話を切り上げる。三人は聞き込みを開始した。

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