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第32話 新たなる戦い

 カナは、エリの部屋にて、目が開けられないほど眩い光に包まれる。瞼から光を感じられなくなったので、カナは目を開いた。


 眼前に広がる光景は、エリの部屋ではなかった。


 まず、機械らしきものが目に入った。コンピュータのようにも見えるが、何に使われるものだろうか。カナには検討がつかなかった。


 機械らしきものが置かれているのは、部屋の中だ。壁は白く、シミ一つない。清潔ではあるけども、生活感もない。SF映画に出てきそうな部屋だ。カナは、そういう印象を受けた。


「なんだ? あいつ」


 声がしたので、カナは聞こえた方に向く。そこには、大きい球体のようなものがあった。


 球体は床から少し浮かび上がっており、空中をスライドするように進む。8個の機械的な手が、球体を取り囲むように浮かんでいた。


 その球体には単眼のカメラがついていた。カナのことをじっと見るように、レンズが向けられている。


「誰だ? お前。どこから来たんだ」

「ええと……」

 球体は質問を発する。カナはたじろいだ。


「イド! 初対面の人に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗らないとダメだろう」

 球体の後ろから、少年が現れた。見たところ、カナと同年代のようである。


「ヒト? こいつはネフィリムだぞ」

「そういう事じゃなくて……」

 少年とイドと呼ばれる球体がやり取りしている。カナは、それを黙って見ていた。


「ああ、ごめんなさい。僕はサトウ=ダイスケ」

「私は、コフタ=カナと言います」


「君、もしかして日本人? 僕はそうなんだけど」

「あ、はい」

 なぜダイスケは自分は日本人だという話をしたのだろうか。カナはピンと来なかった。


「日本人ということは、地球から来た。ということだ」


「どういうことですか?」


「ここは、僕たちのいる地球とは違うみたいなんだ。アナセマスっていうらしい。まぁ、異世界だよね」


「……異世界……」


 カナは、いわゆる異世界ものと呼ばれている作品のことは知っていたし、見たこともある。

 けれど、それはあくまでもフィクションだ。まさか、自分が異世界に飛ばされるなんて思いもしない。カナは状況を飲み込めないでいた。


「ところでイド、さっきカナのことを『ネフィリム』って呼んでたよね? どういうこと?」

 ダイスケはイドの方を向いて尋ねた。


「さっきセンサーにネフィリムって出たんだよ。リストにはなかったけど」


「センサーが壊れてんじゃないの?」


「壊れてねぇよっ」


「あの……すみません……『ネフィリム』って……?」

 カナは、ダイスケとイドの間を割って入るように尋ねた。


「確か地球じゃ『巨人』って意味なんだっけか。ここではざっくり言うと『世界を滅ぼしかねないほどのやべー力を持った存在』のことだ」


「ぇぇえ!?」

 自分のことを「世界を滅ぼしかねないほどのやべー力を持った存在」と言われた。カナは驚愕した。

 言われてみれば、今の自分にはそのような力があるのかもしれない。


「でもリストにないんだろ。やっぱり壊れてるんだよ」

 ダイスケは異を唱えた。


「……もしかして、ジェイさんってそうなんですか?」


「ジェイさん?」

 ダイスケは聞き返した。


「ジェイさんが私をネフィリム? にしたんです」


「ジェイか……ちょっと待ってろ」

 イドは該当者がいないか検索を始める。

「『ネクロファジスト』の『ジェイシリーズ』が出てきたぞ。今、画像を出す」


 イドはカメラからホログラム映像を出す。そこに映っていたのは、白い拘束具を纏ったジェイだった。


「この人です!」

 カナは大声で答えた。


「こいつはジェイシリーズのプロトタイプだ。確か、素体であるジョハンを直接改造したものだっけか。


 なんでも、とある作戦から帰還後、暴走したとかで味方を大勢殺したんだと。それなので次元転移砲をくらって別次元に飛ばされたとか。

 残念ながら、別次元のことは俺様の範囲外だ」


「そうだったんですか……」

 イドからジェイの過去を聞かされる。カナは、胸が痛くなった。


「それにしても、新たな『ネクロファジスト』を生み出すとは。プロトタイプもなかなかやるな……おい、カナ。もっとプロトタイプの事を聞かせてくれよ。あいにく、奴は生まれてすぐに別次元に飛ばされたもんで、データが足りないんだ」


「おい、イド。いい加減にしろよ」

 カナは困惑している。それなのに、イドは質問を浴びせる。それをダイスケはたしなめた。


「どっちにせよ、あんたをここから出す訳にはいかない。なにせ、あんたはネフィリムだからな。まぁ、俺様の手伝いをさせてやらんでもないが」


「イド、リーダーは僕だ。僕を差し置いて、勝手に決めないでよ」


「でも、大事なことは殆ど俺様が決めてるぞ」


「そもそもバランサーのリーダーはモータルって決まりなんでしょ。モータルにしないとリーダーが強くなりすぎちゃうから」


「そうだったな。そのルールを決めたのも俺様なんだけど」


 イドとダイスケは、カナそっちのけで話をしている。


「あのー、すみません……おふたりさん……」

 カナはどうにかして割って入った。


「ごめんなさい。つい夢中になってしまって……」

 ダイスケは謝る。


「ところで、カナはこれからどうするの?」


「うーん……」


 イドはここから出すつもりはないようである。

そもそも文字通り、右も左もわからない世界に放り出されたのだ。むしろ、「ここから出ていけ」と言われるよりかはマシなのではないか。カナは、どうしたらいいのかわからなくなっていた。


「これからどうするのって言われても分からないよね……とりあえず、しばらくここにいればいいよ。あんまりいい気分はしないと思うけど……」


 カナとイドは上手くやっていけるのかどうか。ダイスケはその事が引っかかっていた。


「イドさんの言ったことが気になるんですか? 確かに『出さないぞ』って言われた時は、あんまりいい気分はしませんでしたが……でも、ダイスケさんとは普通に接してますし」


「うん。それはよかった。僕はイドみたいに乱暴じゃないからね」


「なんだとぉ?」


「ほら、そういうところだよ」


「うるさい」


 イドは8個の手を忙しなく動かした。どうやら抗議しているようだ。


「えっと、私はここにいていいんですね?……ダイスケさん、イドさん。よろしくお願いします」

 カナは深々とお辞儀した。


「こちらこそ、よろしくお願いします」

 ダイスケも返事をした。


「変なマネしたら、速攻封印するからな」

「イド!」


 カナはここに来た時不安しかなかった。考えてみれば、ダイスケの方がもっと不安だったのではないのか。というのも、カナが地球から来たと知ったダイスケは、嬉しそうな顔をしていたからだ。


 もしかしたら、ダイスケはここに来てから、日本人どころか地球人にさえ会えなかったのかもしれない。未だに不安感が拭えない。とはいえ、自分は恵まれているんだ。カナはそう思った。


 こうして、カナの文字通り、新世界での生活が始まったのである――。



***


 サトシもまた、カナと同じように眩い光に包まれていた。


 光が感じられなくなったので、サトシは目を開く。

 眼前に広がっているのは、ミドリ製薬本社の屋上の風景ではない。見覚えのない薄暗い路地裏であった。


「えーと、ここ、どこ?」

 サトシは辺りを見回した。どこを見ても、サトシにはまるで覚えがない。


「建物はあるから、街中だとは思うんだけど……おい、虫。ここがどこだかわかるか?」


『なんで虫って呼ぶんだ』

「事実だからだよ」

『虫は一般名称だ。特定の個体を指す名前としては不適当だと言った筈だ』

「でもお前、名前がないんだろ。お前なんか虫だ、虫」

『確かに、私には名前がつけられていない。でも、私はジェイと呼ばれてたんだ。だからジェイと呼ぶべきだ』


 サトシはジェイと話している。傍目には大きな声で独り言を喋っているようにしか見えなかった。


「で、お前はここが何処だかわかるの?」

『知らない』

「だろうね。……お前と話してても埒が明かないや。しょうがない、通りに出よう」


 サトシは通りに向けて歩き出した。

通りに出たとき、まず、クラシカルな衣装を身にまとった男女が目に入った。次に、馬車が通りかかる。見たところ、自動車は一台も走っていなかった。


『ここはサトシがいたマッドシティより、更に文明が二週遅れているようだ』

「嫌な言い方するな、お前」

『私は見たままを言ったんだ』

「見たことをそのまんま言っちゃいけない時もあるの」


 サトシの目に店の看板が映る。看板は英語で書かれていた。


「ここ、もしかして…」

『知っているのか?サトシ』

「ハハハ、もしかしたら、ドラキュラがいるかもしれないな。

 よし、ヴァン=ヘルシング教授に会いに行こう!」


 サトシは街中を歩き回った。

お読みいただきありがとうございます。本編は、これにて完結です。

次回は番外編となります。最後までお付き合いいただけると幸いです。

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