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第30話 No One Wins

「失礼します」

 カナはエリの部屋の扉をノックする。「どうぞ」という返事があったので中に入った。


「突然お邪魔して、申し訳ありません」

 カナは申し訳なさそうに頭を下げる。


「カナさん、そんなにかしこまらないでくださいな。いつでも来ていいんですから」

 エリは笑顔でカナを迎えた。


「そう言っていただいて、ありがとうございます……でも……」

 カナは申し訳なさそうに口ごもる。


「マキさんも、ごめんなさい」

 カナはマキにも頭を下げる。

「なんで謝るんすか」

 心当たりがないのに謝られた。マキは困惑する。


「実は……『無名経典』を開きたいんです……」

 カナは目を伏せながら言った。


「えぇ?」

 それを聞いたマキは、驚きの声をあげる。


「カナちゃん、自分が何を言ってるのかわかって……」


「わかりました」


「えぇ?!」

 エリがあっさり承諾したので、マキは再度驚きの声をあげた。


「カナさんは、『無名経典』がなんなのか、存じております。カナさんなら、きっと正しいことに使えるはずです」


「でも、何が起こるか、わからないんすよ。エリ様に、もしもの事があったら……」


 エリはマキをきっ、と見据えた。


「……マキさん、私と姉様は、あなたとアサトさん、いえ、大神家の皆様の人生を狂わせるようなことをしました。それだけではありません。私達は大勢の命を奪いました。これで償えるとは思っておりません。でも、とうの昔に覚悟はできております」


「エリ様……」

 マキはエリの目から決意が固いことを見てとった。


「では、始めてください」

 エリはカナの方を向き直った。


「でもあいつ、気まぐれっすよ。呼んでも来てくれるのかどうか……」

 マキが心配そうな顔をする。その時、カナが意識を失った。


「カナさん!」

 エリは声をあげる。マキは慌てて抱きかかえた。


「カナちゃん、大丈夫っすか?」

 しばらくするとカナは目を開け、起き上がった。


「もしかして、お二人さん、アタシと会うの初めて?」

「どういうことっすか?」

 マキは首を傾げる。


「今、アタシはカナじゃなくてリリーになってるんだけど……説明はあとあと!」

 リリーはエリの手を取った。


「もしかしたら、アタシだったら呼び出せるかもしれないと思って出てきたけど……エリ、本当にいいの?

 いや、アタシにしたら、どうでもいいんだけど。カナは悲しむんだよ。あんたに何かあったら」


 エリは首を縦に降った。

「構いません。私に何かあったら、きっと今までのことに対する償いでしょう」

 エリの意思が固いことを見てとる。リリーは呼び出すと決めた。


「おーい! エヌ、出てこーい!」

 リリーは大声で叫んだ。それに合わせ、エリは意識を失い、その場に崩れた。


「え、エリ様!!」

 マキは急いでエリを抱き起こした。エリは目を見開き、すぐさま身体を起こす。


「お前は……カナじゃないな?」

 エリはエヌになった。エヌは、訝しそうにリリーを見る。


「その口ぶり、あんたがエヌね。ちょっと待って。今、変わるから」

 リリーは項垂れる。しばらくしてから、顔を上げた。


「久しぶりだね、カナ。全てを終わらせる決心はついた?」

 エヌは立ち上がると、意地の悪そうな笑みを浮かべながらカナに近づいた。


「ええ」


 カナは毅然とした態度を取る。そしてエヌの両肩を掴んだ。


「そう、全てが終わるわ……あなたがいなくなれば!」


 エヌは目を丸くした。

「僕を消すというのか。そんな事をしたら、エリもいなくなるぞ」


「何を言っているの。あなたは元々、全てを消すつもりだったんでしょう。エリさんだって、例外じゃない」

 カナは断固とした姿勢で言い放った。


「だったら、お前も道連れだ!」

 エヌは必死な形相に変わる。


「あなたを消せるなら、私はどうなっても構わないわ。だって、私も化け物だもの。だから、その頁を開きなさい! あなたを消す方法が書いてある頁を!」


「やめろ……うげっ、おぇぇぇぇぇ」


 エヌは必死になって口を抑えたが、吐き気は収まらない。とうとう、紙を吐き出した。


 カナはそれを拾いあげ、広げる。そこに書いてある文章を読み上げた。


「全ての理を歪める悪しきものよ! この地から去れ!」


「やめろおおおおお!!」


 エヌは絶叫した。部屋は眩い光に包まれた――。



***


 ――ミドリ製薬本社。


「社長、屋上にヘリがあります。我々とご同行ください」

「わかった」


 社長であるトウドウ=マナブは武装警備員に連れられ、社長室から出る。先導する警備員の後について、屋上に向かう。


 屋上にはヘリがあった。マナブはそれに乗ろうと、ヘリの方に歩み寄り――


 ドカーン!


 ヘリが大きな音を立てた。破片が辺りに飛び散り、もうもうと黒煙が立つ。幸い、マナブの他、その場にいたものに怪我人はいなかった。


「ああああ……」


 怪我人はいなかったが、退路が絶たれたことに変わりはない。黒煙を立てるヘリを見て、マナブは顔面蒼白になった。



 ――特殊総務部。


「部長、なんか騒がしいんですけど」

 アンリは謹慎処分が解けたので、特殊総務部に来ていた。復帰早々、大事件とは。アンリは当惑する。


「そうだね」

「部長。相変わらずですね……」


 部長の顔はしばらく見ていなかったが、相変わらずのようだ。アンリは、その調子に呆れないでもなかったが、同時に安堵した。


 ――サトシが乗り込んでからというもの、社内は騒然としている。それなのに、コウゾウは妙に落ち着き払っていた。


「私たち、ここにいていいんですか?」

「別にいいでしょ。下手に動くと危ないし」


「そこなんですけど……社内が混乱しているのはわかります。でも、だからこそ特殊総務部に出動命令が出ないというのはおかしくないですか? だって、いつも会社に困りごとがあったら、駆り出されてたじゃないですか」


「そうだね。今回の場合、その困りごとの原因がセントウダ君だからじゃないかな」


「ええっ!?」

 アンリは驚きの声をあげた。


「先輩、無事だったんですね。でも、今の騒ぎの原因って……」


 自分のせいで行方不明になってしまったサトシの無事を確認できた。それはいいのだが、今起こっている騒ぎの原因であるとも聞かされ、アンリは複雑な心境になる。


「少し前、セントウダ君から電話がかかってきたんだけど、『今から会社に向かう』って言ってたんだよね」

「そうだったんですか……」


「……俺ね、キノシタ君が無事で良かったと思ってるよ」

「へ?」

 コウゾウがなんでこんなことを言ったのか。アンリには見当がつかない。


「だってね、セントウダ君ってミドリ製薬のトップシークレットでしょ。そんなトップシークレットを逃がしたなんてなったら、それこそ『処分』されるかもしれなかったんだ。でも、ハダ所長が便宜を図ってくれたおかげで助かったよ。まぁ、警備から外されちゃったけどね」


 アンリは戦慄した。今まで生きてこられたのは運がよかっただけである。そのことを思い知らされたからだ。


「でも、なんで私の話をしたんですか?」


「キノシタ君。俺は上の都合に振り回されるのは、もう沢山だ。セントウダ君だったら、もしかしてやってくれるかも……って思っちゃたんだよね。


 電話が終わったあとね、屋上に行ったんだ。それで、ヘリの方にちょっとね、仕掛けをしたんだよ。終わったあとにセントウダ君が来たから、俺の方は大丈夫だろう」


 コウゾウはアンリに微笑んだ。目は笑っていなかった。



***


 サトシはエレベーターを使い、屋上に着く。

 すぐさま、警備員が発砲してきた。サトシはすんでのところで躱す。


「この化け物め!」

「社員に対して、その口の聞き方はないんじゃないの。確かに、今の僕はどう見ても化け物だけど」


 サトシはガトリングガンを警備員に向けて撃ち込んだ。

 撃たれた警備員は叫ぶ間もなく肉片と化す。同時にできた血溜まりの上に散らばる。


「お初にお目にかかります。トウドウ社長」

 サトシは、マナブに挨拶をした。


「なんだ貴様は!」

 マナブは威勢の良い声を発するも、完全に腰が引けていた。


「確か社長は616部隊を率いていたトウドウ=タカアキの親戚だとお聞きしました。『スロートバイト』は先の大戦の時に生み出されたものとも。


 ……まさか日帝再興とかいうんじゃないでしょうね。冗談きついなぁ。まぁ、それっぽいですね。社員を見捨てて自分だけ助かろうとするところが」


 サトシは銃口をマナブに向けた。


「頼む、何でもするから、いの」

「そんな事のために、僕のユウジさんへの気持ちを利用するなああああぁぁぁ!!!!」


 サトシはガトリングガンをありったけ撃ち込んだ。辺りに銃声が響く。マナブは銃弾をもろに受けて、ミンチと化した。



「さーて、これからどうしよう……」


 マナブは細切れになって血溜まりに浮いている。原型を留めていないので、マナブだと言われないと分からないだろう。

 サトシはそれを見て、ため息をついた。


『いつまでそんな格好をしているんだ』

「……呑気でいいね……」

 ジェイはこんな状況でも、いつも通りだ。緊張感がない。サトシは呆れ返った。


「まぁ、ずっとこの格好なのも嫌だけど……」

 サトシは深呼吸をする。意識を集中させると、元の姿に戻った。服も戻っている。


「よかった。ずっとこのままかと思った」

 サトシは自分の手を見て、安心したように、ほっと一息ついた。


「フィクションだったらさー、ここで『THE END』だけどさー。そういうわけにもいかないよねー」

 サトシは屋上の入口に腰掛けて、青空を見上げている。完全に投げやりになっていた。


 その時である。


「うお、まぶしっ」

 辺り一面、眩い光に包まれた。

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