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第26話 決意

「ミコトさんとセントウダさん。これでよかったのかしら……」

 二人を対面させたのは、果たして正しかったのか? ――ミコトと別れ、自分の部屋に戻ったカナは、その事ばかり考えている。


「どうしようもない、けど……」

 どっちにせよ、なかったことにはできない。カナは頭を抱えた。


「でも、私は他にもやらなきゃ行けないことがあるの……」

 カナは先の出来事を脇に押しやることにする。なんとかして、気持ちを切り替え、スマホを手に取った。





「――ありがとうございます。『お茶をしたい』 という私の誘いを受けていただいて」


「こちらこそ、ありがとうございます。私もカナさんとお茶ができて嬉しいです」

 エリは微笑んだ。


 エリの微笑みを見て、カナは心に痛みを覚える。

(私がこれからしようとすることは、取り返しがつかないことかもしれない。でも……)


 カナは以前、ウラトとやり取りをしたことを思い出していた。『無名経典』のことである。


(無名経典の目的は、世界を滅ぼすこと。そんなもの、あってはいけないの。でも、どうやったら無くせるの? それに、もし、無くしたとしたら……)


 カナはエリを見た。エリはマキに命じてお茶の用意をさせている。

 ふと、カナと目が合う。エリはにこりとする。

 カナも微笑みを返したが、上手く笑えていないような気がした。


(無名経典を無くす方法は、まだわからない……けれど、私が人間じゃなくなって、今ここにいるのも、もしかしたらこの為かもしれない)


「カナさん、大丈夫ですか?」

 エリは声をかける。カナがぼんやりしているのが気になったからだ。

「ごめんなさいっ。大丈夫ですっ」

 いらない心配をさせてしまった。カナは余計に申し訳なさを感じる。


「お話したいことがあったら、遠慮せず申してくださいね。私は聴くだけしかできませんが」

 エリはカナに優しい眼差しを向ける。眼差しはカナにとって鋭く感じた。


「……エリさん」

 カナはエリに呼びかける。

「カナさん?」

 エリはカナの顔を覗き込む。カナは、今にも泣き出しそうだった。


「エリさん! 私、無名経典を無くそうと思うんです」

 カナは思い切った。心臓がバクバクと強く脈打っているのを感じる。


「エリ様。お待たせしました……お二人とも、なにかあったんすか?」

 マキは用意した茶器類を卓に並べている。その間、カナとエリは固まったかのように、黙りこくっていた。


「あ、ありがとうございます。マキさん」

 マキに呼びかけられ、エリは正気になる。


「ごめんなさい……私……」

 カナはしょんぼりする。今にも泣き出してしまいそうだった。


「今日は、その話をしに来たのですね?」

 エリはカナに微笑みかける。


「はい……」

 カナの返事を聞いても、エリは笑みを絶やさない。カナとしては、それが余計に心痛めた。


「私はいいんです。でも、カナさんは、それでよろしいのでしょうか?」

 エリはにこやかな顔から一転、真顔になる。


「よろしい、って何がですか?」

 カナは聞き返した。


「そもそも、私がいけないのです。私が早くいなくなればよかった。そうすれば、姉様はヴァンパイアにならなかったのに……。

 そういえば、カナさんもヴァンパイアになったのでしたね。しかも、お父様まで亡くされて。更に、酷な決断をさせる……本当に、ごめんなさい」


 そう言いながら、エリは項垂れる。


「謝らないでください。エリさんは悪くないです」

 カナは慌てて慰めようとした。


「私のことはいいんです。私がここにいるのは、ひょっとしてこの為なのかもしれない。最近、そう思うようになったんです……どうやって無くすのか、その方法は未だにわからないんですけど……」


 威勢よく話し出すが、後半はしりすぼみになる。


「カナさん……」

 カナは元来気弱なのだろう。けれど、今のカナの目は決意に満ち溢れている。カナは、やると言ったら、やり遂げるだろう。エリはそれを感じとった。


 エリはカナの手を取る。

「ありがとうございます。私は充分生きました。姉様も、終わりを望んでいるでしょう」


 カナはエリの目を見る。その目は、ただただ優しかった。


「こちらこそ、ありがとうございます。お話を聞いていただいて」

 カナはエリの目を見ながら、返事をする。


「では、お茶にいたしましょうか」

 エリの顔に笑みが戻った。エリは茶器を手に取り、茶葉を入れる。

「はい。ではご馳走になります」

 カナはエリの入れた紅茶を味わった。


「――今日は、本当にありがとうございました。では失礼いたします」

 カナは一礼したあと、部屋を出た。


「マキさん。私に何かあっても、カナさんを恨まないでくださいね」

 カナが部屋を出た後、エリはマキに向かってこう言い出す。


「は、はぁ」

 どう返したらいいのだろうか。マキは困り果ててしまった。



***


「無名経典を無くすとはいったけど、どうやって無くせばいいのかしら……」

 カナは部屋に戻ってからというもの、ずっとこんなことを考えている。


『無名経典を使えばいいんじゃない?』

 リリーが提案をした。


「どういうこと?」

 カナは聞き返す。


『無名経典というかエヌって、在ることそれ自体が嫌なんでしょ。だったら、無名経典に向かって『無名経典が無くなれ』って言えばいいんじゃないの』


「えぇっ」


 無名経典は『在ることそれ自体』を疎んでいる。けれど、自らの存在の消滅を望んでいる訳ではないだろう。


「その方法、通用すると思えないけど……」

 カナはリリーの言に異を唱える。


『でもさー。無名経典って何が起こるかわかんないでしょ? ジェイだって勝手に来たようなもんだし。もしか、いけるかもしれないじゃん。てゆーか、この方法しかなくね?』


「……そうね」

 言われてみれば、そうかもしれない。カナはリリーの案がいいかもしれないと考えた。


「その方法を使うとなると、無名経典――エヌを呼び出さないといけないんだけど……」


 エヌを呼び出すということは、エリをエヌにするということだ。その方法しかないということはわかっているのだが、どうしても抵抗感が拭えない。


『それだったら、アタシに任せなさい。だって実質あいつもパラサイトでしょう』

 リリーは深い眠りについたジェイを起こしたことがある。パラサイト云々はそこから来ているのだろう。


「パラサイトって……」

 エヌはパラサイト。言われてみれば、その通りだ。ただ、リリーは一緒にされるのは嫌ではないのか? カナはそう思う。


「でも、それしかないわよね……そのときは、よろしくお願いします」


 とりあえず目処はついた。――成功するかどうかはともかく――カナはそう考えることにした。

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