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第22話 Vengeance is Mine

 カナは考え抜いた結果、サトシを赦すと決めた。


 ただ、赦すにしても、向こうは話し合いに応じてくれるだろうか?

 カナはどうしたものかと考えあぐねる。


『スメラギさん、お時間、よろしいですか?』

 カナはスマホにメッセージを送った。レイハに相談することにしたのである。


 しばらくして、レイハからこんなメッセージが返ってきた。

『私で良ければ、ご相談に乗りますよ』


 それを見て、カナは『ありがとうございます』と送信した。


 ――セントウダさんとは応接室で話をつけよう。


 レイハと、メッセージのやり取りをしている中で、カナはそう決めた。その旨をレイハに伝えたところ、レイハも応接室について行くことになった。




「コフタさん、私でよろしいのですか?」

 レイハは、カナと共に応接室に向かっている。


「こちらこそ、ありがとうございます。お忙しいのに、お付き合いさせてしまって……」

 カナは、レイハに頭を下げる。


「お気になさらずに。ここ、伊原邸での困り事を解決するのが私の仕事ですので」

 レイハは毅然とした態度を取った。


 二人は応接室に着く。二人より先に、サトシが来ていた。


「お二人とも、中に入りましょうか」

 レイハは、カナとサトシを応接室の中に入れた。




 ――数時間前。


 サトシは、ウラトとの面会後、アサトに空いている部屋に押し込められた。どうやら、今後はそこを自分の部屋として使えということらしい。


 わざわざ部屋を用意したというのは「外に出してやるものか」ということだろう。とはいえ、特に反発する理由もない。サトシは大人しく従うことにした。


 サトシはアサトから貰ったスマホを見ている。通知が入ったので、開いてみた。


『コフタ=カナさんから伝言を承りました。セントウダさんとお話がしたいそうです』


 差出人はスメラギ=レイハというらしい。アサト曰く、同僚だそうだ。

 サトシはレイハに興味はなかった、が……


「コフタ=カナ、か。マサキさんの娘さん、だよね……」


 コフタ=マサキ。


 サトシは、その名前を忘れた事はなかった。サトシの心の中心にいるのは、イチジョウ=ユウジだ。けれど、コフタ=マサキもまた、サトシにとっては重大な意味を持っていた。


 よく使う『視線で相手を撃ち抜く能力』は、マサキから手に入れたからというのもある。

 厳密に言うと、マサキの能力は『視界に入ったものを掻き切る能力』なのだが。


 それ以上に、『能力とともに入ってきた記憶』これがサトシを悩ませたからであった。


 サトシの『吸血した相手の記憶をも入手する能力』は一時的なものではある。

 ただ、マサキの場合は内容が凄惨であった。おまけに、能力としてマサキの痕跡が残っている。それなので、嫌でも意識してしまうのだ。


 コフタ=カナ。

 彼女はマサキの遺族である。


 カナは母親を殺された。挙句、父親まで殺されている。

 きっと、殺したいほど憎んでいるだろう。そんな相手に対して「お話がしたい」とは。サトシは、真意がわかりかねた。


 正直に言うと、サトシはあまり気乗りがしないでいる。開き直っている訳ではない。合わせる顔がないのだ。


 とはいえ、向こうは「お話がしたい」と言っている。なのに顔を見せないというのも、それはそれで不誠実ではないか――。


 熟考した結果、サトシは応じることにした。スマホを取り、レイハに返信する。


『カナに会うのか。カナに何かしてみろ。そのときは、乗っ取るぞ』

 サトシの頭にジェイの声が響く。サトシは無視したが、眉間に皺が寄っていた。



***


 ――応接室。


 カナとサトシは、卓を挟むように、向かい合わせに座っている。お互い、気まずそうな表情をしていた。


「お茶、よろしければどうぞ」

 レイハは二人に湯のみを出す。中に緑茶が入っている。


「ありがとうございますっ」

 カナは、お茶に口をつけた。


 それを見て、サトシも湯のみを手にする。手に取った湯のみを注意深く見つめる。


「セントウダさんも、お茶を飲まれるんですか?」


 カナの質問に対し、サトシはうーんと唸った。つい最近まで、人間の飲食物が受け付けなかったからだ。


 サトシは、思い切って湯のみに入った茶を飲んだ。口の中に、苦味と、あとからほのかな甘みが伝わる。


「お茶、どうですか?」

 カナは、お茶の味を聞いてみた。


「どうって……このお茶、おいしいね」

 サトシは躊躇いがちに答えた。飲めるようになってるとは、思ってもみなかったからである。


「不味いと言われてしまったら、面目ございません。せっかくの玉露ですのに」

 カナの隣に座っているレイハが口を挟んできた。


「ふふふ」

 カナは思わず笑みがこぼれる。

「ありがとうございます。スメラギさんのおかげで、ちょっと楽になりました」

 カナは笑顔で礼を言った。


「それで、私がセントウダさんとお話をしようと思ったのは……」

 カナは真顔になり、本題を切り出す。


「セントウダさん。私の父はコフタ=マサキです。コフタ=マサキのことは知ってますよね?」


 カナはサトシを見据える。マサキのことを聞かれたサトシは、身が引き締まる思いがした。


「……知ってる」

 カナの問いに対して、サトシは弱々しく答える。


「そうですか。ありがとうございます」

 サトシの弱々しい返事に対して、カナは堂々としていた。


 サトシはカナの様子を見ている。サトシは、カナにとっては親の仇だ。それであっても、カナは憤怒に駆られているようには見えない。さりとて、怯えているという訳でもなかった。

 とにかく、泰然自若(たいぜんじじゃく)としている。サトシには、そうとしか見えなかった。


「セントウダさん。どうして、父さんを殺したんですか?」

 カナは改めて、サトシに尋ねた。鋭い目でサトシを見つめる。


 サトシにしたら、カナは一回り下の小娘だ。ヴァンパイアであったというが、彼女がヴァンパイアになったのはつい最近のことだ。つまりは、外見通りの年齢だ。


 ただの小娘じゃないか。でも、なぜ気圧されているのだろうか――。

 どう答えればいいのか。サトシはわからなくなっていた。


「答えたくないのであれば、それで構いません。どのような答えであれ、私は()()と決めました」


()()? どういうこと?」

 サトシは信じられないという眼差しを向ける。


「もう、過ぎたことです。セントウダさんを殺したって、父さんは帰ってきませんから。あと、ジェイさんのことです」


「奴の話はやめろぉ!!」

 サトシは体を後ろに引き、耳を塞ぐ。顔は蒼白していた。


「……ジェイさんのことが受け入れられない。仕方がないのはわかっています。でもジェイさんは、セントウダさんを乗っ取りませんでした。


 セントウダさんを殺したら、ジェイさんも死んでしまいます。それ以上に、ジェイさんが悲しむと思うんです」


「悲しむ?」

 サトシは聞き返す。


「ジェイさん、泣いてたんですよ。セントウダさんが自分のせいでおかしくなったんだって」

 カナは気の張ったような態度を一転させる。今はしょげているように見えた。


 泣いてるとはどういうことだ。またしても、サトシは黙り込む。


「ジェイさんは、セントウダさんにいなくなってほしくないんです。それだけは、わかってほしいんです」

 カナは念押しする。


「でも、僕はセントウダ=サトシだ。奴、ジェイじゃない。僕が生きてたら、ジェイがいなくなるなんてこともあるかもしれない。それでも、僕を赦すの?」

 サトシは、カナを試すようなことを言った。


「セントウダさん、なんでそんなことを言うんですか? まさか、死にたいんですか?」

 カナは、はっとした表情を浮かべる。


「僕みたいなのは、死んだ方がいいだろ。殺したのは、マサキさんだけじゃない。ユウジさんもだ。ミコト君に撃たれたのは当然だ」

 サトシは、カナをあえて挑発した。


「だったら尚のこと、殺す訳にはいきません。神様にお任せします。聖書にもこうありますし。『復讐はわたしのすることである』だって」

 カナは、微笑みを浮かべる。


『復讐はわたしのすることである』

 それを聞いたとき、サトシは耳鳴りがしたような気がした。咄嗟に背を屈めて耳を押さえる。耳鳴りは一瞬で収まった。


「だ、大丈夫ですか?」

 カナは心配そうに声をかける。


「……大丈夫だ」

 サトシは顔を上げた。上げた先に、カナの手がある。


「これは、どういう……」

 サトシは、カナの差し出した手の意味がわからない。つい、首を傾げる。


「だから、赦すと決めました」

 カナは真っ直ぐな目で、サトシのことを見ている。サトシは、その目から赦そうという意志を感じ取った。


 自分の父親を殺した相手を赦す。その決断は、並大抵の覚悟ではできない。

 そんなカナに対して、サトシは改めて畏敬の念を覚えた。


「コフタさん、本当にそれでいいんですか?」

 サトシは、カナの意志を再確認する。何故か敬語になっている。


「……だから、()()()()()()()()って言ったじゃないですか」


 それを聞いたサトシは、差し出された手を握り返した。

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