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第14話 Bloody Mary

 ――ミドリ製薬研究所。


 サトシは、椅子に拘束された状態で、身体検査を受けていた。


「ちょっと、耳寄りな情報を手に入れたんだけど」

 研究員は誰一人としてサトシに耳を貸そうとせず、黙々と作業を続ける。


「皆、冷たいな。退屈なんだよこっちは」


 サトシは、一人の研究員に目をつける。じっと見据えると、サトシの目に、スナイパーライフルのターゲットマークのような模様が浮かび上がってきた。


 ターンッ。


 銃声のような音が響く。目をつけられた研究員は、その場に倒れ込んだ。頭には、弾痕のような穴が空いている。


「それから、新しい能力もね。アハハハハハ!!」

 サトシは高笑いをした。



 ――ミドリ製薬。特殊総務部。


「また『外回り』ですか?」

「そうみたいだね」

 外回りと聞いて、アンリは気が重くなった。


「気乗りしないのはわかるよ。ノリノリでやってるのもそれはそれで怖いし」

「部長、それフォローですか?」

「ははははは」


 部下につっけんどんに返されてしまったが、コウゾウはいつものように笑顔だった。


「部長って時々、そういうところありますよね……」

「まあまあ、いいじゃないの」

 コウゾウは、ヘラヘラしていた。


 特殊総務部というところは、いわばミドリ製薬の暗部のような部署だ。仕事内容が内容だけに、ヘラヘラしないとやっていられないのだろう。


 とはいえ、自分だって部長のヘラヘラに、少なからず救われているところがある。アンリは責める気になれなかった。


 それに――。

「『外回り』ということは、先輩も一緒なんですよね?」

「そうだねぇ……セントウダ君のこと、嫌い?」


 アンリは、コウゾウがこんなことを尋ねて来たので、身が引き締まる思いがした。


「嫌いなわけじゃないけど、正直言うと、怖いです」


「特総所属なのに、正直に受け答えするのはどうなんだろうね。でも、怖いって思っちゃうのは仕方がないか」


 それを聞いたアンリは一息入れてから、こう答えた。


「怖い以上に、なんだか痛々しくて見ていられないです」



***

「『連中』の巣が見つかった。ジェイをそこに送り込む」

「……ウラト様、火鳥会の方はよろしいのでしょうか?」


「その巣は中々の規模でな。潰せれば奴らに大きな痛手を追わせられるぞ」

「ですが……」

 アサトは恐れ多いと思いつつも、口を挟まずにはいられない。


「オグマという男は、ジェイの認識阻害が効きません。その力が連中に渡りでもしたら……」


「だからどうした? そもそも認識阻害なぞ、ジェイにしたらおまけみたいなものだろう。それにオグマは奴の弱点を知らない。向こうから来てくれるなら、わざわざ探す手間が省けるというもの」


 敵を潰す為に、あえて犠牲者を出すということか。だが、このやり方は……


「余は、別に火鳥会を見捨てたつもりはないぞ。現に、対ヴァンパイア用の武器は渡しておいた」

「そうですか……」


 武器を渡したのか。それならばよいのだが。だがそれを聞いても、一抹の不安は拭えなかった。


「ウラト様。そやつは、今までのとは違い、能力を持っています。はたして、火鳥会の連中が太刀打ちできるのでしょうか?」


「アサトよ。随分、弱気になっておらぬか? まぁ、返り討ちにあうことも、考えられなくは無いが」


 ――火鳥会は、言うなれば『反社会的勢力』だ。そういう連中に、義理立てすることもないだろう。

 しかし、それを言うなら、伊原家だって大差はないのだ。なぜなら、表に出てこれないのだから。いわんや、大神家は――。


 アサトの頭に、ふと、こんな考えがよぎった。


「アサト。お前は余を『手段のためなら他人を平然と切り捨てる、心まで怪物になった冷酷漢』だと思ってるか?」


 主人に考えを見抜かれたような気がして、アサトは肝を冷やした。

「いえ……」


「遠慮しなくてよい。余は多くの人間に手をかけ、その血を啜って(すす)って来たのだからな」


 ウラトは、薄ら笑いを浮かべた。



***


 短針が8から9に差し掛かる頃だ。辺りは既に暗い。一台の車がバー『オニキス』の前に止まった。


「俺達は近くの駐車場で待ってるね。終わったら連絡よろしく」


 コウゾウはサトシを一人、車から下ろした。そのまま、車を発進させる。


 サトシは一人で、店に入って行った。





 サトシがバーに入る。席数から見るに、20人くらいが定数のようだ。席間は大分ゆとりがあるからか、広く見える。

 落ち着いた照明に、洗練されたインテリアが、店内を形作る。


 10人の男が席に着いていた。『オニキス』はスタンディングバーなのだが、椅子に座っているものもいる。


 バーという場所は『大人の社交場』と呼ばれている場所であるがため、大声を出すのはご法度だ。だとしても、妙に静かすぎる。サトシは、物々しい雰囲気を漂わせている男たちを一瞥した。


「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」

 そんなサトシに、男が話しかけてきた。男はカウンターの向こう側に立っている。

 サトシはカウンターに案内される。


「ご注文は何になさいますか?」

 案内した男が、サトシに注文を聞く。


「ブラッディメアリーっていうの頼むよ」

「かしこまりました」

 注文を受け、男はカクテルの用意を始める。


 サトシは、隣に座っている男に目が行った。

「いきなり失礼します。僕、こういうものなんですが」


 サトシは笑顔を浮かべながら、男に名刺を渡す。名刺には『ミドリ製薬株式会社 特殊総務部 仙洞田 敏』と書いてある。何の変哲もない、ごく一般的な名刺であった。


 男は名刺を見た瞬間、驚愕の色を浮かべる。次第に、眉間にシワが寄ってきた。


「……なんのつもりだ? てめぇ……」

 男は、渡された名刺を手で握り潰す。


「あなた、オグマ=ヨウヘイさんでしたよね? 僕、あなたに、いえ、火鳥会に用がありまして」

 渡した名刺を目の前で握りつぶされても、サトシは笑みを崩さない。


「こっちこそ、てめぇに用があってなぁ!」

 ヨウヘイは恫喝した。それを皮切りに、客が一斉にサトシに銃を向ける。


「お客さん、もしかして全員、火鳥会の人?」

 サトシは両手を上げながら尋ねた。


「この弾は銀製だ。てめぇがヴァンパイアなのも調べがついてんだよ!!」

「へー、それはすごいね」


「余裕ぶっこいてるんじゃねぇ! ここは俺達のシマだ。てめぇがここに来ることぐらい分かってたんだからな」

「ふーん」

 サトシは、大勢の者に銃を突きつけられていた。それにも関わらず、平然としている。


「まあ、いい。どうせここで死ぬんだからな」

 ヨウヘイは、懐に手を伸ばした。

「動くなっつってんだろ!!」

 ヨウヘイは拳銃を取り出し、サトシに向けた。


「火鳥会の人、どのくらいいるのかな? でも、若頭がいるからね。ここで片付けておけば、仕事がだいぶ楽になるかなぁ」

 サトシの目にターゲットマークが浮かぶ。


 辺りに、ターンッという銃声が響く。銃を構えた組員たちは、次々と倒れていく。

 倒れた者たちの額には、弾痕のような穴が空いていた。


 ――体何が起こったのだ?

 ヨウヘイは状況を理解できずにいた。目の前の男に仲間が撃たれた。それだけしか分からない。


 ヨウヘイは、サトシに銃口を向けている。が、その手は震えていた。


「お前、何をした!?」

「別に。ここに何人いるかなって見回しただけだよ」

「ざけんな!」


 サトシはヨウヘイに目を向けた。目が合った瞬間、ヨウヘイの背に悪寒が走った。


「安心して。撃たないよ」

 サトシはニンマリとした。

「あんたには、色々聞きたいことがあるんだ」

 サトシはヨウヘイの腕を掴んで、捻りあげた。


「うがああぁぁ!」


 ヨウヘイの腕に激痛が走った。ヨウヘイの手から、拳銃が落ちる。サトシはそのまま、腕を引っ張って自分の方に引き寄せた。


「この野郎! タダで済むと思うなよ!!」

 ヨウヘイは殺気立った目を向けた。


「おお、怖い怖い。いかにもヤクザみたいだ」

 対して、サトシはニンマリと、片側の口角を上げる。


「なんだと、この三下がぁ!」

 その場の仲間は、全員死んだ。武器も手元にない上に、腕を掴まれている。

 明らかに挽回できる状況ではなかったが、ヨウヘイは抵抗をやめなかった。


「威勢がいいね。そういうとこ、好きになっちゃった」

 サトシはヨウヘイの体を片手で抱え、上を向かせた。ヨウヘイは、腕の中でそっくり返るような姿勢になり、喉元を向ける形になる。


「さっき、聞きたいことがあるって言ったよね。じゃ、体で教えてもらおうか。体は正直だからね」

 サトシは、ヨウヘイの喉元に噛み付いた。



***


 サトシはスマホを取り出し、コウゾウに電話をかけた。

「――こっちは終わりました」

 

 店内はすっかり静まり返っている。辺りには、血みどろで転がっている男たちで溢れていた。サトシの足元には、吸血され、息絶えたヨウヘイが横たわっている。


「そういえば、僕、頼んだのがあったんだけど」

 サトシは、バーカウンターまで歩を進めた。


「バーテンダーさん?」

 サトシはバーカウンターを覗き込んだ。そこには、バーテンダーが血まみれで倒れている。手元には銃が転がっていた。


「これじゃ、カクテル出てこないね。

 まぁ、いいや。ブラッディメアリーって甘めのカクテルだっけ。何となく頼んでみたけど、僕、甘いの嫌いなんだよね」


 サトシはカウンターの前に立ち、仲間達が到着するのを待っていた。

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