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第10話 Raining Blood

 マサキもまた『ラナンキュラス』に来ていた。


 ゲンジロウと、『ヴァンパイア案件』のことで、現時点でわかっていることを共有した――押収品に手をつけたことまでは話さなかったが――どうやら、ここで度々、薬物のやり取りがされている、というのだ。


 『ラナンキュラス』は、火鳥会のシマではない。

 だが、ここマッドシティは、暴力団だけではなく、半グレと呼ばれるような、暴力団とはまた別の、反社会的勢力が(うごめ)いている――暴力団に限って言えば、火鳥会だけではないが――。

 

 『ラナンキュラス』がどこと結びついているのか、まだ不明だが、きっと、新興の勢力であろう。

 あいにく、マサキはマル暴ではない。そのため、裏社会の勢力を掴みきれていない。

 ひとつ言えることは、火鳥会はその新興勢力を警戒している、ということだ。


 もしかしたら、その新興勢力とやらが、ケイコを殺害し、カナをさらった犯人と繋がっているかもしれない。

 それと、もうひとつ、マサキにおぞましい力を授けた薬物とも、関係があるかもしれない――。


 マサキは店内を注意深く観察していた。客は十人か。今のところ、怪しいものはいない。


 張り込みを続けていると、会社帰りと思わしき三人組を見かけた。バーテンダーと話をしているようだ。


 上司と思わしき男が部下を連れて飲みに行く、それ自体は別におかしいことではない。

 ただ、先程から見ていると、酒を一口つけたきり、手をつけている様子がない。


 特に、背がいちばん高い男なんかは、グラスを口に運んでさえいない。

 まるで、飲みに来たというよりは、聞き込みに来たみたいではないか。


 三人組の中にマサキが知っている顔はなかった。つまりは、刑事ではないということだ。

 マサキは、いてもたってもいられなくなり、思い切って席を立った。


「お話の途中、申し訳ありません。私、こういうものなんですが」

 マサキは上司と思われる男に、警察手帳を見せた。

「最近、この辺りで事件が起こっていまして……」


 すると、背が高い男が割って入ってきた。

「お話なら僕が伺います。この二人はまだバーテンダーとお話したいようなので。

 ……それに、少々、込み入った話をしたいので。出来れば、静かなところでお話がしたいのですが」


 ――刑事と二人きりになりたいとは。何かあるに違いない。

 さすがに、刑事相手に無茶なことはしないか――マサキはそう考えた。


 男を信用した訳では無いが、でも何も情報が得られるかもしれない。

 それに万が一、身に危険が及んでもこっちには奥の手があるのだ。


 マサキは、男の話に乗ることにした。




 二人は店内を出て、路地裏に向かう。

 周りに誰もいないことを確認し、まずは男の方が話を切り出した。


「刑事さん、なんの事件を調べているんですか?」


「殺人事件です」


 男は、マサキの口から出た「殺人事件」という言葉に反応を示す。


「殺人事件ですか。それは、体の血が抜かれている事件のことですか? それとも、人体が爆発した事件のことですか?」


 それを聞いたとき、マサキの全身に緊張が走った。


「なんで、マスコミが報道してないのに、その事件のことを知ってるんだ、っていう顔をしてますね。

 なら、刑事さん。そのふたつの事件は捜査できないはずなんですけど。勝手に捜査するのは服務規程違反じゃないんですか?」


「貴様こそ何者だ! 身元を明かさない奴に、服務規程違反と言われる筋合いはない!」


「こんな調子じゃ、懲戒免職は不回避だろうけど、余計なこと喋られても困るしなぁ。

 刑事さん、悪く思わないでね」


 男がマサキと距離を詰める。


 銃は持っていないようだが、マサキも持っていない。男の言った通り、これは違法捜査だ。

 例え銃を持っていたとしても、使おうものなら余計な面倒事が増えるだけだ。


 だったら――。


 マサキはサングラスを外した。

 視界が赤に染まる。そして、男は、首から勢いよく血を吹き出して倒れた。


「……やったか?」

 マサキは恐る恐る男を見る。うつ伏せに倒れたきりピクリとも動かない。首にはナイフで掻っ切られたような傷がある。そこから、血が勢いよく流れ、血溜まりを作っていた。


 ――妙な薬物を飲んでから、使えるようになった忌まわしい力。

 思っていた通り、人を容易く殺すことのできる力であった――。


 この力を使うことがなければ、どんなによかったか。マサキは、もう後戻りができなくなってしまった。


 さてどうしよう。そんなことを考えていた矢先のことである。


 マサキの目の前に影がかかり、首筋を噛まれた。

 マサキは抵抗する間もなく、意識が遠のいていく。そのまま、その場に崩れ落ちた。


「さっきの一撃で、血をだいぶ失ってしまったよ。でも、補充したからもう大丈夫。ご馳走様」


 男はマサキの首筋から口を離し、手で口を拭う。

 マサキは、事切れていた。



***


「部長、申し訳ありません。回収できますか? あと、せめて上着でもあったらありがたいんですけど――」


 サトシはコウゾウに電話をかける。

 しばし待っていると、コウゾウとアンリがやってきた。


「先輩! 大丈夫ですか!?」

 アンリは叫んだ。サトシの首の辺りが血塗れになっているからである。


「あー、大丈夫大丈夫。怪我は治ったから。治りが早いんだ 、僕。

 それにしても、先輩、ね。ヴァンパイアになってるのに、先輩って呼ばれるなんて」


「何を言ってるんですか。初めて会ったときは正直、怖かったですよ。でも、今の先輩は……身体の傷は直ぐに治っても、心の傷はそう簡単に治らないと思うんです」


 アンリは、自分でも何を言ってるのかわからなかった。とはいえ、なにか言わなくてはいけない――。

 そんな思いが、アンリの中で湧き上がってきたのである。


 サトシは、そんなアンリを見て、こんなんでやっていけるのかと呆れていた。けれども、嫌な気はしなかった。


「ぎゃあああ!!」


 アンリは唐突に悲鳴を上げた。今になって、サトシの傍らで動かなくなっているマサキに、気がついたからである。


「キノシタ君、ちょっと落ち着こうか」

 アンリは半ば錯乱状態になっている。コウゾウは、アンリの口を抑えた。騒がれたら、困るからだ。


 これを見たサトシは、こんなんでやっていけるのかと、改めて思った。




 コウゾウはサトシに、オーバーサイズの上着を着せる。

 続いて、なるべく人目につかぬように、車に乗せた。


 帰社途中の車内、サトシは後部座席に座り、窓にもたれ掛かっていた。


 その時、サトシの身に妙なことが起こった。


『失礼します。警察のものですが――』

『これは……こちらで預からせていただきます。連絡は後ほど――』


 まったく預かり知らない記憶が、脳内を駆け巡ってきたのである。


「……これは、一体?」

 サトシは、噛み締めるように、流れてくる記憶を辿る。


『最近、ここらで、あるヤクが出回っていてな。スロートバイトって言うらしいんだが』

『俺ら、スロートバイトは扱ってないぜ。どうにも、よく知らない連中が、これを広めているらしい――』


「スロートバイトは、人をヴァンパイアにする薬だ。超能力が使えるようになるって聞いたことないけど……そういえば、スロートバイトとは別に、そんなような薬を飲まされたような……」


 サトシは流れてくる記憶を反芻(はんすう)していた。


「にしても、マサキさん。押収品に手を出した挙句、ヤクザと手を組むとか……悪い刑事さんだ」

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