表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

雪夜の踊り子

作者: 山菜歩

「レッツゴー非武装地帯のお時間で~す」

俺はぽつりとつぶやいた。

以前お笑いラジオ番組で、こんなコーナーがあったのだ。

妙に気に入ったので、俺は「ある場所」に行く度にこのフレーズを口にするようになった。


え?俺の名前?

いやん。恥ずかしかぁ!

ってあああ!なんばしょっとですか!?石投げんといてーな!

あーもうわかったわかった。

取りあえず「夏樹」って呼んでくれ。


で、俺のいる場所。

冒頭の台詞を言うくらいだから、今俺は「ある場所」にいる。


最後に、俺の趣味。


怪談・都市伝説の解明調査。


・・・はいそこの紳士淑女の皆さん!引かないで下さい、ツッコまんといて下さい!!

俺ガキの頃からフシギミステリーが大好きだったんですー!

ほんで気が付いたら、暇を見つけては怪談スポットに赴くようになっていたってわけなんですー!


***


話を戻して。

俺は今いる場所は、廃園になった市内の緑地公園。

バブル全盛期に建てたはいいが、来客が少なくいつの間にか閉園になっていたという淋しすぎる公園だ。

取り壊すにも金がいるので、そのままになっているとか。

ヨーロッパのシャトーを模した一角で、15分おきに噴き上げる噴水が物悲しい。


季節は冬。

昨夜から昼間にかけて降っていた雪で、辺り一面は白銀の世界。

そして、夜空には煌々と光る月と相まって、雪明かりで辺りを何とか視認できるくらいに、ほんのりと明るい。


こんな日に、ヤツは現れる。

「雪夜の踊り子」

最近流れ出した都市伝説だ。


冬の夜、この辺りで踊っている影を誰かが見かけたらしい。

大きさから言って子供。

身に付けている服全てが白一色。

長い銀髪に、銀色の瞳という容姿。

影がくるくると踊る度に、「月が出ているにもかかわらず」雪が舞い始めるとか、踊りがとても幻想的とか・・・。

気が付くといつに間にか消えていて、そこにいたはずなのに、足跡も一切残っていなかったという・・・。

その人が見た幻だったのか、それとも幽霊だったのか、盛んに論議されているのだ。


・・・・確かめたろうやないの。


俺の、フシギミステリー好きの血が騒いじょる。

と言うわけで、俺は寒さ対策・完全装備で、魔法ビンには熱いコーヒーを入れて持参。

シャトー近くの噴水の周りの生垣に身を潜めている。

俺がよく利用している都市伝説系サイトの情報によると、どうやら雪夜の踊り子は人の気配を感じると逃げてしまうらしい。


***


月が拳2個分傾いた頃。

時計のバックライトを点灯させると、もう零時を回っていた。

噴水の水面には、ゆらゆらと夜空が映っている。


きゅっ


微かな物音に、コーヒーを飲む手を止めた。

まるで「雪を踏んだような」音。

俺はそっと木陰から音のした方を見た。


セーター、ポンチョ、スカート、ブーツ・・・。

身に付けている服全てが白一色。

長い銀髪に、銀色の瞳と言う容姿。


-雪夜の踊り子だ-


俺が思わず身を乗りだそうとしたとき。


とさとさっ


俺の頭上の木から、雪が落ちてきた。

神様のばかやろう。

踊り子が振り返る。

(終わった・・・)

そう思ったが・・・踊り子は逃げ出す素振りを見せなかった。

「あ、えーと・・・。こんばんは」

思わず頭を下げる俺。

意外な事に、踊り子もおじぎをし返してくれたのだった。


***


「おっちゃん怖くないから」

見た目お子様な踊り子に、逃げなかった事を聞いた理由がこれだった。

「俺はおっさんじゃないわっ!!」

俺は相変わらずコーヒーを飲み、踊り子には雪に刺しておいた冷たいミルクを渡した。

ぬう。ミルク好きと言う噂はホントだったんだなぁ。

「ボク、雪しか見たことないんだ。だから怖いんだ、暗い色が。死神みたいで」

俺の抗議は軽くスルーされた。

ま、確かに冬場は暗色系のコートを来ているのが多いわな。

「で、何で『ここ』なん?」

「ここ、昔ボクが住んでいた所に似てるんだ」

俺は頷く。

でも、もうひとつ疑問が残る。

「夜は大丈夫なのか?真っ暗やろ?」

「夜は平気。ボク、太陽に当たると溶けちゃうから、夜しか動けないんだ。それに」

踊り子は空を指差す。

「月があるもん。明るいから怖くない」

「なるほどな」

俺は納得して頷いた。

「あーと・・・。何て呼べばいいんだ?」

今更ながら、踊り子の呼び方に困った。

「ボク、名前がないんだ」

少し寂しそうに、踊り子は微笑んだ。

「んー、そっか。・・・じゃあ、お近づきの印に、俺が名前付けたる」

「・・・ボクに名前くれるの?」

踊り子は目を丸くした。心なしか目がキラキラしてるぞ。

「ああ。『白銀しろがね』。どうだ?」

「しろがね?しろがね・・・どういう意味?」

俺は指で地面に「白銀」と書いた。

「雪で覆われて真っ白な事を言うんだ。お前にぴったりじゃろ?」

俺はにっと笑った。

「うん、ありがとう」

「あ、俺は夏樹な」

「うん、ナツキ」

踊り子-白銀-もにっこりと笑った。


***


「ボク、真っ白でしょ?いろんな色があるナツキがうらやましい」

少し雑談をしていたとき、ふと白銀が漏らした。

ちなみに俺の服装は、ベージュのダウンコートにGパンです。確かにカラフルだ。

さっきの白銀の言葉からすると、この配色だったから逃げなかったのかと思う。

「ナツキのこれ、いいなぁ」

白銀は俺の頭を指差した。

ヘアバンドの事だろうと思い、外した。

俺のヘアバンドは、レンガ色の生地に何色かの色糸の刺繍が入った物である。

「あ?これか?」

「うん。変な色。ナツキの服もそうだけど、見たことない」

「ボロクソ言うなぁ・・・」

俺は苦笑する。

「うん。でも好き。ふかふかであったかそうな色なんだもん」

物欲しそうな目をしている白銀に、俺はヘアバンドをプレゼントすることにした。

「ん。わかった。ちょっと髪いじるぞ」

「え?うん」

一言断ってから、白銀の髪を上にまとめ上げ、ポニーテールを作る。

白銀の肩が少し強張っている。緊張しているのだろう。

「耳が寒いー」

「大丈夫じゃって。これからあったかくなるけん」

そう言うと俺は、耳を覆うようにヘアバンドを被せた。

「ほら、出来たで」

俺の一言に、白銀は噴水に足を運んだ。

水面を鏡代わりにしているようだ。

「うわぁ!ナツキ、ありがとう!」

笑顔で振り返ると、白銀はくるりとその場でステップを踏み始めた。

「へへ。ナツキへのお礼だよ」

そう言うと、白銀は踊り始めた。


ふわり ふわり

ひらり  ひらり


柔らかい新雪のような、優しい舞踊だった。


ふわ


俺の目の前を、白い物が落ちていった。

雪だ。

夜空を見上げる。星も月も出たままだった。

タイミングよく、噴水が噴き出した。

俺から見ると、噴水の頂点に月が乗っかっているようにも見える。

(自然の燭台やあ・・・)

星がそのまま落ちてきたのかと思えるような、満天の星空からの降雪。


閉ざされた場所で、現実にはありえない風景に、俺は言葉が出なかった。

ちょっとでも触れると溶けてしまいそうで、俺は黙って白銀の踊りを鑑賞することにした。


***


「そだ。さっきから言おう言おうと思ってたんだけど、お前、『ボク』言うのやめとけ」

「え?何で?」

自然とのコラボレーション・ステージを堪能した後、俺は白銀に言ったのだった。

白銀は目を丸くする。いかにも心外そうな顔だ。

「ええか?お前、女の子だろ?おかしいじゃん」

「え?ボク男だよ?」

「ええええぇ!?お前男なんかい!?」

わりと衝撃的な事実を聞き、俺は大声を上げた。

「そだよ」

「詐欺やああああぁぁっ!」

あっけらかんと答える白銀の言葉に、俺は頭を抱えたのだった。

だって・・・だって・・・。

こいつの格好、どう見ても女の子やん!

しかも、絶世の美少女なんだぜ!?

「ねえナツキ、ボクからも聞いていい?」

「何じゃい」

頭を抱えたまま、俺は聞く。

「ナツキって何人?うさんくさい言葉使ってるからさ」

「ほっとけ~!癖や!」

北から南、あらゆる方言が飛び交う家庭環境に身を置かれてみろ。

方言がうつりますって!


***


「ん、もう夜明けかぁ」

少しうとうとしはじめ頃、周りの景色が明るくなり始めた。

「ボク、もう帰らなきゃ」

「そっか・・・。また、会えるよな」

何だか名残惜しくて、俺は白銀に聞いた。

「うん・・・きっと。またね、ナツキ」

俺の言葉を待たずにそう言うと、白銀はふわりと消えたのだった。

無論、俺以外の足跡は残っていなかった。

(たぶんもう、会えないんだろうな)

俺はそんな予感をしていた。

だって、白銀は泣きそうな顔をしていたから。


そして知らぬ間に、俺は泣いていた。


たった数時間の間だったけど、確かに俺は白銀に友情を感じていた。

そして、白銀も・・・。

零れ落ちた涙が雪を溶かす。

寂しくて、とても残念で。

俺は日が登るまで、その場にしゃがみこみ、泣き続けたのだった・・・。


***


雪夜の踊り子・白銀。

本当にいた事は確認できた。

できたけど・・・これは俺の心にしまっておこう。


自宅に着いて、パソコンを立ち上げる。

そして馴染みの都市伝説系サイトに繋げた。

掲示板にて。

"あかん。一晩粘ったけど見れんかったわー"

俺はキーボードを叩く。

数分後に「暇人」とからかわれながらも、ねぎらいのレスをもらったのだった。


"よっしゃ!次は俺が行ってくる!"

"でも今度雪降るのいつだ?"

"つか条件が全部揃うのは相当な奇跡だぞ?ナツキはそれでも見れなかったんだろ?"



様々なレスが飛び交うが、俺はふっと笑うとページを閉じたのだった。


fin...

雪夜の踊り子。最後までお読み頂き、誠にありがとうございます。


実はこの小説、ある曲がモデルになっています。



その曲は、ドビュッシーで「ベルガマスク組曲 月の光」です。


今まで歌詞のある歌をベースに書くことはありましたが、曲オンリーは初めての作品です。



以前スカイプ仲間とクラシックの話題で盛り上がった時、音大では入試の時に「ある曲」を聴いて曲から時代背景や作者が伝えたかった事等を論文にする試験があるそうなのです。


面白そうじゃん。

と思っていたら、とても難しいorz


とにかく曲を聴いて自分でイメージできたモノ。

・冬の月

・噴水のような旋律


から、ない頭をフル回転させ書き上げた次第です。



頭が疲れた歩でした。音大生ってすげぇ・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ