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優秀な凡人。

作者: 深井リオ



凡人。そう、私は凡人だった。学校のテストでは80点から90点をとり、体力テストでも平均以上。友達もそこそこいて、家は裕福で親も優秀な人。

つまり私は優秀な凡人なのだ。偏差値で言えば60を超えたあたりの同年代で上位30%に入るような優秀さだ。

優秀なだけでは凡人から脱却できないと知ったのは高校に入ってからだ。勉強をそつなくこなせた私は県内でも有数の進学校に通った。偏差値は60を超えたあたりの、身の丈にあった学校だったと思う。

だが、そこで得たものは「現実」だった。

全員が自分と同じか、それ以上に優秀であると感じる日々。私の「優秀である」という個性はその学校では前提条件でしか無かったのだ。

現実を見たくはなかった。自分は井の中の蛙だったのだ。結局、真に優秀な人から見れば私などただの凡人と変わりはしないのではないかとそう思ってやまなかった。

私は鬱になった。学校にも行かなくなった。自分の凡人さに嫌気がさし、誰も入ることがない自分の部屋へ、安住の地に引きこもるようになった。

自分を優秀であると信じていた人間が、その信仰を失った時、その眼鏡を失った時見る世界は、私にとって失楽園と表現する他ない。

私は優秀だった。いや、今でも優秀である。優秀であるからこそ、自分がなぜ凡人でなぜ他の人達が優れているのかが説明できてしまう。

鬱は加速していった。安住の地で考えることは「なぜ自分は凡人なのか」と嘆くことばかり。

食べ物が喉を通らなくなった。

「凡人」である自分が、何かの、可能性があったかもしれない命を頂くことに嫌気がさしたからだ。

そして、人に優しくなれた。

自分が誰より凡人であるとわかっているから。

自分にできないこと、非凡なことを成す人のことを心の底から尊敬できた。

そんな毎日。

自分を卑下し、周りを褒め称える。自分の部屋では誰より汚い言葉で自分を罵り、掲示板では誰よりの尊敬を持って才人を褒め称えた。

生きることを苦役と感じていた。

何度、死にたいと思ったことだろうか。

でも毎日を漠然と生き続けた。死なない程度に「この位は許せる」くらいの食事をし、一日の半分を寝て過ごす。

人間の生活かと言われたら間違いなくNOと言える。

そう、私は、人間ではなくなったのだ。

社会から逸脱した存在。誰とも喋ることの無い、ただ生きているだけのナニカ。

皮肉にも、私は凡人ですら無くなっていた。

ただ、そこにはあるのは死ぬまでもなく死んでいる、誰にも認識されることの無い17年生きただけの肉塊。

誰の役に立つ訳でもない、ただ資源を浪費することしか出来ない。社会的になんの価値があるとも言えない、生ゴミだ。

私は気づいてしまった。優秀だったから。

人よりも分析能力があったから、観察眼がある!と褒められ、伸ばされてきたから。

気づいてしまったならどうすればいいか?

社会性動物として正しいことはなにか?

そんなことは、凡人にだってわかる。

マイナスは無くなるべきだ。赤字は潰していかなければいけない。無能な穀潰しは排除するべきだ。

私は、私は、私は、私は、わたしは、わたしはわたしはは、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

死ねなかった。醜く生に縋っていた。なぜ死ねないと自分を罵った。

罵った。罵った。罵った。罵った。

でも、死ななかった。

理由は、怖かったから。死が、全てが無に帰ることが。だって、まだ、何も成し遂げてない。

まだたったの20年しか生きてないのに!

非合理的なことなんてわかってる。

死んだ方がマシだ、と思いながら生きている。

自分より価値がない人間なんていないと思いながら、生きている。

矛盾の塊だ。

でも案外、こんなものなのかもしれない、そう思えてもくる。

ほかの人たちだって、その他大勢の凡人の皆様方だってそう思いながら生きてるのかもしれない。だって、才人が世に出す言葉にだって自分の無力さを嘆くようなものが多いから。

私が心の底から尊敬できる人達だってそうなんだ。誰よりも凡人の私なんて、尚更のことだろう。

才人が遺してくれた、私の好きなフレーズに

「涙にすらならないような憂いで、強く願う」

という、素敵な言葉がある。

私は憂いに何を願うだろうか。

きっとこう願う。

「凡人になりたい。」




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― 新着の感想 ―
[一言] 子どもの頃は自分が天才ではないにしろ、何かしら秀でていると思って生きていたのが、歳を重ねる毎に自分の平凡さを突き付けられる。 大半の人間はその挫折の中で自分に折り合いをつけて生きていきますが…
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