復讐の始まり
真琴が赤子を亡くしていたその頃、隼人と太一は、太一が経営しているバーで2人飲んでいた。
謎の熱病が蔓延し、外出が規制され、飲み屋には客が来なくなってしまっていた。
客が誰も来ない太一の店に、仕事終わりの隼人がからかい半分に遊びにきたのだ。
「すっごい静かな店だな。やっていけんのか?」
「厳しいな。熱病のせいで客は来ないし、経済もまわってないだろ?親父から譲ってもらったこの店を畳もうかと思ってるよ。始めたばかりなのに…まったく、なんでこんな事になったのかね」
2人からは愛良の話題が出ることはなかった。
「そういえば、お前知ってるか?」
隼人は、ハイボールを煽りながら語り出した。
「最近、SNSで話題の話。深夜遅くに、鉄錆の匂いと、風が隙間を吹き抜けるような音を聞いた者は死ぬって話。全身赤黒く腫れ上がって死ぬんだってさ」
「なんだよそれ、新しい都市伝説か?くだらねー」
「都市伝説かどうかは知らないが、全身が腫れ上がって死んでる遺体は出てるらしい。中部地方から始まって関東方面に広がっているらしいぞ。また新たな奇病かもな。ま、気をつけろって事だな」
そんな会話をしている時、店内の照明が消えた。
「おい、停電か?電気代払ってないんじゃないか?」
からかうように言いながら、暗闇の中隼人はハイボールを一口飲んだ。カランッと氷の音が響く。
「うるさい。ちゃんと払ってるよ。まってろ、今スマホで… 」
ライトをつけるから。そう言おうとした太一の耳に、(フヒュー …フヒュー …)という音が聞こえた。
「おい、隼人、変なイタズラはやめろ」
「何の話だ?」
隼人のイタズラかと思ったが違う。鉄錆の匂いまでしてきた。
この音、いや、この声、この匂い、覚えがある。
慌ててスマホで目の前を照らした太一の目に、隼人の背後に佇む、赤黒く痣だらけで全身晴れ上がり、顔の穴という穴から、白い蛆虫が『ポトリ、ポトリ』這い出し落ちていってる女の姿が映った。
「うわぁぁぁぁぁ!」
太一の叫び声で、反射的に振り返った隼人の目にも女の姿が映った。
「お前・・・まさか・・・あの時の・・・」
隼人が呟いた途端、女の手が隼人に向かって伸びた。
◆◆◆
隼人と太一の訃報が、悠の元に届いた。
同級生から、隼人と太一の遺体は、全身が腫れ上がり、体からは蛆が湧き、土をかけられた状態で死んでいたと連絡がきた。
真琴が産んだ子供と同じ腫れ上がった体。
最近は、隼人や太一、亡くなった子供と同じような症状で突然死している事案が増えた。
それをきっかけに、他国は各種制限を禁止にした。入出国禁止、輸出入禁止。
日本は、さらに追い詰められていった。
悠達の両親も、悠達の生活費の援助をする余裕がなくなってしまった。真琴の出産時の事が親にバレたこともあり、怒った両親は援助を打ち切った。
出産後、精神的におかしくなった真琴。
ずっと部屋の片隅で「赤ちゃん… 私の赤ちゃん… 」それしか言わなくなっていた。自分の身の回りの事も出来ないほどおかしくなってしまった。
真琴を養いながら生きていく。今まで、努力をしてこなかった悠には難しい事だった。
「くそっ!なんでこんな目に!」
真琴の事は放置し、一人風呂に入る。真琴の事も、生活費の事も、何もかも最悪だ。俺が何をしたっていうんだ!
悠は愛良にした事を、まったく反省していなかった。
イライラしながら、湯船に浸かり、目を瞑った。
ふぅ
イライラを落ち着ける様に、湯の温もりを堪能していた。
そんな時、ポトリと何が湯に落ちてきた。
ん?なんだろうと目を開けてみてみると、白い蛆が湯の中でウネウネと動いていた。
うわぁ!
その叫びとともに、湯の底から白い蛆が湧き出してきた。
蛆の風呂の中、恐怖で動けない、いや、ガタガタ震えるしかない悠の足元から、赤黒く晴れ上がり蛆が内側から湧き上がっている黒い影が、ゆっくり浮き上がってきた。
ゆっくり
ゆっくり
「……おまえ… 愛良か…?」
思い出した。あの目。黒い影の奥からのぞくあの目。蛆が這い出している奥から見えるあの目!
土で埋めている時に見たあの目だ!
愛良はそのまま、震えて動けない悠に急速に迫り口づけをしてきた。その途端、愛良の口から大量の蛆が吹き出し、悠の口に押し寄せてきた。
苦しい
体は拒絶しているのに、強制的に入ってくる蛆。目からは涙が止まらない。痙攣が止まらない。
苦しい
膨れ上がる腹。限界に近づくと、器官を蛆が塞ぐ。息が出来ない。
苦しい!
なんの抵抗も出来ず、窒息死寸前の悠の目や耳といった全身の穴という穴から、蛆が這い出していった。
はっ!
気がつくと、悠は部屋で横になっていた。
側で真琴がブツブツ言っている。
「夢か…?」
全身汗でびっしょりだ。
「夢か… 」
そう思った途端、
「あいら… ごめんなさい… あいら… 」
真琴がそう呟きながら、部屋の隅でガタガタ震えていることに気がついた。
怖くなった悠は、慌てて家を飛び出した。
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