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全ての者に復讐を  作者: 流風
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女神の気まぐれ

 女神は退屈だった。


 終わりない長い年月を生きる神にとって、刺激や楽しみを見つけるのは難しい。



 一人だけ。


 これだけ人間がいるんだから、一人だけならいいよね。

 ずっと地球を、日本を見守ってきた女神。地球で暮らす生物達に関しては、ずっと干渉しないように、手を出さないようにしていた。ご法度だから。


 でも、今回は違った。下界を覗き、目についた15歳の女の子。その子の幸運値を限界まで下げてみた。この子がどんな人生を送るのか。そんな、ちょっとしたイタズラ心。ちょっとした気晴らし。

 その程度のつもりだった。


 ずっと天上で見守っていた女神からは、長い年月が経つにつれ、下界の事がまるでゲームのような感覚になっていた。だからこそ、少しならと思って行動してしまった。




 ◆◆◆




 西谷愛良は一般的な家庭で生まれ育った。サラリーマンの父とパート勤めの母。決して裕福な家庭ではなかったが、その二人の一人娘として大切に育てられていた。

『良い愛にたくさん包まれる子に育ってほしい』そんな思いを込めて愛良あいらと名付けられた。


 平凡な、多少嫌な事はあっても、それなりに平和な生活を送っていた愛良は、高校一年の春から人生が一変した。


 高校入学前のタイミングで、愛良の父がリストラされてしまった。


 平凡なサラリーマンだった父の貯えはあまりなく、住宅ローンの返済が困難になった西谷家は、家を手放すしかなかった。

 しかも、なぜか家の買い手が早々に見つかり、格安で家を手放すこととなった。


 父の再就職先も見つからず、家庭は一気に貧しくなった。生活のため両親は離婚。愛良は母と一緒に暮らすようになった。

 愛良の将来のため、高校は卒業してほしい。そんな両親の願いを受け、愛良は母子家庭の奨学金を申請し、バイトしながらも通うこととした。


 しかし、苦労して通うことにした高校では、イジメに遭った。SNS上での仲間外れ、誹謗中傷、知らぬ間に自分の写真や個人情報を拡散された。

 陰で暴力を振るわれる事もあった。


 中学からの友達も巻き込まれたくないと、愛良から離れていった。

 人は集団を作る事が好きだ。その集団の中で必ず序列を付けようとする。下位に追いやられたり、集団の外にはじかれる人にとっては堪らない。今の愛良がまさにそれだ。

 皆、下位に追いやられないように、自分を守ることしか考えていない。だからこそ、愛良を生贄に、自分の身を守る事にしたのだ。


 ボロボロの心となっていった愛良。しかし、決定的だったのは、男女のグループによる性的な嫌がらせだった。


 人があまり来ない、取り壊し予定の旧校舎の一室に呼び出され、男3人によるレイプ。それをケタケタと笑いながら動画を撮る女。


 愛良は何度も嫌だと言った。泣いて「やめて!」と頼んだ。逃げ出した瞬間に、リーダー格の男が全力で愛良の腹を蹴った。


「かわいそう~!女の子に暴力はダメだよ」


 全然かわいそうなんて思っていない。スマホを愛良に向けたまま、女は楽しそうに言ってきた。その発言に反応できる余裕は愛良にはなかった。蹴られた腹を庇うように、蹲っていた。


 抵抗する力は、愛良には残されていなかった。


「俺だって暴力振るいたくないんだぜ」


 そう言いながら、愛良の体を踏みつける男。


「次逃げ出そうとしたら、もう一発蹴るぞ」


 愛良に抵抗する術はなかった。彼らはまるで、玩具を扱うように愛良の体を穢した。痛がろうが泣き叫ぼうが、そんな愛良を見てむしろ楽しんでいた。


 この日から、愛良の地獄が待っていた。


 上位カーストと呼ばれるグループに目をつけられた愛良は、玩具として、商品として扱われた。小遣い稼ぎのために、知らない人間に愛良の体を提供することもあった。映像を撮られ、それを売買される事もあった。SNSに淫乱女・売春婦として拡散され、嫌がらせは悪化していった。


 SNSでの冷たい言葉。同級生からの態度。見て見ぬふりする教師。


 愛良が虐められている時、遠巻きに見ているだけの同級生達の顔には、喜びが溢れていた。手で口元を隠していても、見え隠れする表情。自分でなくて良かった。自分より下の人間がいて良かった。

 愛良は、そういった人々の表情から、悪意をまざまざと見せつけられ、絶望していった。


 その事を、愛良は親に相談できなかった。日中も、夜も仕事をしている母と会う時間もなかったが、自分の為に寝る間も惜しんで頑張って高校に行かせてくれた両親に、みじめで、情けなくて、何よりも、親に恥ずかしい娘と思われるかもしれないと、怖くて言えなかった。

 家に引き籠ろうとしても、奴らが押し掛けてくる。仕事で家に誰もいないため、奴らは自由気ままだ。愛良に逃げ場はなかった。


 親の愛があるから。愛良は耐えていた。愛良の唯一の心の拠り所は両親のみだった。それ以外の人類は皆敵だった。感情を捨て去り、両親の為と、そう思って自分を納得させ、ひたすら耐えていた。


 そんなある日、愛良は妊娠している事に気付いた。


 中絶するお金はない。両親に相談はできない。


 愛良は、死ぬことを決意した。


 しかし、死ねなかった。首を吊ろうと思っても、縄は切れる。


 飛び降りをしようとしても、誰かに止められる。


 女神が与えた力は、『死ぬ』という逃げ道すらも、愛良から奪っていた。


 そんな愛良を、奴らは旧校舎へ呼び出した。「妊娠した。もう無理」そう言った愛良に逆上した男は殴る蹴るの暴力を振るった。

 高校生で妊娠。もしも自分の子だとバレたら…そう思うと、恐怖と、愛良への逆恨みの気持ちが膨れ上がった。

 女神の呪いが原因かはわからないが、明らかに過剰な暴力だ。

 周りの静止を受け、やっと落ち着いた時には、愛良の顔は黒紫色に腫れ上がり鉄錆の様な血の匂いを漂わせ、そして息をしていなかった。


 殺人。


 まずい。


 彼らが真っ先に考えたのは、自分達の将来の事。愛良の事など誰も考えていない。

 今は放課後。ほとんどの生徒が部活も終わり帰り始めている。

 とりあえず、裏山に穴を掘りに行き、愛良をそこへ埋めることにした。




 ◆◆◆




 暗闇の中、愛良を運んでいると、風に乗って鉄錆の様な匂いと、(フヒュー フヒュー )と、風の抜けるような音がする。

 愛良が、生きていた。腫れ上がった顔で必死に呼吸をしていた。

 それに気づいた時、怖くなった連中は、慌てて愛良を穴の中に放り投げ、土を被せていった。


 今更、病院に連れて行くこともできない。自分達の事が明るみに出るのが怖い。人生が終わる。

 誰も、愛良の事など考えていない。


(フヒュー … フヒュー…)


 その音を聞きながら、鉄錆の様な匂いを嗅ぎながら、土を被せ埋めてしまった。

閲覧ありがとうございました。

今後もよろしくお願いいたします。

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