1件目 社畜男、べリア
とりあえずなんか書いてみました。不備があったら訂正するので教えていただけたら幸いです。
よかったら楽しんでってください。
カタカタカタ、カタカタカタ、と今日も頭骸骨通信機が愉快に歯を鳴らす。
「またか!またなのか。今日で何件目かわからんぞ全く!!」
悪態をつきながら急いで仮眠ベッドから飛び起きた男は、カタカタ震える頭蓋骨の上あごの前歯をカチリ、と上に押しこみ紐のついた骸骨の下あごを外し耳にあてた。
「はい。お電話ありがとうございます。こちらレヴィア魔王城カスタマーセンター対人類課でございます」
先程までのだみ声から豹変したような美声で男は電話をとった。
「本日はいかがなさいましたでしょうか」
「ちょっとあのぉ魔物が強すぎるんですけどどうにかならんもんですかね?自分勇者やってるんですけどぉ、なんかそちらが提供してらっしゃる経験値ダンジョン?あれで死ぬんですけどまじなんとかならんもんですかねぇ」
どうやら電話の相手は小金持ちの男の駆け出し勇者のようだ。
経験値ダンジョンとはその名の通り、魔王軍が経営する特殊ダンジョンのことである。経験値とは能力向上に必要な成長エネルギーであり、経験値ダンジョンはそのエネルギーを効率よく取得できるのだ。
だがダンジョンに入るには魔石という、魔法を使うために必要なエネルギーである魔力が凝縮された石をダンジョンのレベルごとによって一定数捧げるという仕組みがある。魔石は野生の魔物から採取する、もしくは市場で購入することで入手できる。ある意味世界の共通通貨である。そのため経験値ダンジョンには、富裕層、もしくは魔石をある程度集めた冒険者や勇者しか基本的には入れない。
法外な魔石を必要とするのに得られる経験値が低い、また必要魔石は少ないが魔物が強烈に強い初心者殺しのダンジョンなどは、世界ダンジョン維持機関、通称WDMの上級冒険者らによって完全に破壊されてしまう。そのためこのように通信対応によって環境管理をしてダンジョンの維持をするのがダンジョン経営の基本になっている。
「それはご迷惑をおかけしました。大変申し訳ございません。魔物の管理体制に関するご意見ありがとうございます。恐れ入りますがダンジョン名のほうはどちらになっているでしょうか?」
「んぇ?ダンジョン名ぃ~?あーバルバトス大迷宮ってやつだったと思う」
「それは……弊魔王城の管轄ではなく西のゴエティア大魔王城の管轄でございますね」
「ほーん。知らんがな。そっちで対応してくれや」
「大変申し訳ないのですが弊魔王城とゴエティア大魔王城には関りがございません。お手数をおかけしますがゴエティア大魔王城の方へとお電話をおかけください」
「あほくさ。もうええわ」
通信終了を表すカシャアンという骸骨が鳴る音を最後に下あごは完全に沈黙した。
男の手元から離れた下あご受話器は紐の弾性によって元の位置にカパリと戻る。
通信が終わると同時に男は気が抜けたように椅子にもたれかかった。
「く……くだらん間違い電話なんかするなよ……」
ボソッと男がガッスガスのだみ声で文句を言ったとき、入り口の扉が勢いよく開いた。
「べリア様!!魔王がお呼びです。至急深海殿まで来るように、と」
男をべリア様と呼んだのは、低級骸骨兵のスケ。カスタマーセンターの扉を勢いよく開けすぎたせいでドアノブを掴んでいたスケの右手が肩からすっぽり抜けている。
16連勤なんだぞ…少しくらい休ませてくれ…そう思ったべリアはスケの言葉に簡潔に返事をした。
「断る」
「だめです。ほら行きますよ。べリア様。幼女魔王が待ってます」
スケは外れた右手を肩にはめるとべリアの手を引いてカスタマーセンターの外へと連れ出す。
過労で衰弱しきったべリアはスケの手を振りほどけないまま深海殿へと引っ張られていく。
スケに引きずられるほど弱体化するとは……屈辱的だ…
……ああもういいや…そうだ、異動しよ…
高貴な悪魔、べリアはブラック魔王城で社畜になっていた。
続く
次回、驚異の頭脳 幼女魔王レヴィア