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世界に魔法が生まれた時に~魔法使いの骸〜  作者: 夏ノ鈴音
それは、魔法がまだない世界で
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4.小さな嘘

パキッ━━━━。

焚き火が爆ぜた。燃える茜色の炎をロイドは見つめながら、家にいるレノアはどうしているかをひたすら考えている。


(怖い夢を見ていないだろうか)


焚き火を囲んでモーゼス達は休息中。横になる事はないが、胡座をかき剣を支えにして目を閉じている。空も見えない森の中、安息などはないが休める時に休むのもまた仕事である。


燃えた灰を掻き出し、太めの木と小枝を黙々と足して火の番をする。

森の湿った木は火がつきにくい為、様子を見ながら微調整をしていくものの、四度目となるとロイドは慣れていた。

そろそろケニーへ交代する時間だ。声をかけようと顔を上げる。


「ぐぅ·····。」


向かいにいるケニーは船を漕いでいた。


「おい、ケニー。」モーゼスが片目を空ける。

「いいですよモーゼス。寝れるなら寝た方がいい。」

「甘いなロイドは·····。おいキース。おい!」


呼ばれたキースはピクリともしない。どうやら二人共安心して寝ているようだ。やれやれとモーゼスは姿勢をただし、持っていた剣を地面に置く。彼はロイドの前に火の番を終えているが、起きない二人の変わりに一緒に起きていてくれるようだ。


「ったく、始めて森に入った日の夜はビビりまくっていやがったのに、慣れっつうのはいけねえ。」

「そうですが、この森が特殊なせいもありますよ。」

「それはあるな。生き物が居ねーってのも不気味な話しだ。」


モーゼスはロイドの方に近寄り、懐から携帯食を出す。「食うか?」と差し出されたが、それがとても不味いのを知っているので首を横に振った。


「森が死んでいるようですね。鳥や小動物、虫も見かけないなんて。」

「まったくだ·····ちゃっちゃとおさらばしたいんだがな。目当てのものがいないんだから困っ··て····。」

「··なるほど、何か生き物を探しているのかい?」

「ちっ·····。」モーゼスはしまったと顔を覆う。「ああ、そうだ。"生き物"を探してる。おそらくな·····。」

「おそらく?ということは、正体を知らないのか?」

「もちろんさ。」


おどけてみせたモーゼスは、深いため息をつくとポツリポツリと話し始めるのだった。


「お前はこの死の森ってのが成長をしているって言ったら信じるか?」

「成長?」

「そうだ。周りの森が広がってんだ。この二十年くらいでな。」


確かに木々は成長するだろうが、彼の言いたい事がわからない。ロイドは首を傾げて続きを促す。


「なら、今俺たちがいる石の道な。これな、二十年前は街道だったんだと。馬車を置いてきたクストの町に繋がってたんだ。」

「まさか!?たった二十年で街道が樹海に呑まれたっていうのか?」


思わず大きな声を出してしまったロイド。キースやケニーが声に驚き、目を覚ました様であったが、ロイドは静かに頷くモーゼスから目が離せないでいた。


「まさか、そんなことが·····。じゃあ、この街道はいったいどこに繋がってるんだ?」

「そうだな。聞いた話によるとだ、街があったんだとよ·····五十年前の文献にそう書かれてたらしいからあんまり信じたくないんだがよ。俺たちが探してる"生き物"に滅ぼされたっていう街が。」

「滅ぼされた?街が?」


モーゼスが嘘をついているようには見えない。

チラリとキースやケニーの方を見るが、俯いたまま黙っている。

確かに大森林には黒い化け物の逸話がある。それが時が経つにつれて子供の悪戯を戒めるお話になったというなら説明がつく。が·····。


「五十年前の"化け物"が本当にいると?」

「いないと俺たちゃ困っちまうなぁ〜仕事が終わらないだろ。」

「そうかもしれないが、"化け物"なんて文献の比喩じゃないのかい?流行病とか正体が掴めなかったものを呪いや化け物のせいにしたとかあるじゃないか。」

「まぁ、そうなんだが····もういいか。依頼の内容はな、"黒い化け物の心臓"を持ってこいなんだ。」

「は?」


ロイドらしからぬ声が思わず口からもれ、怒りが込み上げてきた。モーゼスにもこの依頼をした奴にも。


「なぜ依頼を受けた?死ねと言われているような依頼をなぜ!?」

「俺だって最初はそう思ったさ!でもな、言われた通りに休憩小屋から地下通路が伸びてて、街道の跡が森の中にあって、文献の写しと街道の近くにあったものの痕跡が辻褄があっちまうんだよ!」


モーゼスの胸ぐらを今にも掴みそうな勢いでロイドは立ち上がる。

慌てたキースやケニーが割って入ろうとしたが、モーゼスも負けじとロイドに挑む。


「だからって化け物が何かもわからないじゃないか!?黒い狼がいたらそいつの心臓を持って帰るのか!?偽物だと言われてお終いだ!」

「化け物がなんなのかぐらい聞いたわ!見れば直ぐにわかる!この世のものとは思えない程おぞましく、凶悪だそうだ!」

「そんなこといくらでも言える!」


今にも殴り合いそうな二人。ケニーはモーゼスを後ろから羽交い締めにし、キースはモーゼスの胸ぐらを掴んでいたロイドの左腕を引き剥がす。


「辞めてください隊長!やっぱりこんなやつ連れて来るべきじゃなかったんだ。」

「離せケニー!」

「オレたちがどんな気持ちでこの半年間やって来たかも知らないで。」

「えぇ、分かりかねますね。」


ロイドはキースの手を払い除け、軽蔑した眼差しを返す。

今までモーゼスの為に大人しくしていた。だが、もうその必要はないだろうと判断する。むしろここで痛い目にあって目を覚まさせた方がいい。


「隻腕の癖に偉そうに!過去の栄光にしがみついてんじゃねぇ!」

「ダメだキース!!やめろ!」モーゼスが、ケニーの腕を振りほどく。


怒りで顔を真っ赤にしたキースが背中の大剣を引き抜き振りかざす。

同時にロイドはそのまま一歩踏み出し、身をかがめ右腰の剣を逆手に引き抜くと、振り下ろされる大剣の動きに合わせて、懐に潜り込んだ。

剣の柄で相手の肘を上へ強打し、振り下ろした大剣の自重が、強打された肘に更に負荷をかける。ミシッ。


全ては瞬きする間の出来事だった。


キースはモーゼスの全力の体当たりのおかげで、腕が折れる前に大剣を落とした。が、吹き飛ばされ木に激突する。モーゼスは勢いを殺せず地面に顔から突っ込み、助けようと剣の柄に手を置いたケニーは、頬スレスレを矢の様に剣が飛んでいき、動けなくなった。


ザクッ━━━━━。


ロイドは左腰の剣を倒れたモーゼスの横に突き立てる。


「どうしました?準備運動しそこねましたか?」



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