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世界に魔法が生まれた時に~魔法使いの骸〜  作者: 夏ノ鈴音
それは、魔法がまだない世界で
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2.小さな不安

ロイドはとある事件をきっかけにレノアの面倒を見ている。そして、その事件のせいで片腕を失い、兵士を辞めたのだ。だから彼の姿を見る度にレノアの胸は痛む。戦争が落ち着くまで逃げ回っていた時はどうにも出来なかったが、この町に落ち着いた今だからこそ、これ以上迷惑をかけないように気をつけようとしていた。


「そうですね、レノアは頑張り屋さんですね。」


少し驚いた顔をしていたが、ニコリとロイドは微笑んだ。

その笑顔に多分、世の中の女性は即倒するだろう。子供のレノアから見てもロイドは優しくて、穏やかで、格好良く、とても真面目だ。


「う、うん。だってロイドの仕事がないと、芋、芋芋!の生活になっちゃうもんね。」

「たしかに、それは育ち盛りのレノアにはいけないね、私も頑張らなくては。」


残念そうに少し声を落としたロイド。冗談が通じない事をレノアは思い出し慌てて、口をぱくぱくしたが言葉が上手く出てこない。


「それも·····、んーそんなに頑張らなくても·····。芋芋、パンでも大丈夫だから。その·····。」

「遠慮はいけません。それに、聞きたいことがありまして。」

「んっ??」


真剣な顔つきに戻ったロイドがテーブルの向こうから少し身を乗り出す。

想像していなかった事態に更に困惑するレノアは、視線をあちこちに彷徨わせるが、漆黒の双眸から逃げることは出来なさそうであった。


「えっと·····なにを?」

「はい、その。」コホンっとわざとらしい咳払い

「レノア、欲しい物はありませんか?できる範囲でプレゼントしたいんです!」


(·····。何をいきなり?)開いた口から声にならない悲鳴をもらすレノア。


「遠慮なく、なんでも言ってください。」


レノアの手を取り、迫るロイド。

まるで愛の告白のような、子供のレノアにはまだちょっと早すぎるシュチュエーション。身動き出来ずに、ただただ時間だけが進んでいく。

静寂が支配する部屋の中で、鍋からあがる微かな湯気だけが二人を静かに見守っているようだった。




◆◆◆





「もうダメだ。余計にわからないぃ――!」


朱と橙の色が強調される黄昏時。空に向かってレノアは遠慮なく大声をあげた。両手で頭を抱えてわしゃわしゃと髪を掻き乱しながら、地面を踏み荒らす。

悩んでるのは間違いなく今日のお昼にあった出来事であり、ロイドの突然発言に仕事で頭でも打ってきたのではないかと思う程であった。


「まだ言ってんのかよ。いいじゃないか、好きな物貰っちまえよ。」

「可愛いお洋服とか、どう?」

「·····あ、うぅ·····だって。」


近くで薪を拾っていた金髪碧眼の少年が呆れた顔でこちらを振り返る。更に隣でお手伝いをしていた赤毛の女の子も楽しそうに提案する。2人はレノアより身なりの良い服を着ていて、髪や肌も手入れが行き届いているようだ。


「オレたちだってご主人様からはプレゼントなんてもらったことないからな。」

「古着で姉様がお洋服作ってくれたよ!これこれ!」

「シゼルはなんでも似合うね。」


よしよしと赤毛の女の子の頭を撫でながら、金髪碧眼の不機嫌そうな少年を見やる。美少年と言えばそうなのだが、彼は少し性格が悪い。すぐ嫌味を言う。


「アッシュ〜、それは別に雇われてるんだから当たり前でしょ?私は助けてもらってる上に迷惑かけてるの。むしろ私の方が何かプレゼントしたいぐらいなのに·····。」

「雇われてても、日頃の感謝で何か貰えてもいいじゃないか。」


アッシュと呼ばれた少年は口をとんがらせながら、集めていた薪を手早く紐でまとめ始める。

彼とシゼルは町長の屋敷で働いている。歳はレノアと同じくらいなのだが、アッシュはしっかりとしていて、その分世の中に対して拗ねてしまっているようなのだ。


「それに、ロイドはやっぱり怪しいんじゃないのか?お前の記憶も曖昧なんだからさぁ〜」

「そんなこと言わないで!たしかにいつから一緒にいるとか、よくわかんない事多いけど、何度も助けて貰ったもん。」


ふーんっと鼻で返事をするアッシュに言い返したいのに、レノアはそれ以上言葉が出てこない。大事な時にいつも言葉を見失ってしまうそれは自分に自信がないから。レノアは記憶がないのだ。

断片的な記憶はあれど、自分がどこにいて誰なのかも最初はわからなかった。それを教えてくれたのも、傍にいたのも全てロイドであった。

だから、レノアはロイドの事を信頼している。


「レノアいじめちゃだめ、えぃ!」

「いたっ。ちょ、シゼルやめて!」

「アッシュの意地悪!レノア泣いちゃうでしょ!」


服の裾をぎゅっと掴むレノアを見てか、シゼルがアッシュをポカポカ叩き始める。背の小さなシゼルが一生懸命背伸びをしてアッシュに襲いかかっていくが、ひょいとシゼルは捕まってしまう。「あ〜ぁ。」

アッシュの肩に担がれたシゼルは抵抗しつつ攻撃しているが、彼は気にしていないようだった。


「はぁっ、たく。悪い言いすぎた。最近町長とあいつらがコソコソ出かけるのを見ることが増えたから、なんか怪しいって思っててよ。」

「仕事でしょ?護衛とか、輸送の仕事って聞いてるけど?」

「いや、その割には荷物も少ないし、帰ってくると靴は泥だらけでマントも擦ったような傷が多くてさぁ。」


アッシュはシゼルを担いだまま、逆の手で薪を持つ。レノアも既にまとめ終わっていた薪を持ち、三人はお喋りをしながら帰路に着くことにした。

シゼルは抵抗をやめて、されるがままにぶらーんとしているが。


「それっておかしいの?」

「隣の町までボロボロだけど舗装された道はあるんだぜ?あれは俺が思うに大森林に行ってるんじゃないか?」


得意げに話すアッシュだが、レノアは足を止めた。

振り返る先には先程までいた森の入口が見える。この森を更に3日程奥まで進んだ先が大森林と呼ばれる。別名迷いの森。入れば二度と出てくることは出来ず、黒い化け物に飲み込まれてしまうなんて噂がある。

帝国との国境である大森林を両国共に不干渉の地にする為の作り話なのだろうが、小国程の大きさはあるので迷うのも納得はできる。


「大森林はお化けが出るからダメって言われたよ?」


シゼルがひょこりと顔を上げる。

楽しんでいたのか、地面に降ろされるとアッシュに抱っこを要求していた。シゼルはアッシュより更に歳下なので、容姿は似ていなくても本当の兄妹のようで、見ていて微笑ましい。


「シゼルは食べられるから絶対一人で行くなよ?」

「行かないもん!」


アッシュに舌を見せながら逃げてきたシゼルが腰の辺りにくっつく。

もし妹がいたらこんな感じなのだろうかと、レノアの口元が緩むのだった。


「大森林に行ってたとしても、何か理由があるんだよ。」

「だろうけどさ、わざわざ行くか?今は他にやることなんかいくらでもあるはずだぜ?」


アッシュの言うことは正しい。町の復興が何よりも一番なのだ。

だから、ロイドは大森林なんかに行っていない。きっとアッシュの思い込みだと、レノアは黙って胸にしまう。

辺りはすっかり陽が落ちてしまい、少し小走りで町へ戻ることにした。途中でアッシュとシゼルと別れ家へ向かうと、年季の入った家の前でランプを片手に待っているロイドの姿が見えた。


(きっと、ロイドは大丈夫。)


自分に言い聞かせながら、ロイドの元へ駆け寄る。

遅くなったことを謝ると、頭を撫でてくれた。次から気をつける様にと甘い注意を受け、家にあがる。テーブルに用意された野菜の沢山入ったスープに感動し、他愛のない話に心が落ち着く。


「レノア。次の仕事が終わって帰ってくるまでに、ちゃんと欲しいもの考えといてくださいね?約束ですよ?」

「うん。ふふふ。」

「どうして笑うんですか?あ、国が欲しいとか、無理難題は勘弁ですからね!」

「そんなこと言うわけないでしょ!ちゃんと考えるから大丈夫だよ。」

「それならいいんですが。」


お互い笑い合いながら食事をし、それは傍から見れば父と子の様であった。

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