表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/13

一 人物紹介(四)つれづれ話:林家と崎門

 羅山の紹介がいささか長くなった。

 儒者として仏教を批判しながら、家康に仕えればその命に従って僧の身分となり、民部卿法印という僧位を得たこと。命じられれば仏書の出版も軍書の購読も厭わなかったこと。いわゆる「方広寺鐘銘事件」として伝わる、大坂冬の陣において、戦の口実作りのための文章の曲解を学者として追認したこと。家康が豊臣氏を滅ぼす際には孟子を根拠に革命思想を肯定しながら、徳川家の治世の安定後は朱子学を根拠に天理=秩序を説き、革命を否定したこと。中世から近世へ、大きな変革期に生き、そして体制側で生き残った羅山には曲学阿世との評もつきまとうが、その俗っぽさがまた彼の魅力ではないかという気もしている。

 羅山は家庭においては程明道に喩えられる温和な父であったと息子の鵞峰が書き残しているが、権力欲・権勢欲というよりもむしろ、人の期待に応えたいというサービス精神、自分の知識を紹介したい、というどこか稚気溢れる自己顕示欲、人懐こさのようなものを感じるのだがどうだろう。儒学者としては師の藤原惺窩が朱陸にこだわらず包容的で、羅山は朱陸を厳密に区別し陸学を排除した(鈴木)と評される事が多いが、対人関係に於いては清廉で隠逸的であった惺窩に比べ、羅山は主義主張に寛容で、広く人と交わったと言えるのではないだろうか。

 鈴木氏は羅山の学問的活動を「総合性・実証姓・啓蒙性」という面から評価し、和漢の幅広い知識をベースに、難しいものを判りやすく説明する才能を持ち、「江戸的な施行の枠組みを形作った人物の代表」であるとする。まさに江戸初期という時代が必要としていた種類の学者であった。惺窩と羅山の存在が、江戸儒学を育てる土台となったという気がする。

 筆者は山崎闇斎のファンなのだが、闇斎に始まる崎門と林家は、「林家の阿世、崎門の絶交」と対照的に語られる事がある。命じられれば剃髪も厭わない林家と、同門であっても、義理の点で合わなければ容赦なく破門・絶交をする崎門という意味で、その適否は措くとしても、その言葉自体は彼らの一面を際立たせて興味深い。

 だが山崎闇斎は林家二代目の鵞峰と同じ年の生まれであり、彼が生まれた頃は既に関ヶ原の戦いから二十年近くが過ぎていた。保科正之に三楽(三つの楽しみ)を問われ、その一つとして「文を尊ぶ世に生まれ、読書によって道を学ぶ事が出来ること」と答えた闇斎が、「もし」林羅山と同じ世代であったら、あの潔癖さと峻烈さはまた異なる方向に彼を導いたのではないか、また崎門という学派の成立はどうなっていただろうか、と考えたりもする。闇斎の学問が世に広まるにあたっては、保科正之をはじめとする大名や、京都の公家衆とのつながりも大きな役割を果たしたと思うからだ。

 そして同時に、林家二代目として、初めから幕府に仕える御儒者となる立場にあった鵞峰、潔癖で剃髪を拒んだと言われる鵞峰の弟読耕斎が、創業者羅山の正負の遺産をどう受けとめていったか、という点に、非常に興味を覚えていたりするのである。



          ※



「わたくしは今年二十九歳、平日習ってきた学問を東国の武士に語ろうと思いますが、まさに猫に小判、豚に真珠であってどうにも仕方がありません。(鎌倉幕府について書いた)『吾妻鑑(東鑑)』を読めと言われますが、それよりも『日本書紀』や『三代実録』を読むべきだと思いますし、軍書の講義を命じられては、四書六経を差し置いてこんな講義をしていてよいのかと思われる。今のわたくしは流れに同じくしそれに合し、ただ和を以て口実としています。気力も萎えてしまい、きっと文章も衰えてしまったことでしょう。先生、どうか一対の温かいお言葉を賜らんことを」

(羅山から惺窩への手紙。宇野氏の訳を深川が更に抄訳した)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ