三日目
「――おはようございます、ご主人様」
ん? 誰だ? バ神美じゃないな。
「ゆっくりお休みになりましたか?」
え? え? え?
ちょっ、めっちゃ可愛い女の子が布団の中で俺に抱きついてるんですけど! 顔近っ!
「グァルルルルゥ……」
「はわわ、も、申し訳ありませんーっ!?」
急いで立ち上がろうとしてめっちゃ後ろにひっくり返ってる。ドジっ子キタコレ!
何このご都合展開? 妄想が現実になってるんですけど! 流石異世界!
「グァオゥ?」
あれ? なんか喋れないんだけど? まぁいいや。
よく見るとこの女の子なんかおかしいな。
その頭飾りはどう見てもマクラだし、羽織ってるのは羽布団にしか見えない。履いてる靴が湯たんぽってどんなセンスよ。そりゃ滑ってこけるわ。
これってまさか――
「私の名前はフー・トンです」
なんと安易なネーミング。流石バ神美。
だが、フーたんってあだ名で呼べばカワイイな。よし、決まり。
「それにしても、ご主人様は人間だと聞いていたのに……」
は? 俺人間ですけど何か。
「こんなに大きい犬とは思いませんでした」
……え。全俺が絶句。どういうこと。俺が聞きたい。
「グァアアアアアアルァアアアア!!」
うわっ、これまじで吠えてるじゃん!
鏡、鏡はないか!?
「フー・トン、それは犬ではありません。オオカミです」
にこやかに言うんじゃねぇ、バ神美! てめーどういうつもりだ! しかもさりげに説明しやがって、この説明おばはん!!
「グァアアアグアァグァグッァウォオオオオオオオオオ」
いや、この際だから説明してくれバ神美。この状況を説明してくれ!!
「どうやらフー・トンの布団を引っぺがしてシーツが見たいようです」
「そんな……ご主人様のエッチ!」
違うぞ……いや、違わない。すごい見たい。
いやいやいや、今はそれどころじゃない。言葉が通じないんじゃどうしようもない。なんとかしなければ。
「グァルルル……」
「ワオオォオオオン」
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……」
「バウッ、バウッ」
「クウゥーン……」
「ところでバ神美様。ご主人様の他にオオカミが五匹もいるんですが……」
「どうやらキャンに頼もしい手下ができたようです」
――分かったぞ、これはシートン動物記の狼王ロボだな。
昨日、オオカミ王に俺はなるなんて馬鹿なこと思ったせいか!
ロボの話ってどんなんだっけ……。思い出せ、俺!
「おや、この一匹はメスのようですね」
「はい、とっても可愛い顔をしています」
「ならば、私が名付けてやりましょう」
や、やめろバ神美。お前のネーミングセンスはニ○の料理並みに壊滅的だ!
「そうですね……バカンカはどうでしょう」
「ぜんっぜん可愛くありません!」
「グァアオオオ!」
禿同。まじやめてくれ。
「では、ブランカ・リー」
「いいですね、いいですね! ブランカ・リーちゃん!」
「クゥウウン」
なんか醜女な全宇宙の歌姫みたいで全然よくない……。
「こっちのオスには鈴がついてますよ。しかも男前ですね」
「おぉ、本当だな。ならばこいつはベル・ダンディーだ」
「バウッ」
……ダメだこりゃ。
あれ、まただ。また……急に眠気が……。
頼む。誰か……俺を助けて……くれ……。
俺を……人間に……戻してくれ……!!