2話 いちごと猫騎士
私を抱き抱えた少女はとても美しかった。しかし、なんだこの感じは……?
美しいが、どこか不気味で恐ろしい印象だった。
ご主人に抱き抱えられたのならば、彼女の活力が腕を伝い流れてくるような、明るい気分になるのだがこの少女は違った。
私がおかしくなっていく、すべてを彼女に受け渡したくなる。何故かそういったものを感じたのだった。
もしや、ご主人を狙いに来た、秘密結社、スカイ・フィッシュの刺客なのではないかと警戒する。
あれから人間に戻る事は意図して出来る様にはなったが……。
すると、少女は私の顔を見ながら微笑んだ。
「お名前はなんて呼べばいいでしょう? そうですね……真っ黒だからあんこさん、なんてどうですか?」
「私にはナハトという名前がある! 決して菓子では無い!」
思わず声を荒げてしまう。私はこの名前を大層気に入っていて、騎士として名乗りたいといつも思っている。
だから他の名前で呼ばれると、気分が激昂してしまうのだ。まぁ、猫語が分からないこの少女に怒っても仕方がないのだが。
しかし少女は目をパチクリさせ、すぐに微笑んだ。「なるほど、ナハトさんなのですね。それにしても、喋れる猫さんとは珍しいですね」
私は驚く。ご主人以外にも、猫語が話せる人物がいたとは。
「君は、猫と話せるのか?」
「いいえ。でも前にルシルさんが使い魔という存在がいて、その者とは言葉を交わえると聞きました。私も似たようなものです。ナハトさんは、どなたの使い魔なのですか?」
「使い魔……? 君は一体?」
「私はいちご。最近、夢魔になりました」
彼女はそう言うと、背中の黒い翼が羽ばたくように広がった。
「悪魔!?」
またも驚く。ハロウィンの衣装と思っていた少女の翼は、確かに生き物の様に動いた。
にわかには信じがたいが……しかし、現に元人間の私がいて、元猫のご主人がいる。更には女神と名乗るアゲハがいる。
この世界は、思ったより人間の世界では無いのかもしれない、と私は納得する事にした。いちごと名乗る少女は私を抱えたまま歩き出す。背の高いご主人に抱えられるより、ずいぶんと景色が違う。
「ナハトさん、私、迷子なのです。ルシルさんったら、すぐにふらりとどこかに行ってしまうんですから。」
いちごは少し拗ねたように言う。私は笑った。
「――はははっ、私のご主人と同じだな」この少女は、異質な雰囲気こそあれど、悪意は感じられない。案外、私達は従者で、似たもの同士かもしれない。
「こうして出会ったのも何かの縁。それに君の様な少女には夜の街は危ない。我が誇りに賭けて、君を送り届けるよ。」
そう言うと、いちごは可憐に笑った。
「はい! ナハトさんは何だか、まるで西洋の騎士の様なお方ですね」
今の言葉はとても嬉しかった。尻尾が自然と揺れる。私はたとえ、手に剣を持たなくとも、誰かを守る騎士でありたいと思っている。ハロウィンの夜は、まだまだ続いていく。




