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101人目のヒロイン。  作者: 菓子子
5/10

五人目『話す』

五人目→話貞十和

 家路についている時に見えるお天道様が、今日はいつもより少しだけ高い場所にある。

 何故なら今日は、授業日調整の兼ね合いで、早く帰られる日だからだ。嬉しい。とても気分がいい。帰っても特にこれといってすることはないのに、内心ウキウキしていた。


「……げ」


 そんなややハイテンションな時に足元を掬われるとは。

 今日は星の巡りが悪いようだ。


「こちらスミス。……対象X発見。速やかに戦略的撤退を行う。どうぞ」

「こちらジョニー。ダメだ! そっちは罠だ! 今すぐその対象Xを追え!」


 僕が空気製のトランシーバーを手に持って情報を伝えると、すかさず応答が返ってくる。

 ……なんという遅延の少ないレスポンスだ。


「こんにちは。今日は帰るのが早いですね。高校、辞めちゃったんですか?」

「辞めてないよ。今日は学校、終わるのが早かっただけだ」僕は言った。「その前に、さっき遠くにいたランドセル姿の小学生が、目を離した隙に僕の隣にいる件について、ご説明願おうか」

「なるほど。それは盲点でした。すみません」

「そうじゃなくて……うん? いや、別に謝ることじゃないけど……」


 小学生によるご説明を期した僕の発言は流されてしまったらしい。


「私、頭に1バイトしか保存できないので」

「一文字しか保存できないじゃないか。どこのchar型配列だ」


 というか。


「なんで小学生が、バイトだとかchar型とか知ってるんだ……?」

「ほら、もうしばらくしたら小学校にプログラミングという教科が追加されるらしいじゃないですか。……私、その教科が気になって夜しか眠れなくて……」

「うん」


 夜も眠れなくて、だな。


「だから親の参考書を引っ張りだして、プログラミングとやらを先取りしてきたんです」その小学生は、無い……は余計だな、慎ましい胸を張る。「だから、ある程度のことは分かりますよ」

「相変わらず行動力のある小学生だな……」

「小学生の好奇心と行動力をなめないでください。皆そんなものですよ」

「ふうん?」

「――さんみたいに私も大きくなったら、どうせ――さんみたいに色んなものに対する興味が薄れていくと思うので、今の内に頭の中に気になったものは詰め込むようにしています」

「序盤の憎まれ口は置いておくとして、まぁ、外れてはない……かな」僕は頷く。「偉いね」


 小学生の地点でそこまで未来を見抜く洞察力を持っていたら、人生楽しかろう。


「偉い? 別に偉くなるために知った訳じゃありませんが……でも一応、ありがとうございますと言っておきます」

「はいはい」


 僕はこの小学生が苦手だ。というか、小学生全般があまり好きじゃない。。

 僕にもこんなキラキラした年があったんだろうか、とか、この子も僕みたいな年になったら、この子から発せられるキラキラしたオーラが色あせてしまうのだろうか、とか、色々と考え込んでしまう。僕だってまだまだ若いはずなのに。

 うーん……。


「まるで、待ち合わせの時間に間に合わなそうで焦って急いで走っていると、階段をよいしょよいしょと辛そうに上っているおばあさんを目撃してしまって、当時は時間に押されて見過ごしてしまったけれど、後々になってめちゃくちゃ後悔してる時のしかめっ面みたいですね」

「なんだその分かりづらい比喩は」

「そんな経験、ないんですか?」

「……もしかしてだけど、僕のこと、ストーキングしてない?」

「うふふ」


 その受け答えだけで十分だったのか、その気難しそうに眉間に皺を寄せていたその子はあっという間に破顔した。

 非常にやりづらい。

 もっと、言葉通りに言葉を受け取ったり、僕のハイコンテクストな言葉の裏が読めなくて頭に?マークを浮かべたりとか、もうちょっと可愛げのある仕草をしてくれないものか。


「その言葉は聞き捨てなりませんね。私に可愛げがないと?」

「言ってないよ」

「でも、思いましたよね?」

「しれっと僕の思考を読んだことを暴露しないで」

「そんな細かいことはどうだっていいじゃないですか」

「よくないよ」僕は言った。「全然よくないから」


 まぁ。

 苦手だったり、色々考え込んでしまったり、挙句の果てには僕より何歳も年下だったりするのだけれど。

 なんだか話していて、気が楽なんだ。


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