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月(あれ)は私(バニー)がいただきます  作者: 三七十 十六
第一章 始まり
7/54

おかえりと言ってくれる人 3分の1

投稿間隔が開いてしまいました。引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

この部分は、番外編もでしたが、少し破廉恥です。

まだまだ、続きますので、ご指導のほど、宜しくお願いします。

  勇樹の生活はあまり明るいものではなかった。午前中は、とくにすることもしたいこともないので、じゃじゃっ娘四人組に言いつけられたとおり、共用区域の掃除をしている。


 ここ、謎の地下施設に来てからというもの、決められた服装、決められた食事、きめられた睡眠時間、決められたものばかりである。

 しかし、自分の内側から欲求らしいものは何も湧いてこないので、ただもどかしさだけが募っていく。


 志帆はというと、寝るときは必ず勇樹のベッドに来るのだが、食事も風呂も、日中はほとんどじゃじゃっ娘四人組についていくようになった。


 午後になれば、勇樹は一人、山部優理奈の授業を受ける。国語、数学、化学、物理、歴史などだ。どうやら花木京子が教えてくれるはずだったらしく、特別に時間をとってくれているらしい。

 それでも毎日であるから、山部は暇なのかもしれない。


 なぜ勉強しないといけないのかと訊いても、人間としての幅を広げるため、だなんて理解できない。勇樹は暗中にいて模索する気力が湧かないでいる


 敢太はじめ山部班の男とは会わない日も多いが、食堂で会えば必ず共に食べた。

 敢太はいつも授業の進み具合を訊いた。敢太も同じ教育を受けているので、勇樹がどのような状況なのか手に取るようにわかるのである。


「敢太さん、俺はなんでこんなことをしているんでしょうか?」


 会うたびに勇樹は同じ質問をした。立場上、敢太は答えられない。勇樹の気持ちもよくわかるので、不憫に思うが、教えるわけにはいかない。命がけで戦うためだなんて。



 繰り返しの生活を続けること一ヶ月ほどたったある日の昼、食堂でのことである。

 この日、勇樹は第一戦闘機部隊の隊員たち、つまり敢太たち小柄な男8名と昼食を共にした。


 女子6名が出ていってから始まった。


「勇樹、手形の登録は済んでいるよな?手を出せ」

「はい」


 なんの疑問もなく、勇樹は言われるままに机の上に右手を出した。すると、幸四郎が勇樹の掌に接着剤を塗り始めた。

 何も説明がないまま始まったが、そんなことには慣れてしまった。勇樹はただ流れに流される。


「指を伸ばしたまま乾くまで待つ」


 待っている間に敢太が話し始めた。


「俺たちは戦闘機に乗っているんだ。あれは通称モスキートといって、ステルス戦闘機だ。


仲間には位置が分かるが、敵からは見つからない。モスキート音から来たあだ名だ。


聞こえる奴には聞こえるってことから転じて、見える奴にしか見えないって意味らしい。


その特性が実際に役に立ったことはないがな。


なにしろ、俺たちの任務は経過観察ばかりだからな」


 モスキート、その名の本当の由来はまだ、勇樹は受け入れられないだろう。敢太には、隊長には隠し事がある。

 勇樹は疲れているのか、話に相槌も打たない。しかし、敢太の目を見ているので、敢太は話を止める気にはならなかった。


「一か月前は千歳まで飛んだんだ。モスキートの最大航続距離は約850マイル、ここから千歳までは約470マイルだから往復はできない。


そこで空中空輸機、通称バレルも一緒に行く。もし千歳に降りられなかったら、他に飛行場はないし、そのまま帰ってこないといけないからな。バレルにも俺たちが乗るんだ。


ここにいる8人全員で行くことになる。モスキート四機に一人ずつと、他はバレルだ」


 敢太はそこで話を止めた。幸四郎が勇樹の手から固まった接着剤の膜を剥がす。


 そして次は、基嗣が粘土をその膜に合わせて盛りつけていく。


「話を続けるが、単刀直入に言おう。今度、とはいえ5か月後だが、お前もバレルに乗ってみろ。もちろん、乗るだけで任務は無い。俺たちのしていることを間近で見てみろ」


 勇樹の日常は無味なものであり、周囲の流れに身を任せ、怠惰を貪ることにも馴れた。勇樹の中身は空っぽになってしまっていた。


「わかりました。乗ります」


 一同、勇樹の意志の無い返事にイラっとしたが、現状を考えれば仕方がないとしか言えなかった。


「よしっ、決まりだ。どうだ基嗣?」

「いい感じ。あとは乾かすだけ」

「今日から、本当はここに来た日からなのだが、勇樹、お前は俺の部下だ。第一戦闘機部隊の隊員だ。よろしくな」

「はぁ、、、よろしくお願いします」


 間抜けな返事だが、それより大事なことがあるのだ。気にしない。まだ敢太には、話がある。


「まず、といっては何だが、お前に俺の夢を託す」


 その言葉に反応したのは幸四郎と基嗣だけだ。どこかで聞いたことがあるのだろう。


「お前の口から出る"夢"ってのは、詳しく聞かなくともわかってしまうんだなぁ。だが今は、俺の夢でもある!」

「幸四郎よ、お前も男になったなぁ~」


 なぜか基嗣は少し呆れている。麻呂や他の4人は隊長の口ぶりの変化に戸惑っている。ある意味真剣ではあるが、明らかに一物ある話し方だ。


 なんにせよ、勇樹にはどうでもよかった。夢、か。俺の夢は、なんだっけ。勇樹の心はフワフワと浮わついたまま留まるところがない。


 ところで、施設の中に土はなく、粘土をどこから調達したのか、もしかしたら戦闘機に載せて施設の外から持ち込んだのか、漠然と疑問に思った。どうでもいいことではあるが、勇樹は少し引っかかった。接着剤も同じである。


 食堂で粘土細工を行うことに抵抗があったが、敢太、幸四郎、基嗣は是が非でも計画を実行したいのだ。


「敢太さんの夢って、何ですか?」


 真剣な眼差しの敢太に、勇樹は面倒なことを頼まれるのではないかと警戒した。


「まぁまぁ、これができるまで待ってね」


 基嗣が仕方なしに応えた。


「あの、俺も粘土が欲しいです。暇なので、何か作ってみようと思います。どこにありますか?」


 さりげない質問をして、勇樹はあることを探ろうとした。


「ないよ。ここには」


 答えたのは幸四郎だ。敢太の子分役を長いこと担うと勘が冴えてくるものだ。勇樹の魂胆を知りはしないが、そろそろ外に出たいのだろうとくらいは推測できる。


 "ここにはない"という言葉は勇樹にとって、まずは聞きたかった言葉だ。ではどこから"持ってきた"のか。

 それを訊く前に基嗣が口を挟んだ。


「そろそろいいと思う」


 粘土が固まったのだ。接着剤の膜を粘土から剥がす。

 敢太は腕組みを解いて立ち上がった。粘土細工を手にして、扉に近づき、壁に優しく翳した。

 何も起きなかった。


「ダメか、仕方ない」

 男子棟ではうまくいったのだが、女子棟のセキュリティのほうが厳重らしい。

 皆のほうへ振り返った敢太の目は勇樹を捉えた。相変わらず熱い眼差しだ。


「俺の夢を叶えてくれ。それができるのはお前だけだ!」


 勇樹にはどういうことかさっぱり分からず、どうでもよかった。

 敢太は歩み寄って、肩を掴んで、力強い小声で頼んだ。


「優理奈さんのブラジャーを持ってきてくれ!!」


 一瞬、場が凍った。すかさず子分の二人、幸四郎と基嗣が加勢する。


「頼む!お前にしかできないんだ」

「ロマンだよ!男ならわかるだろう!」


 つまり、勇樹の手形を手にいれて女子棟に忍び込み、優理奈の部屋まで自ら行くつもりだった。しかし、扉が開かないので勇樹に頼むのだ。

 全身が覆われたPスーツ姿の山部しか見られない敢太たちと違い、居住区では、薄着の女子とすれ違うことが当たり前の勇樹にとって、そこまで必死になることではない。勇樹も彼女らの下着姿を見たことはないが、ブラジャーにロマンは感じない。


「嫌ですよ、怒られるじゃないですか。俺の立場が悪くなるじゃないですか。ただでさえ、ひたすら掃除させられているのに、どんなひどい扱いをされることになるか、必要のない危険は冒したくありません」


 敢太は肩を落とした。しかし、その目は諦めていなかった。断られることは想定内、プランBに変更だ。


3分の2へ、つづく

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