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月(あれ)は私(バニー)がいただきます  作者: 三七十 十六
第一章 始まり
43/54

結局何がしたいの? 17分の15

 眠りにつこうとベッドに横になってすぐだった。窓の外に車の音がして、敢太たちが帰ってきたのが分かった。


 勇樹は疲れていたが、妙に気が向いてベッドから出た。


 様子を伺いながら気付かれないように居間に近づくと、これから風呂に入ることが分かった。


 勇樹は後を追って、浴室の前で聞き耳をたてることにした。こんな風にこそこそとするのは久しぶりだが、すっかり板についていた。敢太から教わったようなものなので、勇樹は悪いことをしているとは全く思わない。


 皆はずいぶんと疲れたようで、ため息がたくさん聞こえる。


「なあ、幸四郎。麗子さんのことどうするんだ?」

「うん、どうしようかな。麗子はここでの暮らしが大好きなんだ」

「連れていかないのか?」

「向こうでも鹿狩りはできるけど、地下に住むのはキツいだろうし。友達もいないからな」

「仕方ないか」

「幸四郎さん、そこはビシッと言いましょうよ!俺についてこいって」

「俺もそう思います!」

「麗子さんみたいな美人、放っといちゃダメですって!」

「もう会えなくなるかもしれないってことは伝えたのか?」

「まだなんだ。皆の言うとおりだ!と言いたいところなんだけれども、俺たちの立場じゃあ、強引に連れていけないな」

「半島のことですか?」

「俺も詳しくは知らないさ」

「でも、絶対大丈夫ですよ!それだけの訓練してるじゃないですか!」

「たしかに、今日の訓練内容だったらデーモンさんも認めてくださると思う」

「基嗣」

「悔いのないように生きようぜ!」


 聞き入っていた勇樹は、将次と居間で話していた敢太が傍に来ていたことに気付いていなかった。


「ひとの恋愛に口を挟む前に、自分の相手を探せよな」


 勇樹は声を上げそうになったが、敢太の手に塞がれた。敢太は少しニヤけていた。


「あの、訊きたいことが」

「ああ、明日な。今日はさっさと寝ろ。明日岐阜に帰る。0500(マルゴーマルマル)起床だ」

「はい」


 敢太は浴室に入っていった。


 敢太の様子はこれまでとどこか違っていた。いつも一方的で、どちらかというと冷たく突き放して、まともに勇樹を相手にすることはなかった。それが、翌日の予定を敢太のほうから教えたのである。


 勇樹はベッドに入った。気になることがいくつもあるが、疲れていたせいですぐに眠りに落ちた。


 朝、きれいに上げ床して、ハムと卵のサンドウィッチを受け取って館を離れた。もちろんオープンカーに乗ったのだが、勇樹は毛皮のコートを将次から貰っていたので、寒さは少しマシだった。


 高いところに雲は無く、まだ星がいくつも輝いていた。


 飛行場にそのまま向かったのは、将次と敢太と勇樹だけだった。到着するとすでに整備員が忙しなく動いていたが、観客は一人もいない。


「次はまた半年後かい?」

「もう来ないかもしれません」


 二人の会話には勇樹の出番はなさそうだ。


「そうか、いよいよか」

「まだ命令待ちです。また連絡します」

「おう、待ってるぞ。勇樹!また来いよ!」

「あっ、はい」


 完全によそ見をしていた勇樹を敢太が軽くはたいた。


「もっと言うことがあるだろう」

「えっと、お世話になりました。こんどは銃の打ち方も教えてください」


 勇樹は深く頭を下げた。


「もちろんだ!楽しみにしてるぞ」


 将次は車に乗って走り去った。


 勇樹と敢太は装備室の前で朝食をとることにした。


「美味いな」

「はい」

「どうしてだと思う?」


 昨夜から感じていたのだが、敢太にはどことなく哀愁が漂っている。いつも生命力に溢れ、ときに優しくときに冷たい、全く腹の内を見せてくれない、腕力だけはたしかな男だが、今の敢太にはどこか自分と同じ弱さを持っているような気がする勇樹だった。


「矢雄さんが気持ちを込めて作ってくれたからじゃないですか?」


 訊いておきながら、敢太は口いっぱいに頬張っていた。話す気があるのかないのか、勇樹は振り回されることには慣れているので、自分も頬張った。


 結局、食べ終わってから続けた。


「それもあるけどな。飯が美味いのは、飯のことしか考えていないからさ」


 敢太らしくない、分かりにくくて臭い台詞だったので、勇樹は反応に困った。


17分の16へ、つづく

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