表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月(あれ)は私(バニー)がいただきます  作者: 三七十 十六
第一章 始まり
41/54

結局何がしたいの? 17分の13

 洗面を終えて居間に入ると、将次は猟銃を点検していた。


「飯食ったら行くぞ」

「はい」


 テーブルの上には鹿肉とレタスを挟んだサンドウィッチがあった。


「矢雄さんはどこにいるんですか?」

「まだ寝てるよ。あいつは低血圧だから、朝が苦手なんだよ」


 昨日はそんな人に起こされたのかと思うと、自分は何なんだと思うが、そんなことはどうでもよかった。


「あの人も一緒に行ったんですか?」

「麗子のことか?あいつは幸四郎君とずっと一緒にいるってさ。嫉妬か?」


 それからは勇樹は何も言わなかった。


 毛皮のコートを借りて、将次と二人でオープンカーでしばらく走った。


「これ、持ってくれ」


 勇樹は手提げを持ち、男の後ろに付いて山に入った。


 傾斜は大きいが、よく使う道なのだろう、整備されており登りやすい。


「お前、体力あるな」


 誉められたことなど、どれくらい久しいか。勇樹は嬉しいはずだが、素直には喜べなかった。いつも体力ぐらいつけろと散々発破をかけられ、つい二日前も小言を言われたばかりだ。


「若いので」


 失礼なのは承知で、将次ならば笑い飛ばしてくれるだろうと期待して言った。しかし、無言で足を止めるので、怒られると思って顔を上げたが、将次は遠くを見ていた。


「いたぞ」


 将次は屈み、小声で続けた。


「小さな群れだ。大きな声を出すなよ」


 勇樹は一つ頷いた。将次の視線の先を探すが、谷、山、空があるだけで、鹿は見つけられなかった。


「ここから撃つんですか?」

「遠すぎる。おそらくあいつらはこっちの山の北側に進む。逆から行って待ち伏せる」

「分かるんですか?」

「勘だよ。外れたら今日は失敗だ」


 将次は笑いながら立ち上がると、速足で進み始めた。先ほどまでと違い、ほとんど上り下りしなくなったが、速いので勇樹は息が荒くなり、高揚感が出てきた。


 山は木々が生い茂り、経験のない勇樹はどこにいるのか、館がどちらなのか、さっぱり分からなくなった。だからなのか、将次の大きな背中がよりいっそう大きく見えた。


「そろそろだ」


 目印なのだろう。大きな岩を見つけると進路を変えて少し登り、見晴らしの良い所に来た。


「ここで待とう」


 将次は猟銃に弾をこめた。


「腹へったな?」

「はい」


 陽はすっかり昇っていた。二人とも双眼鏡をずっと覗いているが、鹿が現れるより先に腹が鳴った。


 手提げからおにぎりを出して食べることにした。


「でかいですね」

「手がでかいんだ。そりゃあ、でかくなるだろう?」


 おかげで一つで満腹になった。


「将次さん、俺ってそんなに変ですか?」


 初めて名前を呼ばれて、将次は嬉しくなった。


「うん?なんでそんなこと言うんだ?」

「だって、矢雄さんも麗子さんも変だって」


 将次は双眼鏡を覗きながら続けた。


「うーん、たしかに変だな」


 勇樹は無言で双眼鏡を覗いた。


「でもな、俺に言わせれば皆が変だぞ」

「えっ?」

「皆変なんだ。変なのは勇樹君だけじゃないさ。俺も変なんだろうさ」


 勇樹は将次を見たが、笑っていなかった。真剣に双眼鏡を覗いている。


「変だって言われたって良いじゃないか。変じゃないほうが変だぞ」

「皆、変、ですか」

「うん、それぞれに変だな」

「でも、変だって言われるのは俺だけですよね?」

「それは、勇樹君がずば抜けて変だからさ」

「どこがですか?」


 少し間ができた。やはり教えてもらえないのかと、勇樹は気を落とした。ならばと、鹿を見つけたが言わないことにした。


「お前は、、、何歳だ?」

「えっ?もうすぐ16です。昨日も言いましたよね?」

「うん、、、16歳ね。俺の目には、8歳くらいに見えるんだよな。皆もきっと、だから変だって思うんだろうなあ」


 馬鹿にされていることくらいは分かる。狩りなんてどうでもいいと、勇樹は双眼鏡を下ろして、顔を上げた。


「俺は16くらいの頃に初めて、一人で鹿を捕まえて、大人に分けてやった。子供扱いされるのが嫌で、見返してやったんだ」


 勇樹は聞き流すふりをしていた。


「そしたら、俺は親父に家を追い出された。酷いと思うかい?でもな、そのとき親父が言ったんだよ。お前はもう一人前だって」


 双眼鏡を覗いたままの将次を見ても、勇樹は同年代の話を聞いているような気がしてきた。


「自分の意志が初めて伝わった気がしたんだ。今なら分かるけど、俺は根性を示したんだよ。黙れ、俺は俺だ、てね」

「それが何なんですか?」

「お前は、、、勇樹君は誰だ?」

「俺は、俺ですよ」

「その俺って誰だ?」

「どういうことですか、俺って俺でしょう?さっきから何を言って」

「だから!その俺っていうものの正体は何なんだよ!?お前の意志は、お前の欲望は、お前の願いは何なんだよ?」

「おっ、俺はっ、ただ志帆と京子(かか)と一緒に生活できればいいんです!前みたいに一緒に!何も欲しくなんかない!飛行機だって乗りたいわけじゃない!こんなところになんか来たくもなかった!」


 勇樹は肩で息をするほど激しく言い放ったが、将次は相変わらず双眼鏡を離さない。


「うるさいぞ。鹿だ」

「そんなのどうでも」


 将次は双眼鏡を置いて、素早く猟銃を構えた。


「話はあとだ。今は静かに」


 将次は大きくゆっくりと息をして、一発撃った。


「やったぞ!」


 その顔は緩んでいた。


 しかし、勇樹は何も嬉しくなかった。


17分の14へ、つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ