結局何がしたいの? 17分の3
整備隊室の奥にある用具置き場に入ると、臭そうな装備、緊急脱出用装具や加圧スーツがずらりと整頓されていた。
その列の一部が空いている。敢太たち、第一戦闘機部隊が使っているのだ。
奥の扉から更に奥へと進んだ。短い廊下を進むと5メートル四方の空間があり、机が一台とエレベータが一基ある。
山部がセンサーに手をかざすと、エレベータの扉が開いた。やけに狭い。
「二人乗りなの。誰から行く?」
瑠美が乗ると、山部も乗った。もう一人乗れそうだが、それは瑠美が小さいからで、山部と司令が乗るとなると、いっぱいになる。糸城ほどの大きさならば一人乗りだ。
瑠美は、ここでも違和感を覚えた。エレベータには必ずあるはずの階ボタンがない。
2ヶ所しか止まらないからであるならば、何も不思議には思わない。では、普段使っている他のエレベータと違い、壁の囲いではなく網篭状であるのはなぜか?扉の内横にある操縦桿のようなものは何か?
「これって、もしかして」
「掴まって!行くわよっ!」
扉を閉めた優理奈は、瑠美が手摺を握ったのを見て勢いよく操縦桿を下に倒した。
「あっ!!」
瑠美は咄嗟に手摺を握る力を強めた。
体が浮いた。しかし、足は床についている。二人を乗せた網篭は落下に近い速度で降下していった。
「優理奈さん!これっ、エレベータじゃないじゃない!!」
「・・・」
網目を抜ける風が二人を包み、瑠美の大声はかき消された。しかし、上階のじゃじゃっ娘のもとには届いていた。
「何?今の声」
「むちゃくちゃ速かったけど、ただのエレベータじゃないわね」
「楽しそぅ」
「えっ!?」
羽菜と奈央のひきつった顔とは対称的に、穂美はワクワクしている。
網篭は速度を落とし、広い空間に出た。壁に沿って降下していく。
「も~ぅ、何なんですか?これ~」
「ここからが本番よ!」
優理奈は左手で外を指差した。そこには巨大な"モノ"があった。
「あっ、そういうことですか」
「ンッフフ、驚いたときは少し大きめに表現したほうが、男受けいいわよ」
一目では全貌を捉えられないくらい大きな円筒形の建造物がある。
「こんなところにあったんですね。ここは、、、広場の真下ですね?」
「そうよ。さすが、勘が鋭いわね」
優理奈の操縦で、網篭は縦横自在に壁に沿って動いた。
「どう?すごいでしょ」
「すごいってもんじゃないですよ。司令は本気なんですね。これでよく分かりました」
それはロケットであり、大きさからして宇宙船であることは明らかである。バレルの10倍はくだらない。
その周りを囲むように同じく円筒状に壁があるり、網篭は周回しながら一定の速度で降下していく。
床に到着するのに、それほど時間はかからなかった。
”手動”エレベータから降りて、瑠美は見上げた。天井が見えない。
「おっきぃ」
思わず声に出た。
「じゃ、次の人連れてくるわ」
「はい」
山部は篭に乗って、一定の加速をしながら、まっすぐに、一人で昇っていった。
瑠美はその場で立って待っていた。しばらくして、上の方から悲鳴のようなものが聞こえた。
「イャ~~~~~」
「あっ、羽菜だ」
降りて来た篭は瑠美の近くで止まった。予定どおりのところに着地する。山部の”腕”なのだろうと、瑠美は感心した。
羽菜は驚いた様子で、口を開けてやはり見上げた。
「あんた、なんて顔してるのよ」
「アッハ、ハ」
思わず笑った瑠美だったが、羽菜はそれどころじゃないようだ。
「瑠美ちゃんもそんな感じだったよ~。じゃあね~」
山部は一言残して、再び昇っていった。瑠美は思わず肩をすくめた。
「優理奈さんには敵わないわ」
「へっ?何か言った?」
「な~んでもない」
17分の4へ、つづく




