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月(あれ)は私(バニー)がいただきます  作者: 三七十 十六
第一章 始まり
16/54

気が狂いそうだ 6分の3

 トンネルを出ると、じゃじゃっ娘たちは村とは逆の方へと向かった。少し歩くと車道から逸れて、山道に入った。すんなりとは進めない。勇樹は彼女たちに付いていきたかったが、幸四郎と基嗣に連行されてしまった。


「大丈夫?あと10分くらいよ」


 奈央の手を握る7歳児は意外と体力がある。志帆の足取りは軽かった。いや、若さというものか。


 少し登ったところで、一行は少し開けた所に出た。大きな岩が一つあり、その横には丈夫そうな木製の階段があった。


「あと一息、この上よ」


 岩の上からの眺めは素晴らしかった。谷のほうを向けば、遠くまでたくさんの峰を見渡せて、雲の無い漆黒の空には無数の星たちが輝いている。


「ふぅー、雲ひとつない、最高ね」

「わぁ~。キレ~イ」


 始めて来るのは志帆だけだが、皆の口から同じ言葉が漏れた。


「今日はもっと綺麗なものが見られるはずよ」


 この計画の立案者である穂実の目も輝いていた。


「不思議ね。星の光はあんなに小さいのに、向こうの山の形がはっきり見える」


 月が出ていればもっと見えただろう。だが、彼女たちは月の下を歩いたことがない。月に照らされた風景を見たこともない。


「今何時?」

0時30分(マルマルサンマル)よ」


 5人は敷布の上で仰向けになった。少し冷たいそよ風が心地よい。




 一方、幸四郎たちはトンネルから3キロほどのところにいた。

 眠たくて、皆無口で足元を見て歩いている。前方からゆっくりと近づく鉄の固まりに気付かない。


「おい!誰だ!」


 突然聞こえた声に三人とも眠気が吹き飛び、敢太だと分かると走って近寄った。


 しかし敢太から見れば、ふらつく三つの人影が急に俊敏になって近寄ってきたのだ。一人でいるのならまだしも、助手席では山部が眠っている。敢太は窓を閉めた。


「敢太!」

「敢太!」

「敢太さん!」


 影が誰だか分かったが、敢太は車を止めなかった。窓を開けて言った。


「村に蜜柑がなっていたからたくさんとってこい。帰隊予定時刻は6時(マルロクマルマル)だ」

「えっ、嘘でしょ。俺たちを乗せてくれよ」

「勝手に外出した罰だ。それに、荷物を載せてるから座れねえよ。それじゃ、しっかりな!」


 敢太は窓を閉めて前を向いた。

 歩いて帰れというだけでなく、わざわざ蜜柑をとりに村まで行けというのか。


 幸四郎と基嗣は抵抗を試みた。


「ちょっと待ってよ。蜜柑なら基地にもあるじゃん。わざわざ村まで行く必要ないよ」


 敢太は窓を開けた。


「優理奈さんが起きたら許さないぞ」


 助手席では山部優理奈が静かに眠っている。


 幸四郎の頭の中で正体不明の渦が起こって、一瞬思考が停止した。


「せこいぞ」

「しつこいぞ」


 敢太は窓を閉めた。


 幸四郎も基嗣も車を追うのを止めた。敢太が自分の言葉を撤回したことはない。言われたときから分かっていたが、蜜柑をとってこなければ基地に入れてもらえないだろう。


「くっそー。嵌められた!」

「幸四郎、俺たちもまだまだだな」


 項垂れる二人をよそに、勇樹はひとり、立ち尽くしていた。この日の午前中にこの道を往復し、午後には全身の力を出し尽くし、夜中にはまた歩いているのだ。

 気力などとっくに尽きている。ただ流されるままに、反射的に足を前に出してきた。


「勇樹、大丈夫かしら。あなたもなかなか新人しごきが好きね」


 ミラー越しに勇樹の後ろ姿を見て、山部が囁いた。敢太は山部に寝たふりをさせたのだった。


「勇樹は15歳です。精神的に強ければ耐えられます。これくらいで音をあげるようなら要りませんよ。デーモンさんに比べればまだまだ優しいと思いませんか?」

「ンフフッ、そうね」


 かつて敢太がデーモンに半殺しにされ(可愛いがられ)ていたころを思い出して、山部は微笑んだのだった。


6分の4へ、つづく!


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