転移・転生隔離されてから2019/3現在まで
さて、前回2016年までは
「異世界転移・転生が定着し、それを活用してサブジャンルが生まれていき、異世界の中で色んな事をするようになっていった」という感じだった訳ですが
隔離以降、変わってきます。
では、残り二年分、短いですがどうぞ。
2017/12
総作品 53万作
登録者 116万人
1位 そのおっさん、異世界で二周目プレイを満喫中 著:月夜 涙
【タグ】R15 残酷な描写あり 異世界転生 大人な主人公 努力という名のチート 数十年の鍛錬 主人公最強 (予定) 異世界 チート 転生 ダンジョン探索 キツネ
2位 失格紋の最強賢者 ~世界最強の賢者が更に強くなるために転生しました~ 著:進行諸島
【タグ】R15 残酷な描写あり チート ハーレム 主人公最強 転生 成り上がり テンプレ ご都合主義 異世界
3位 異世界のんびり農家 著:内藤騎之介
【タグ】R15 異世界転移 日常 ほのぼの 男主人公 西洋 中世 職業もの ハーレム チート 内政 農業 異種族 ドラゴン
4位 回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 著:月夜 涙
【タグ】R15 残酷な描写あり チート 逆行 異世界 最強 ヒーラー スキルコピー 育成 ステータス 一人では戦えないので ヒロインのチート育成 歴史修正 ヤンデレ
5位 生き残り錬金術師は街で静かに暮らしたい 著:のの原兎太
【タグ】R15 残酷な描写あり 女主人公 異世界 生産系 魔法 奴隷
6位 真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 著:ざっぽん
【タグ】ファンタジー スローライフ 恋愛 主人公はそこそこ強い 不遇スタート 書籍化
7位 レベル1だけどユニークスキルで最強です 著:三木なずな
【タグ】R15 残酷な描写あり 異世界転移 ファンタジー ステータス 主人公最強 チート テンプレ 幸せ ストレスフリー ギルド 冒険者 ダンジョン 書籍化 コミカライズ化
8位 魔王様の街づくり!~最強のダンジョンは近代都市~ ※前年もランクイン
9位 冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた 著:門司柿家
【タグ】R15 残酷な描写あり 冒険 ほのぼの 剣士 魔法 おっさん 父親 娘 ファザコン 勘違い
10位 クラスが異世界召喚されたなか俺だけ残ったんですが 著:サザンテラス
【タグ】R15 残酷な描写あり 日常 青春 ラブコメ ほのぼの 男主人公 ギャグ 魔法 チート 多分ハーレム 現代 主人公最強 ご都合主義 ネット小説大賞五 学園
【コメント】
ランキング隔離が入ってからというもの、現地人が主人公の作品がどんどんランキングに上っていますね。なんと、前年で10作中9作となっていた異世界転移・転生物が、この年になるとたった3作まで落ちました。ランキングシステム変更の力ってすげー!
追放物の流行がこの時期からスタート。
この中では『真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました』。
とはいえこの作品はスローライフ率が高く、ざまぁとかは特には。
この時期で言えば、おっさん主人公、あるいは「主人公がおっさんである事を売りにしている作品」がそれなりに流行っています。
『冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた』『そのおっさん、異世界で二周目プレイを満喫中』などで現れていますね。
で、ここでポイントなのが、おっさん主人公って割と不遇スタートになんですね。
上記二作も、「若いうちに大成しなかった/若い頃は無茶してたけど衰えや怪我を理由に引退した(引退させられた)おっさんが少女などとの出会いをきっかけにして頑張ったり、努力が実ったり、チート能力に覚醒して中年から人生リスタート」という流れになる。
で、不遇スタートの為に冒険者ギルドやパーティから追放されやすい。つまり、追放物はおっさんとセットで運用される場合も多いのです。
もう一つの流れとして、『失格紋の最強賢者 ~世界最強の賢者が更に強くなるために転生しました~』『生き残り錬金術師は街で静かに暮らしたい』を筆頭に、「遠い未来で目覚めたら自分の使っている技術が衰退していた」というスタイルがメジャー化していってますね。特に魔法技術が多い。
基本的には「失われた高度な技術を使える主人公最強」という流れ。
これは2011年の『リアデイルの大地にて』や『オーバーロード』を筆頭とする多くの作品で使われている要素ですが、これまでは異世界転生と組み合わせて使う「ゲーム知識チート」や「ゲームキャラの能力で最強」の派生の様な扱いでした。
現地人による未来への転移は転生特典やスキルチートに押されていたのですが、ここにきて主題として扱われ、ランキング上位に浮上。
それにしても、見まわしてみると2016年の異世界転生が9割状態から本当に変わりました。
クラス転移をネタにした作品とはいえローファンタジーが10位を記録していたりと、前年と比べてランキング作品の偏りが(チート以外は)かなり薄れていて、異世界転移・転生に変わる何かを模索していた、と言えるかもしれません。
では、直近の2018年へ、なろうもここまで来ました。
2018/12
総作品 62万作
登録者 143万人
1位 陰の実力者になりたくて! 著:逢沢大介
【タグ】R15 残酷な描写あり 異世界転生 陰の実力者(最強) 陰の組織(巨大化) 勘違い コメディ 中二病 主人公最強 俺TUEEE 配下TUEEE
2位 (´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン 著:澄守彩
【タグ】R15 残酷な描写あり 勇者追放 心はイケメン まものフレンズ スカッとざまぁ 亜人とスローライフ アイテムマスター 主人公最強 書籍化 コミカライズ
3位 ここは俺に任せて先に行けと言ってから10年がたったら伝説になっていた。 著:えぞぎんぎつね
【タグ】R15 主人公最強 剣と魔法 勇者 最強魔導士 Sランク冒険者 隠遁願望 不遇ではない主人公
4位 最強の魔導士。ひざに矢をうけてしまったので田舎の衛兵になる 著:えぞぎんぎつね
【タグ】R15 最強主人公 アラフォー主人公 ほのぼの おっさん ファンタジー もふもふ エルフヒロイン 幼女もいるよ 魔族ヒロイン 毎日更新中 スローライフ かわいい牛 竜の赤ちゃん 大きな狼 Sランク冒険者
5位 そのおっさん、異世界で二周目プレイを満喫中 ※前年もランクイン
6位 転生したらスライムだった件 著:伏瀬
【タグ】R15 残酷な描写あり 異世界転生 スライム チート
7位 転生賢者の異世界ライフ ~第二の職業を得て、世界最強になりました~ 著:進行諸島
【タグ】R15 残酷な描写あり 異世界転移 主人公最強 チート 異世界 テンプレ スキル ステータス スライム
8位 異世界賢者の転生無双 ~ゲームの知識で異世界最強~ 著:進行諸島
【タグ】R15 残酷な描写あり 主人公最強 異世界 賢者 剣と魔法 ご都合主義
9位 異世界のんびり農家 ※前年もランクイン
10位 真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました ※前年もランクイン
【コメント】
まあほぼ最近の事なので、皆さんご存知かもとは思います。前年に出来てきた流れを更に強化する形になっていますね。
『転生したらスライムだった件』はアニメ化で大躍進。他、2015年前後のランキング人気作品がアニメ化発表と、小説家になろう産の作品が増えていますね。まだしばらくはなろうの天下が続きそうです。
「あらすじ・キャチコピー内包型タイトル」が占める割合は更に上がっています。パロネタが2つランクインしているのも中々注目ですね。
追放物の代表の一つである『(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン』は、旧題である『( ´・ω・`)勇者はお払い箱→まものの森でスローライフ→魔王認定される(←次ココ)→いい加減ぶちキレました→ずっと俺の無双ターン』が思い出深い。
最初に見た時に一発で興味をひかれました。このタイトル構成は、現5ちゃんねるなどの掲示板で流行っているネタを使っていますね。あらすじ系タイトルもここまで来たか! と思いました。
おっさん物も根強く、『最強の魔導士。ひざに矢をうけてしまったので田舎の衛兵になる』は怪我を理由に引退してスローライフを目指し、そこで少女に出会って……というタイプの作品ですし、
『ここは俺に任せて先に行けと言ってから10年がたったら伝説になっていた。』は厳密にはおっさんではありませんが、タイトル通りです。タグに不遇ではないとある通り、おっさん物の文脈を意識して書かれた作品に見えますね。
一位である『陰の実力者になりたくて!』は古式ゆかしい勘違い物+組織発足する主人公最強ですね。
中身としては「最強の主人公が活躍する」というよりは、それ以外の人達にスポットを当てる方式。商業作では『ワンパンマン』(作:ONE 発行:集英社)が人気ですね。勘違い物がランキングトップに顔を見せたのは相当前なので、時代の流れを乗り越えた実際スゴイ一作です。
『異世界賢者の転生無双 ~ゲームの知識で異世界最強~』はめっきりトップ陣では見なくなった「ゲーム知識チート」の系譜ですね。まだまだ需要がある、という所を見せつけた格好です。
あと、トップ10の中では追放物の存在感はそこまではないのですが、追放物の増加傾向は凄まじい。
ハイファンタジーで投稿された「追放」キーワード入り作品で、各年に初投稿された作品数がこちら
2016年 53作品
2017年 66作品
2018年 639作品(!?)
と、一桁違う勢いで増えています。全部が該当する作品とは言えませんが、ちなみに「ざまぁ」とセットでも214作品ありました。
ちなみに、「ざまぁ」も似たような増え方で定番のタグになっています。
とはいえ、ランキング上位10作ともなると、流石に異世界のサブジャンルでバラけていますね。この辺はお約束を踏襲しつつも面白い物が書ける凄い人達の努力のたまものでしょう。
【2017~2018年総括+2019年?】
総じて「次なるなろうのお約束」を模索する二年間でした。
やはり、この二年で大きく躍進したのは「現地人の不遇スタート」でしょう。
『無職転生』を筆頭とした「ダメな前世だったけど転生して人生リスタート」という方向性が隔離で減速し、「不遇な主人公がきっかけ一つで人生リスタート」に切り替わった感じですね。この辺は現地人主人公による主人公最強物の在り方として自然に取って代わった感があります。
それが『盾』や『ありふれ」が定着させた不遇からの追放物→人生逆転と合流して、2017年には「不遇おっさん追放」が一定の流行になった。という感じでしょうか。
ここ二年で前線復帰した感のある「遺失技術チート」「古代文明チート」=「目覚めていたら技術が衰退していた」はアトランティスなどの超古代文明とかその辺も考えると古典的な人気設定です。
ただし、なろうにおいてこれらの設定がランキング最上位に復帰したのは、転転生スキルや現代社会知識を異世界に持ち込む手法が失速した為というのが大きく見えます。
ゲーム世界転移の手法が再び返り咲いた、という感じのように思いますね。
まあ各時代でそういう現状の流行を超えていく作品も色々あるわけですが、全体的にはそんな感じかな、と思います。
これは各所で言われている事ですが、小説家になろうのランキング作品を読むユーザーではない人達に見える「なろう」と、現役でランキングを追っている人にとっての「なろう」って、それなりのズレがあるんですね。
メディアミックスの時間差があり、これらの放送時期と、作品がなろうで投稿された時期の差を考えると、なろうの内と外での流行への認識は3~4年の遅れが見えています。
2019年現在の実際のなろうは「不遇」が主体で、そこに「追放/ざまぁ/おっさん/スローライフ」がカスタマイズとして追加される感じでしょうか。「遺失技術」も強いですね。
【最後に】
ここまでランキングを振り返ってきましたが、いかがだったでしょうか。
実質的に異世界物が流行りだしてからの十年間を追う形となりましたが、
一つ思ったのは、ランキングって偉大だな、という事です。
なろうのランキングはブクマや評価を入れる多数派によって支えられた作品が登っていく場です。
なので、見ていれば自然に流行を引っ張っていった、あるいは流行したジャンルの中でも殊更ウケの良い作品がトップに並ぶわけですね。
当然ですが、流行を振り返る上でこれ以上分かりやすい指標はありません。その時その時の流行を把握する上でも、最近人気の作品を読んでおこうと思った時にも、ランキングは絶大な力を発揮するわけです。
こうして眺めると、私がメインで読んできた悪役令嬢・歴史偉人憑依などのサブジャンルにあたる物は頂点に立てるほどには大きく広まってはいない、というのを感じられましたし、大枠の一番人気を把握する、というのは良い勉強にもなりました。
これを作ってて面白かったのは、「人気作品に繋がりを感じる事」ですね。
最初に書いた人からそれに+αした人気作品が生まれ、そこから更に+αした人気作品を産む、という構造は歴代ランキングを追っていく上でよくよく見て取れた所で、もうこの懐古的な物書いて良かったなぁと。
ここにきて初めて読んだ作品もあり、久しぶりに目を通した作品もあり、大変楽しい思いができました。皆さんも、過去のランキング作品を掘り返してみてください。ひょっとすると色んな発見があるかもしれません。
さて、2話で終わらせるつもりが長くなってしまいました。私がなろうを初めて8年ほど、なろうで異世界物がヒットして10年。平成もちょうど終わり、これからがなろうの正念場です。
アニメ化がどんどん進行し、新規サイトが生まれる中、今後のなろうはどうなっていくでしょうか。
それでは皆さん、2019年以降のなろうのランキングも楽しみましょう。今年の末はどんな作品がトップ10になってるかな? 楽しみ!
それでは皆さん、またお会いしましょう。さよなら、さよなら、サヨナラ!
【おまけ:2006年以前のオリジナルのネット小説事情】
感想いただいた嬉しさでArcadiaなどから色々調べてまいりました。
結論として、小説家になろうの外では既に「異世界転移」というのはネット上に人気要素として幾らか存在していた様です。
Arcadiaの捜索掲示板では、
2003年以前から「最強」「ハーレム」「異世界迷い込み」「異世界召喚物」(「物」ってカテゴライズされてる!)などのキーワードで捜索依頼をしている方が居ます。
その為、2003年前後には「なろうテンプレ」の基盤となる作品群が存在した、という事が伺えます。
魔王主人公物も2005年で既に作品への感想として「よくある」というコメントが寄せられています。
その辺り、その時点のなろうで人気がさほどなかっただけかもですね。
また、感想でいただいた情報ですが、2001年前後の時点で既に「異世界転生して、古代魔法を現代知識でひも解いて魔法無双」という作品が存在したそうです。これがオリジナルという可能性は少なく、それ以前の個人サイトでも存在したと思われます。
多種の書き込みを見る限り、この時点では「最強」をアピールポイントとする作品はそこまで多くなかったようです。
異世界転移の人気は個人サイト時代からですが、ストレスフリー方針等は『異界の魔術士』などを中心として小説家になろうで広まった物かもしれませんね。
異世界転移が中々盛り上がっているのは、
異世界転移・異世界召喚は80年代から90年代のライトノベル界隈の流行だったため、そこから影響を受けた作者の方も沢山居た、という事でしょう。
ちなみに、異世界・主人公最強では2005年以前からwebに投稿され、なろう隆盛以前から書籍化していた『レイン』(作:吉野匠 発:アルファポリス)が有名です。
転移・転生要素はありませんが、書籍化・異世界・主人公最強という意味ではこの作品が元祖かもしれません。
また、小説家になろう隆盛以前のオリジナル小説は
『ネット小説史(小説家になろうを中心に)』
上記が参考になりました。
前年末までのランキング振り返りとなりましたが、いかがだったでしょうか。
また、もう一つ
かつて私は「小説家になろうのテンプレは二次創作が源流であり、ある時に二次創作の流行していた手法が異世界物と合流したのがテンプレだ」とエッセイで書いていたのです。
が、こうやって振り返りながら思うと「大枠には偶然だったのかな」と思いました。
なろうの人気ジャンルとは、まず異世界でストレスフリーになり、主人公最強になり、チートになり、ハーレムになり、その後にサブジャンルが拡大。そう考えると、二次創作における主人公最強物も、単純に原作キャラ救済から始まり、主人公最強になり、内政したりサブキャラ憑依したりとサブジャンルが拡大していったのですね。
だから、幾らかは影響を受けていたとしても、それとは関係なく同じ流れになったのかもしれません。
とはいえ内政やら神様転生やらをメジャーでやっていたのは二次創作の方が先っぽいですし、一次創作で手法を取り込む人が居なかったとも言い難い。
なんとも断言できない所ではあります。