10歳のふたり
メルキュール国に戻ってからも、私はルリジオン様に手紙を書いた。
半年に一度くらいはソレイユ国に行くのだけれど、少しでも私のことを思い出す頻度を多くして忘れないでいて欲しい。
そして、神官や実の母にすら恐れられて心の拠り所が少ない彼に「味方だ」と分かって欲しいと思ったからだった。
私のお父様はルフレ王子を将来の結婚相手にと目論んで?いたようで若干不満はありそうだったが、なにせソレイユ国王直々に「ウチの三男をよろしく」と言われてしまっては反対は出来ないようだった。
そして初めての出会いから4年後、私がもうすぐ10歳を迎えるという頃にまたソレイユ国に向かうことになった。
ルリジオン様は相変わらず美しく成長していて、将来確実に女性たちの心を鷲掴みにするであろうと思われる容姿は更に磨かれていた。
と、言っても私たちの年齢では社交の場には滅多に出ないし人目を避けているルリジオン様に言い寄るライバルは現時点ではどうやらいなさそうだということが私にとっては救いだった。
いくらヒロインに転生したといっても、攻略対象には存在しないルリジオン様が相手だと勝手が違う。
ライバルはいないに越したことはない。
滞在中に私は10歳の誕生日を迎えた。
その日は自国以外に隣国のプリュトン国からも来訪があったため、王族の子供たちで祝いの席を設けて貰えた。
国王様からの配慮もあり、席もルリジオン様と近くにしてもらっていたため私は勿論ルリジオン様も楽しそうに過ごしてくれていたように思う。
滞りなく宴は終わり、私は自室に戻って余韻に浸る。
(ゲームとは違ってプリュトン国の女の子達も親切で良かったなぁ)
「光のプリンス」をプレイして時は特にプリュトン国の王族の子にイビられたということもあって、結構警戒していたのだ。
私がまだ幼いということもあるだろうが、攻略対象の王子を狙っていると思われていないのが大きいのだろう。
このまま問題なく過ごしてルリジオン様と一緒にいられればいいのだけれど。
まとめていた髪をほどき、就寝の準備をしようとしていると、ノックの音が聞こえた。
(もしかして、ルリジオン様?)
そう思ってドアを開けると、そこにはなんとルフレ王子がいた。
「えっルフレ様?」
「えっ、はちょっと余計ですね。傷つきます」
ルフレ王子は少し寂しそうに笑うと、私に真っ赤なバラを一輪差し出してくれた。
「10歳の誕生日、おめでとう」
「ありがとうございます……」
夢にも思っていなかった相手からバラをもらい、私は緊張で目が回りそうだった。
「エテルネル」
「はいっ」
「ルリジオンを想っている事は知っています。妹として……お祝いさせてください」
「あ……ありがとうございます!」
礼を言う私に微笑んだルフレ王子は私の手を取ると甲に口付けを落とした。
「良い夢を。おやすみ」
「おやすみなさい……」
驚く私をそのままに、ルフレ王子は去っていった。
(いつの間にあんなに大人っぽくなったんだろう……)
ルフレ王子は現在13歳。少しずつ、大人へと近づいていく年頃だ。
(本当に、王子らしい王子の仕草だった)
「光のプリンス」を攻略していた頃の私だったら鼻血ものだっただろう。
頂いたバラの花はありがたく、部屋のコップに挿しておくことにする。明日にでも侍女の人に花瓶を調達してもらおう。
今度こそ寝ようと寝室に向かうと、部屋の窓をノックする音が聞こえる。
(ここ、5階だと思うんだけど……)
ゲームの世界に心霊現象まであったらたまったものではない。
恐る恐る窓に近付き、カーテンを開けると……
「ルリジオン様!!」
窓の外にはルリジオン様の姿があったのだ。
その姿に私は驚きすぎて言葉も出せない。
(魔法の絨毯……まじか!)