真実と、エテルネルとの出会い
side ルリジオン、この回で一旦終了です。
やっとわかる真実と、エテルネルとの出会いをルリジオン視点で。
国境へ行きイムヌに会った日から、心は暗く沈んでいた。
神官長から初めて聞かされた自分の使命。
国の混乱を防ぐため、神官たちや国王しか知らない事実があった。
漆黒の髪の使命は、魔王の封印だったのだ。
漆黒の髪が生まれると、近く封印している魔王が目覚めて国を荒らすことになるという。
魔王に物理攻撃は一切効かず、魔法攻撃のみ、ダメージを受ける。
それが漆黒の髪が放つ魔術だというのだ。
だから、結界が必要だと教えられてきたのだった。
失敗は死を意味する。
そして、世界の滅亡を意味する。
過去に魔王を倒すことに失敗したことがあったという。
魔王が世を支配したそれから約70年ほど、暗黒の時代であった。
太陽の光は弱まり、作物は育たず、魔物が増えて王都まで脅かし、人口が半減した。
次の、漆黒の髪が育つまで。
先々代の弟、オテル王子は失敗して魔王の封印と引き換えに自らの命を失った。
その時オテル王子は16歳だったという。
12歳だったイムヌは魔道士見習いとして魔王の封印に一緒に尽力したが成す術なく、オテルに逃がされた。
一度は逃げることを選んだが、家族のように可愛がり魔術を教えてくれたオテル王子を一人にすることは出来ず戻ると、既に魔王は封印され、オテル王子は絶命していた。
イムヌはその一瞬の判断を呪った。
弟のように可愛がってくれていたオテル王子を殺したのは自分だと、自らを責め続けた。
失意の中、王都に戻ると国王はあっさりと労いの言葉をかけた。
一方でオテル王子の兄王子に激しく叱責され、何故お前だけが生きて戻ってきたと殴られたとき、ようやく罪が償えると思い涙を流すことが出来た。
気が済むまで、殴られても蹴られてもいい。どんな罰を受けてもいい。そう思って声をあげて啼いた。
イムヌはその後魔導書を完成させ、司祭として王都に留まった。兄王子がやがて即位して崩御するまで。
そして先代の即位とともに国境まで離れ今に至るのだと。
そこまで話すとイムヌは自分に向き直り、その皺だらけの手を自分の手に重ねた。
「私が生きている間にまた漆黒の髪の王子に出会えたことは、運命なのでございましょう。あなた様を導くことが私の最後の仕事となるのかもしれません」
自分が生まれたことは、魔王の復活の兆しであること。
そして自分は、言葉通り命を懸けて世界を救うためにその魔力を持っているのだということを知った。
国王と神官長は知っていたようだったが、自分同様初めて知った王妃はその事実を受け容れられないようだった。
帰り道の国境付近で魔物が出てきた時、考えるより先に手が出た。
あっという間に自分の魔法によって魔物が原型をとどめないくらいにぐちゃぐちゃになっている姿を見て、王妃は失神した。
見せてはいけない自分の姿を見せてしまったことを悔いたが、そうでもしなかったら魔力を持たない両親と神官長が犠牲になるのは明らかなのだ。
どうかわかって欲しいと願う心も虚しく、城に帰還したあと王妃が国王に泣きながら訴えているのを聞いてしまった。
「何故、あの子は私や貴方と同じ髪色で生まれなかったのでしょうか……?」
母上は、私を産んだことを後悔していらっしゃるのだ――
そう悟った瞬間、心がどこかで壊れるような音を聞いた気がした。
自分の生い立ちを呪っても月日は流れる。
変わり映えのない日々の中、時々隣国からの王族の子供たちが客人としてやって来る。
皆、将来の王位を約束されている兄たちに群がり、自分には興味も示さない。
ただ、失礼の無いようにと父王から名前と特徴だけは聞かされて、どうでもいいと思いながら頭に叩き込んだ。
そして出会いはやって来た。
いつものように礼拝を済ませ立ち上がると、自分のすぐ後ろで同じ年頃の少女が静かに祈りを捧げていた。
(この姫は……確か……)
「エテルネル……?」
声に出すつもりはなかったのに何故か言葉となってしまい、少女はびっくりしてこちらを見上げた。
「あ、あの、はい」
「あ……礼拝に来てるの初めて見たから」
いつも兄のあとをついて回っていたエテルネル姫が一体なんの用があって礼拝堂に来たのかが気になった。
「っ、このソレイユ王国の繁栄と、メルキュール国の安泰を祈りに……」
「!」
驚いた。自分以外にそんな祈りを捧げる者がいるなんて。まして、漆黒の髪でもないただの子供が。
「国のために祈りを捧げに来るなんて、同じ年の子供とは思えないな」
思わず、本音が出る。
「個人の願いではなく、周囲が幸せになることを、そして今の幸せを感謝するものと教わりました」
「それは祈りの基本だ。そのような事を教えてくれる人がエテルネルの近くにいるの?」
「ええっと……祖母が教えてくれました」
「そうなのか」
メルキュール国にそんな人物がいるなんて意外だった。
漆黒の髪もメルキュール国にはいないと聞く。
驚いていると、エテルネルは自分をまじまじと見つめている様子だった。
漆黒の髪である以上、不躾な視線は慣れている。
「私の髪が、珍しい?」
嫌味のつもりで聞いてやろうと思ったのに、内心どう思われているのかが気になっていて胸の音が妙にうるさい。
「ええ、少し……この国では珍しいですが……」
さらに見つめられて顔が赤くなるのを抑えられない。
「私はとても綺麗だと思います」
「えっ?」
(なんだ、この子?この、私の大嫌いな呪われた髪色が綺麗だって言った?)
「……不吉とは思わない?」
「?思いませんわ!あの……触れてみてもよろしいでしょうか?」
「いいけど……」
お世辞を言うだけならまだしも、触れてみたいだなんて。
彼女の気を探ってみる。これで嫌悪などの悪い気持ちが見えたら……
(!?)
ぱあっと自分の中に綺麗な光が入ってくる。花のような、ピンク色の光も見えてとても綺麗で――
(まさか、これは好意?)
初めて見るとても心地よい感情に自分も心が穏やかになる。
この綺麗な姫君のことをもっと知ってみたいと思って彼女に視線を向けると、とても綺麗な水色の髪の毛が目に入った。
本能的に、その髪をひと房とって口付ける。
「エテルネルのその髪の色の方が綺麗だ」
「あっあっあの、ルリジオンさま??」
先に近づいてきたのはエテルネルの方なのに、物凄く動揺しているのがとても可愛いと思った。
「出よう?ここは遊ぶところではないし」
「はいっそうですねっ!」
(また、会えたら良いのだけど)
「滞在はあと何日くらい?」
「あと……10日ほどだと思います」
「そうか……明日もまた礼拝に来る?」
「はい、勿論!」
エテルネルとの出会いはそうして始まったのだった。