漆黒の髪の能力
sideルリジオンという視点になっています。
先日、初めて評価と感想をいただきました。
とても嬉しくて書き進める原動力になりますね。
ブックマークも嬉しいです。ありがとうございました!
自分だけ兄たちと違う扱いを受けることに気づいたのはいつくらいからだろう。
物心ついた頃から常々「漆黒の髪」としての扱いを受けていたので疑問にも思っていなかった。
自分も兄も王子だが、自分は王位には就かず聖職者として生きるもの。
そういうもの。
何故なら、漆黒の髪だから。他の者にはない、魔力があるから。
今もまだ子供だけれど、それよりも随分と幼い頃から毎日のように礼拝堂で祈りを捧げる時間を持った。
「あなた様は聖職者として生きる身分なのです」
「国の安泰を願い、そのために祈りを捧げるのですよ」
「祈りとは自分のためのものではありません。そして自分を犠牲にしても国を、民を守る義務がある立場なのです」
義務?犠牲って?
自分の存在は国と一緒にあると叩き込まれた。
兄たちは将来は騎士団とともに物理面を、自分は魔力を以て全てを守るんだとも。
兄たちは剣術の鍛錬をして、自分は魔術を覚えさせられた。
それも、実際に行える術師はいないのに。
王家の漆黒の髪は、数十年から数百年に一度、本当にごく稀に生まれる。
その稀な存在は近くに起こる世界の滅亡の危機を救う救世主とも言われている。
前の漆黒の髪は先々代、つまり自分の曽祖父の弟だったという。
そして曽祖父の弟である人は今から64年前にこの国の危機を救った。
聞くと、他に今この世にいる漆黒の髪の持ち主はひとり。
高齢で、王家とも関係がなく、過去には王都に出てきて魔道士となり司祭も務めたこともあったそうだが今は国境付近で静かに余生を過ごしているらしい。
その人には魔術を聞くことは出来ないのか?
子供ながらそれくらいは思いつく。
自分の問いかけに、打診はしているがなかなか首を縦に振らないのだ。と神官が苦々しく教えてくれた。
「王家の漆黒と一緒にしないでくれと言われたらしい」
「王命だと言って無理にでも連れてくれば良かったのでは?」
「自害しかねない拒絶の仕方だった」
「不吉だ、自分に関わらないでくれと言っていたそうだ」
神官たちの言葉が飛び交う。
理解できたのは、自分はあまり関わりたくない存在なのだということ。
そして、過去の書物から、魔力の解放を独学で学ぶことになる。
その書物は例の高齢の漆黒の髪の者が魔道士時代に記録したものもあった。
自分にとって、この国にとって、必要な魔術は強大な結界だと教えられた。
周囲の物には全てエネルギーが存在している。魔術はそこから力を借りて、解放するのだ。
エネルギーを吸収する際に祈りの根底にある気持ちから、どうかエネルギーを貸してほしいと万物に寄り添っているうちに気づいた。
物にも、少しながらの気持ちがある。
長くこの世界に存在する大地。樹木。城壁。果ては食事の際のスプーンまで、使ってくれる者の気持ちを、自分が存在している意味を、吸収しては放出している事がわかった。
書物にはそんな事は書いていなかったし、神官に聞いてみてもわからないと言う。
そればかりか、注意して接していると相手が自分にどのような感情を持っているのがなんとなく感じ取れるようになっていた。
その神官から見えたのは、困惑と、拒絶。師と仰ぎ教えを乞うても大した感情を相手は持っていないことを思い知った。
(こんな能力、いらなかった)
神官たちも、皆が使命を全うすべく向き合ってくれる真面目な者ばかりではない。
漆黒の自分が生まれた事によって来るべき危機に向かって慌ただしくなっている神官たちの中には「こんなはずじゃなかった」と思うものもいたようだ。
「この平和で強大な国で神官として過ごせる事は名誉だと思っていた」
「自分の生きている世で漆黒の髪を見ることになるとは思わなかった」
「全く「はずれ」の時代に生まれてしまったもんだ」
自分が存在することによって皆に迷惑をかけているような気分にさせられる。
何故、自分は兄たちと同じではないのか。
何故、自分だけが漆黒でこのような思いをしないといけないのか。
何故。