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ヒロインはHAPPY ENDを阻止したい  作者: ゆきんこ
第一章
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国王様登場!

 そろそろ自国へ帰る日も近づいてきたある日のこと。

 礼拝を済ませて礼拝堂を出ようと歩いていると、出入り口にいる人影に気づいたルリジオン様が驚いた声をあげた。


「父上……っ!」

「国王様!?」


 公式の場以外で国王様の姿を見るのは初めてで、萎縮してしまう。


「父上、どうされたのですか?」

「お前の様子を見に来てみたんだ」


 想像していた親子関係とは違い、ルリジオン様はとても無邪気な表情で国王様を見上げている。

 そしてまた、国王様も家臣たちの前とは全く違う屈託のない笑顔で我が子を見つめる父親の顔になっていた。


(王妃様とは違って、国王様はルリジオン様に対して壁はないのね)


 ルリジオン様は母である王妃様の髪に触れることなんか出来ないと自嘲気味に話していた。

 そこから親子関係は寂しいものだと想像していたのだ。

 その予想とは違い父子関係は良好なもののように見える。

 どこか満足そうに息子を見つめたあと国王様は私に向き合い、それを感じた私は緊張しながらスカートを持ち上げて失礼の無いよう最大限のお辞儀をする。


「国王様!はじめま……」

「君がメルキュール国のエテルネル姫だね」

「はっはい!」


 私の言葉にかぶせ気味に名を呼ばれ、更に緊張で固まってしまう。


「いや、そんなにかしこまらなくてもいいよ、顔を上げて」


 笑いを含んだその声に、おずおずと上げていたスカートを下ろし、屈んでいた足を伸ばして顔を上げた。


「ルフレが可愛いお姫様を弟に取られたと嘆いていてね、あまり他人に心を許さないルリジオンが気に入った姫君はどんな子なんだろうと見に来てみたんだ」

「ル……フレ様が!?えっと、あの、その……」


(ちょっと待って、ルリジオンが気に入った姫君を見に来たって言った!?)


 今の私が一番に気になった場所はそこだった。

 6歳のエテルネルにとってはルリジオン様にどう思われてるかが気になるところだった。

 国王様は私を息子が気に入った姫だと認識している。

 それが事実なら嬉しいことなのだけれど……


(でもルフレ様が弟に取られたって漏らしてるってことは……)


 前世の、乙女ゲームをプレイしていた世界の記憶を取り戻す前。

 ヒロイン転生の自覚はなくても本能的に一番人気のルフレ王子をロックオンしていた自分が怖い。

 勿論、そんな計算高い気持ちではなくて純粋に憧れや慕うような気持ちで接していたのは間違いないのだけれど。

 ルフレ様もそんな私を、どちらかというと妹のように可愛がってくれていたと思う。

 ルリジオン様に一目惚れした事によって私はその優しいルフレ様に失礼なくらいに態度が変わってしまったのかもしれないとやっと気づいたのだった。


(しまった。そこまで考えてなかった!お叱りを受けるかも……!)


 そこまで思い至って身構えた私に国王様がかけた言葉は拍子抜けするものだった。


「綺麗な髪をしているね」

「はい、……はい!?」


 失礼の無いようにいい返事を、と思わず肯定してしまったが言葉の意味を理解して声が裏返る。

 と、国王様が私の長い髪の毛をひと房取って慈しむように見た。


 さすがに口付けまではしないが、その仕草が数日前のルリジオン様と全く同じでデジャヴみたいで気味が悪い。


(……まさか水色の髪が好きなのは遺伝!?)


「ルリジオンは私に似ているからね」


 私の思考を読み取ったかのように国王様は笑いながら言った。

 金色の髪の国王様の顔は、よく見るとルリジオン様とよく似ていてとても端正に整っていた。


「ルリジオンと仲良くしてくれて、感謝するよ」

「いえ、感謝だなんて、とんでもないことです」

「あれも、神官たちも、本能的にその髪を恐れているようだから……」


 あれ、というのは王妃様のことだろう。

 本能的に恐れるというのは私にはわからないのだが、珍しい毛色、滅多にない魔力を含む漆黒の髪は恐れの対象になるのかもしれない。

 でもそうであれば国王様はその本能を押し殺して息子を傷つけまいと接しているのだろうか?

 素晴らしい親の鑑と言えるだろう。


「エテルネル姫は何故……いや、なんでもない……これからもルリジオンと仲良くしてやってくれ」

「喜んで」


 国王様はきっと何故、漆黒の髪を恐れないのか、問いたかったのだろう。

 我が子の前でそれを聞くことは出来ず、言葉を飲み込んだように見えた。それは、アラサーであった私にはわかるが幸いルリジオン王子には気づかれていないようでほっと胸をなで下ろした。


 お兄様たちが言っていた、人懐っこくないとか近寄りがたいとか、そういう印象も先に壁を作っていたのはこちらの方だったのかもしれない。

 恐れや珍しいものを見るような好奇の視線。そして神官のように不吉だとはっきりと言う存在。

 もうそれだけで、まだ6歳の少年が人前に出るのを嫌う条件は揃ってしまっている。


「……承知致しましたわ」


 守りたいなんて大層な事は言えない。それでも、傍にいてルリジオン様の寂しさを埋めてあげたい。

そんな決意から、私はもう一度そう答えたのだった。


「ルフレには、諦めろと言っておくよ」


 笑いながら国王様は去っていった。


「エテルネル」

「はい」


 ルリジオン様がじっと私を見つめながら問いかける。


「その、食事の時にも兄上に言われるんだ。エテルネルは兄上の妃候補になりたかったのではないの?」

「はぅ、それはですね……」


 ――なんと説明したら良いのだろう……私の過去の行いを見ていても、移り気な困った姫君に見えているに違いない。穴があったら入りたいとはまさにこのことだと、私は顔を覆うしかなかった。


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