夜の礼拝堂
side ルリジオン
これで本編分の重要な部分は大体両方の視点から書く事が出来たと思います。
夜に、と言ったもののはっきりと時間を言わなかったので夜の礼拝が終わったあとそのまま座ってエテルネルを待つ。
話がしたいと言っていた。一体何を言われるのだろうと考えてみる。
何か魔王を倒す秘策でも思いつたのか、それとも……
名乗りもせず花束をドアの前に置くなんて気味が悪いと苦情でも言われるのだろうか。
それも、ただの見舞いではなくて未練がましく君を愛すという花言葉までわかってしまっていた。
隠していた本心を暴かれるというのはとても恥ずかしい。
公の場で言われて、よく知っている人に聞かれていたらと思うだけで顔が熱くなる。
「……お待たせして申し訳ございません」
エテルネルの声が聞こえたので姿勢を正してそのまま答える。
「私もついさっき来たところだ」
「お隣、よろしいでしょうか」
「ああ」
するりと音もなく彼女が隣に座る気配を感じた。ふわりと花のような良い香りがしてぽろりと本音が漏れる。
「……まさか花言葉を知っているとは思わなかった」
――ずるい。知っていたなんて。そして、こんな時でも魅力的なのも。
「親切な庭師の方が教えてくださったのですわ」
「……!会ったのか!?」
正直驚いた。あのお喋りな庭師の親父が彼女と会話をするなんて想像もつかない。普通の貴族の令嬢なら好き好んで話しかけないようなタイプなのに。
「はい、独特の口調の優しい方でした。アネモネは中庭にはないのか聞いてみましたら、中庭にはないし贈る人はあまりいない花だと……」
「そうだ。城にはない花だ。オロールさんも詳しくないようだったし、メルキュール国では花言葉を考えないものだと思っていたのに……」
まさかあの親父から花言葉を聞いていたなんて。本当にしくじったと思って思わず舌打ちしてしまう。
「はい、私も存じ上げませんでした。でも、花言葉というものがあるのは知っていましたので漠然と……なにか意味があるのかと考えたことはありましたわ」
「……私を、愚かだと思ったか?」
散々突き放して、その本音は君を愛す。なんて執着心が強く未練がましくて気持ちが悪い男なのだと思われても仕方がない。
「?何故ですの?」
心底不思議そうにエテルネルが問いかける。
「君を突き放して傷つけておいて、未練がましく花を贈ったりした」
「そのような事は、全く思いませんでした。とても……嬉しかったです」
彼女のその言葉にほっと安堵するが、それでも私自身が自分を認められない。
「……離れた方がお互いのためなのに……感情というものは、自分でもどうにも出来ない事があるとよくわかった」
抗えないほど、エテルネルへの想いは消えそうもなかった。突き放さないといけないとわかっているのに。
「それがお互いのためなのでしょうか?」
「そうだ」
すう、と息を吸った音が聞こえてエテルネルがはっきりと言った。
「私は、ルリジオン様が好きです。お慕い申し上げております」
「!」
彼女は驚くことをさらっと言ってのける。
「今まではっきりとお気持ちを聞いたことがございませんでした。ルリジオン様のお気持ちをお聞かせくださいませ」
「……っ」
(なんて直球でものを言う子なんだ……)
もう逃げることは出来ない。
「わっ私も……す……」
(好きだ)
しどろもどろになりながらも促されるまま言いそうになったところでエテルネルの美しい瞳としっかり視線が合う。その濡れたような瞳にカッと顔に血が上って現実に引き戻される。
「なにを言わせるんだ。その気持ちに応えていいはずがないだろう。漆黒の髪の、私が」
「何故だめなのですの?」
「何度も説明しただろう。私は、君と添い遂げることは出来ない」
「関係ありませんわ」
「あるだろう。私はそのうち魔王とともに消える。魔王は眠るだけだが私は二度と復活しない。そうなったら君はどうなる?このまま一緒にいれば必ず私との事が縁談に響くだろう」
「……ルフレ様はそのようなことは気になさりませんわ」
今度はさっと顔から血の気が失せた。兄上はもうそんな話をエテルネルにしているのだろうか。エテルネルに冷たくするような弟より、自分を選ぶんだと。
「!やはり、兄上は……兄上になにか言われたのか!?」
兄上は16歳となっても特定の婚約者を決めていない。貴族の令嬢は勿論近隣諸国の姫君からも縁談が届いているのにだ。
それは即ちエテルネルを婚約者にと望んでいるからなのではないかと薄々思ってはいた。私がいたから遠慮はしていたが、今はそれもなくなった。
そして、エテルネルはそれを受けるつもりなのだろうか?考えると胸が苦しい。自分で、突き放したくせに。
「いえ……赤いバラを戴いただけです。その意味も庭師の方から、聞きました」
「……っ。そう、か……」
――やはり。兄上は確実にエテルネルを妃にと願っている。でなければ赤いバラなんて贈らない。
「ルリジオン様は将来の私の縁談を気になさってくださっていますが、ルフレ様はダメなのでしょうか?」
「駄目、ではない。むしろ、それ以上ない話だと思う……」
「……」
そう。それはきっと彼女にとって、それ以上ない話――
「……でも、駄目だ。私は見たくない……っ」
わかっているのに、突き放してきたのに、本音ではこんなに彼女を手放したくない。叫びたいくらいの思いで本音を吐き出した。
「死んでも、兄上に、他の誰かになんて渡したくない……」
例えもうすぐ散る命だとしても、彼女のためにならないとわかっていても――
他の男になんて渡したくなかった。他の男の横で幸せそうに微笑まないで欲しかった。
彼女は冷静な声ではっきりと断言する。
「私はルリジオン様以外の方のものにはなりません」
(本当に、それで良いのか?)
正直物凄く嬉しい。それでも彼女の未来を思うと意地と理性が働いて言わずにはいられない。
「私は数年後には死んでいるぞ」
「その時は尼寺に入りますわ」
「本気か」
「本気です。そもそも、ルリジオン様が犠牲にならない道をこれから探すのです」
強く組んでいた両手に、そっと彼女の細い手が置かれた。
「お傍にいさせてくださいませ。命のある限り、そして命が尽きても」
甘く、囁くように優しく言われて、衝動的にその手を握って自分に引き寄せ強く抱きしめた。嬉しくて堪らない。
「ひゃっ……!」
あれだけ堂々と私への想いを語った割に焦ったような可愛い声を出されて理性が飛びそうだった。
ずっと言えなかった本音を、彼女だけにそっと囁いた。
「君を、愛してる」
絶対に、他の男になんて渡したくない。
この美しい少女を腕に抱いていいのは自分だけだ。
ご訪問ありがとうございます。最後までお読み下さりありがとうございました!
ブックマーク、評価、感想ありがとうございます。
1月から書き始めて本日PVが1万超え、総合ptが100超えました。
応援してくださる皆様のお陰でここまでたどり着きました。
これからもどうぞ応援よろしくお願い致します。
次回はそろそろ留学編を書き始めたいと思います。
宜しかったらまた読みに来て下さいませ。




