ルリジオンとの出会い
予想外のルリジオン様からの声掛けに、あわわわと内心慌てながらなんとか答えようとするも言葉が出ない。
「あ、あの、はい」
「あ……礼拝に来てるの初めて見たから」
(私、怪しまれてる!?)
「っ、このソレイユ王国の繁栄と、メルキュール国の安泰を祈りに……」
「!」
その言葉にルリジオン様の表情が驚きに変わったあと、何とも言えない笑みがこぼれる。その顔もたまらなく美しい。
「国のために祈りを捧げに来るなんて、同じ年の子供とは思えないな」
(やばっ!だって中身はアラサーだもの……)
「個人の願いではなく、周囲が幸せになることを、そして今の幸せを感謝するものと教わりました」
「それは祈りの基本だ。そのような事を教えてくれる人がエテルネルの近くにいるの?」
「ええっと……おば……祖母が教えてくれました」
「そうなのか」
祖母というのは私が日本人だった頃の祖母である。
日本人だった頃、私はよくおばあちゃんと神社に参拝に行った。おばあちゃんは自分の欲ではなく、周囲を幸せにすることを祈りなさい、今の幸せに感謝しなさいとよく言っていて……
何か願いがあるときにだけ神社に行くのではなく、何もないときは何も困難がないことを感謝するようにいつも言われていたのだ。
(困ったときにだけ神頼みしたって、どうにもならないって言ってたっけ……)
そんなおばあちゃんの教えが、こうして転生した先で恋する人との話に役に立つなんて本当に思いもよらない。
(それにしても、本当に綺麗な子……)
「私の髪が、珍しい?」
私があまりにじっと見つめるので気になったのだろう。少し困ったような、伺う顔で聞かれてしまった。
「ええ、少し……この国では珍しいですが……」
(日本人では当たり前の髪の色、懐かしい)
「私はとても綺麗だと思います」
「えっ?」
サラサラで天使の輪も見える傷みのない黒髪はとても綺麗だ。よく見ると長めの襟足は括ってあってそれもまた良かった。
「不吉とは思わない?」
「?思いませんわ!あの……触れてみてもよろしいでしょうか?」
「いいけど…」
我ながら随分積極的に言ってしまい少しときめいている自分に呆れる。
(相手は6歳児!なにをドキドキしてるのアラサーが!)
サラサラな黒髪はかつて日本人だった自分が子供の頃に持っていたものとよく似ていて慈しむような気分になった。
おばあちゃんも、私の髪を愛おしむように梳いてくれたりした。
「エテルネルのその髪の色の方が綺麗だ」
「あっあっあの、ルリジオンさま??」
至近距離に詰め寄ったのは自分なのだけど……ルリジオン様の手が私の髪のひと房を取って口付けている姿を見て私の脳みそは沸騰しかかった。
「出よう?ここは遊ぶところではないし」
「はいっそうですねっ!」
(なななに今の!?子供なのになんでこんなにドキドキさせるのー!)
慌てる私をよそに、ルリジオン様は凉しい顔で歩いている。
「滞在はあと何日くらい?」
「あと……10日ほどだと思います」
今回の滞在は2週間ほどだと聞いている。
近隣の王族の子供たちは、大体半年から1年に1回、少しの間滞在して成長度合いや能力を見せる。
あまりない事とは聞いているがそこであまりに言動に問題がある子供は出禁になるとかなんとか…
一方でそこで認められたら早々と将来の結婚相手となる婚約者や補佐役が決められることも多々あるらしい。
そうして16歳になった時に正式に留学生として成人する20歳まで滞在するのだ。
「そうか……明日もまた礼拝に来る?」
「はい、勿論!」
……頬を上気させて部屋に戻ってきた私を見てお兄様が一言。
「うまくいったんだな」