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ヒロインはHAPPY ENDを阻止したい  作者: ゆきんこ
第二章
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帰還

 ルリジオン様が夜更けにやってきて嵐のように去ったあと、私は一睡もせず外を見続けた。

 見ても見える距離ではないことは承知だが、それでも見ずにはいられなかった。

 時折魔王の唸り声の様な地鳴りの様な音が聞こえる。

 しばらくして大きな音がした後ソレイユ国方面の空が夜が明けたかのように明るくなり、しばらくして漆黒の闇が戻った。


(今のは……?)


 魔王の力かルリジオン様の力か。私には全く分からずもどかしい。

 今こうしている間にも彼は命の危険に晒されている。駆けつけたいのにその能力も、駆けつけたあとに彼を助ける力もない自分が悔しかった。


(前世でこの世界の知識があっても何にも役に立たないなんて……)



 やがて夜が明け、私はもどかしい思いを抱えて過ごした。


 魔王復活の報が我国に入ったのはその日の昼も過ぎてからだった。

 慌ただしくお父様がやってきて教えてくださったが、既に知っている私は曖昧に頷く事しか出来なかった。


「昨夜のうちにルリジオン王子が誰にも告げず城を後にしたらしい。復活する魔王の元に向かうと、ソレイユ国王宛の書置きだけが残されていたそうだ」

「そうですか……」

「続報はまだ入ってこない。闘いはどれくらいかかるのか全く未知だ。一昼夜かもしれない。数日かもしれない。それよりもっとか……全くわからないそうだ」

「数日……それよりもっと?」

「ああ。ルリジオン王子が無事に生還すればすぐわかるが、そうでなかった場合……魔王はソレイユ国に向かって行くだろう。それがどのくらいの時間なのか……」

「……っ」


 そうでなかった場合、を想像すると息が苦しくなる。


 それからすぐに続報が届いた。


「夜明けにはルリジオン王子が無事ご帰還されたそうだ」

「ご無事で封印、されたのですか……?」


 封印するには全魔力を贄として差し出し、命と引き換えになると聞いている。ご無事ということは別の方法だったのだろうか?


「いや……封印ではなく、魔王そのものを消滅させた、としか聞いていない」

「消滅……」


 稀に見る強い魔力の持ち主なのだと言われているルリジオン様なら、魔法戦で勝利してもおかしくはない。

 でも、それなら無事では済まされないはずだ。どこか怪我をしたりしているのではないか。状況が見えないだけに不安だけが私に襲いかかってくる。

 それでも、命が無事で王都に戻られたということは確かだ。


(良かった……ご無事で)


 私はその場にへたりこんで無事を喜んだ。



 ルリジオン様が私の元を訪れたのはそれから数日後だった。


 そろそろ寝る時間だと部屋の明かりを消そうとしている頃、窓がノックされる。


「エテルネル」

「ルリジオン様!ご無事で……!」


 窓から入ってきた彼は数日前と変わらずどこにも怪我をしていないようだった。


「遅くなってすまない。すぐにでも来たかったが国をあげての祝賀が毎日……どうしても抜けられなかった」

「当然ですわ。この世界を救われたのですもの」

「……そんないいものじゃない。魔王自体、ソレイユ国が生んだようなものだ」

「え……」

「魔王の記憶が見えたんだ。彼は私と同じソレイユ国の漆黒の髪だった。とても人望のある王子で皆に慕われていた。それで自分の王位が危うくなるのではと嫉妬した兄王子に幽閉されて……不当な形で恋人を失い、その強い魔力が恨みと変わった時に彼を魔王とした」

「なんてこと……」


 あまりの事実に混乱する。魔王はソレイユ国の漆黒の髪の王子で、兄の裏切りにより力が負の方向に向かっていたなんて。


「正面から戦ってもきっと勝てない。でも、私には相手の、周囲のものの気持ちを感じ取る事が出来る。魔王が愛されていた頃の記憶をなんとか思い出させようとして、正気を取り戻させた」

「そんな事が出来るのですか!?」

「人によっては見られたくないものもあるだろう。だからこの力はあまり公にしていないし普段は見ようともしていないのだけど……」


 そこまで言うとルリジオン様は何故か恥ずかしそうに横を向いて続けた。


「魔王も私の記憶を見たようだ。そこでエテルネルを……そういえば、魔王のかつての恋人に少し似てなくもなかったな……だから、君のおかげだ」

「わ、私を……?では、魔王は自分で納得して……どちらへ?」

「消えた。最後に正気を取り戻せて良かった」

「魔王はルリジオン様の中の記憶でどんな私を見たのでしょう」

「さ……さあな。それはわからない」


 何故か動揺したルリジオン様は目を泳がせた。少し気になるが今はそれよりも。


「本当に。ご無事で戻って来られたのですね」

「ああ。死なずに済んだ」


(ああ……抱きつきたい!)


 姫君としてのたしなみを知っているものの、元々積極的な性格のエテルネルにはなかなか難しい。それに喪女だった頃の記憶が加わるととても自分が恥知らずな思いを抱いているように感じてやりきれない。


 私が顔を赤らめてルリジオン様を見上げると、彼も私を見ていて視線がぶつかりしばし無言で見つめ合う。


(……あ)


 思い出されるのは数日前、魔王との対峙前にされたキス。


(なっなんで今思い出すのよ……!)


 恥ずかしくなってきて両手で口を覆うと彼も同じことを思い出したのか90度の角度で頭をさげられた。


「!」

「エテルネル。すまなかった。その、魔王と対峙する前にここに来た時……王族らしからぬ振る舞いを……」

「えっあっ……だ、大丈夫ですわ、その……嬉しかったです……」

「!」

「でも、ルリジオン様が覚悟を決められているのが感じられて…最後にしようとされているのがわかって…不安でした」

「すまない。確かに私は覚悟を決めていた。そしてエテルネルの気持ちを考えずに自分の欲のみで衝動的に……でも、こうして戻って来られた」


 そう言うとルリジオン様は片膝をついて屈み、私の左手を取ってまっすぐ目を見て言った。


「間もなく私たちも16となる。そうすれば父上にエテルネルを正式に婚約者として迎えたいと頼んでも良いだろうか?」

「勿論ですわ……!」

「良かった……」


 両手で顔を覆いながら立ち上がったルリジオン様はそのままの姿勢で呟いた。


「我慢のならない、礼儀もわきまえない男だと嫌われたらどうしようかと……」


 そう言うとあっと言い顔を上げ、真剣な顔で私に聞く。


「勝手に部屋に来るのももうしない方が良いか?エテルネルがいつ我が国に来るかわからないし正式な謁見まで待てなかった、許してくれ」


 その真剣に焦っている様子になにを今更と思ってしまいぷっと吹き出して言った。


「それなら……また私を外に連れ出して下さいませ。それで許して差し上げます」

「それで良いのか?いつが良い?今から行くか?」

「……はい!」


 言うが早いかルリジオン様が私を抱き抱え、杖に乗って外に飛び出した。



 来月には私は16歳になる。魔王はいなくなったが、ルリジオン様はこうして傍にいる。

 攻略対象者とのHAPPY ENDはなんとか阻止できそうな予感に私の胸は高鳴るのだった。


(ちなみに、ルリジオン様が魔王の目くらましをした光は私のお兄様の役に立たない魔法技フラッシュを応用したものだった……)


やっと第二章が完結しました。

この後二人がどんな会話をしたのかとか、過去のシーンのルリジオン目線など書いてみたいものは多々ありますがひとまずこれでおしまいとなります。

こんなシーンが見たい、詳しく!等リクエストがあれば書いてみたいとも^^

あとは、全部しっかり読み返して表現等を加筆修正すると思います。


第三章開始は未定ですが、16歳となったエテルネルの留学編が書けたらいいなと思います。


ブックマークしてくださったり、訪問してくださったり、感想評価下さったり、応援ありがとうございました。

更新への意欲になりました。

本当にありがとうございました。

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