二年後。ついに
それから更に二年後。
魔物の発生件数は増え続け予兆は多くなっているがまだ魔王は復活していない。
私は15歳を迎え、魔王やルリジオン様がいなかったゲーム開始の16歳という年齢まで1年ほどとなった。
いつ魔王復活の報が届くか緊張の日々を送っているという現状である。
この二年であった変化は。
昨年お兄様が16歳になり、ソレイユ国に留学となった。
魔王の復活が近く魔物が出没する中行くのは危険との意見もあったが、お兄様たっての希望だった。実は、騎士団に憧れていたらしい(笑)
現在は従兄であり我が国の第一王子オロールお兄様や、ソレイユ国のルフレ様、エタンセル様と騎士団に所属して修行中の身となった。
そしてお兄様はごく稀にしかいないという光の魔法の所有者なので、多少なりともそちらの発動の修行もしているらしい。
無駄に光って眩しいだけのフラッシュ以外に使える魔法が増えたという話は……聞かない。
そして昨年の私のソレイユ国訪問は見送りとなっていた。つまりルリジオン様にはもう二年ほどお会いしていないということだ。
私も王族のはしくれで、かつ女子で武術にも魔術にも長けているわけではないという点がソレイユ国訪問中に何かあった場合対応しきれないという判断になったのだ。
魔王復活の話も近隣諸国に伝わることとなり、緊迫した日々が続いていた。
その後魔王を倒す確かな手だては見つかっておらず、更にいつ魔王が復活するのかわからないというところが私を焦らせた。
(私が16歳の時点では魔王もルリジオン様もいなかった。その設定が今のこの世界と同じものであるというのなら、1年以内に魔王は必ず復活する)
ルリジオン様の話では魔物は国境付近だけでなく王都近くの市街地にも現れるようになり、強さも増しているらしい。
ただ更に魔力が強くなった自分には敵のうちに入らない、とも。
どうかその力で魔王も倒すことが出来れば……そう願わずにはいられなかった。
そしてその日はついにやって来た。
「エテルネル。入らせてもらう」
私の部屋の窓がいきなり開いてルリジオン様が入ってきたのは夜もかなり更けた頃だった。寝ていた私は悲鳴をあげそうになり、ルリジオン様に手で口を塞がれる。
「私だ。騒がないで」
魔法で周囲にぼうっと光があがり、ルリジオン様の姿が確認出来る。
「ルリジオンさま……?」
(夢?じゃないなら夜這い……のわけないわよね)
一瞬馬鹿な事を考えた自分を反省しつつ落ち着いて彼を見ると、とても真剣な眼差しで彼は告げた。
「魔王が、復活する」
「!」
「恐らく今晩中だ」
「うそ……」
ルリジオン様は私の手を握り、呟いた。
「最後かもしれないから言っておく」
「……!」
「以前の私はいつ死んでもいいと思ってやっていた。君が生きる世界が平和であれば散ってもいいと。でもそれは綺麗事で……本当は私は死にたくないし君の傍にいたい」
「……傍にいてくださいませ」
「本当はそうしたい」
「魔王が復活するなんて気のせいですわ。それに、国王様は倒さなくても良いと仰ったではありませんか……」
言いながら泣けてくる。ルリジオン様の瞳はいつかと同じように澄んでいて、変わらない意志が読み取れた。私が何を言ってもその決意は覆らないだろう。
「私には民を守る義務がある。洗脳されるものかと反発したこともあったが、私もすっかり洗脳されているな」
「ご立派なお心があるからですわ」
たった15歳の少年に。世界の平和が委ねられているなんて……
私はヒロインなのになんて無力なんだろう。
「もう行くのですか……?」
「ああ。徐々に大きくなっている気配を感じる。そこに向かうまでだ」
「……っ」
私は勢いよく起き上がり、ベッドの縁に腰掛けていたルリジオン様の首に抱きついた。
「どうか……どうか……必ず、帰ってきてくださいませ」
「努力する」
きつく、抱きしめ返される。息が出来ないほどきつく、きつく。
・・・おおおおん・・・
揺れるような唸るような音がして、私たちははっと離れる。
「行かなくては」
「ルリジオン様……ご武運を……」
涙を堪えながら、なんとか祈る言葉を捧げる。
その言葉に頷いて窓から出ていこうとしたルリジオン様が振り返ると、足早に戻って来て私の顔を両手で挟み上を向かせ、キスをした。
「……すまない。一度だけ……許してくれ」
少し赤い顔でそう言ったルリジオン様はあっという間に窓の外に消えていった。
驚きで一瞬涙が止まったが私にはわかっていた。ルリジオン様は、本気で死を覚悟している。
普通なら婚約者でもない相手にこのような事は絶対に許されない。
これが最後になると、覚悟しているから……
それがわかるだけに涙が止まらない。
(最後になんてしないで……どうか帰ってきて……)
次か、その次で第二章完結予定です。




