国王様の話2
「今……日本と仰いましたか?」
国王様の口からニホン、と聞こえた気がしてまさかと思いながらも聞かないではいられない。
「あ……いや、何でもない。こちらのことだ」
先ほどのくだけた口調も元の国王様に戻ってそう言われたが、私は更に聞いてしまった。
「もしかして……日本人でしたか?」
「へっ?」
「ジャパニーズ?」
「えっ??君は……?」
ここまで来てしまうと国王様の威厳もあったものではない。かなり素っ頓狂な声をあげられる国王様がおかしいのに加え、日本人だったかもしれない人を初めて見た興奮が渦巻く。
今まで姫君として生きてきた人格をすっかり忘れ、日本人の冴えないOLだった頃の自分が出てくる。様子を見るに、それは国王様も同じだろう。
「あの……私、前世では西野瞳って名前でした。国王様も、まさか……?」
「ええー!!嘘だろ!?俺は加藤祐司だった!えっなんで?あっもしかして君、光のプリンスってゲームやってた??」
「やってました!国王様、あ、加藤さん?あの、あなたもまさか?」
前世でも男の人だったぽい国王様が乙女ゲームやってたの??そんな若干引いている表情がわかったのか、国王様が慌てたように説明する。
「いやいやいや、俺、前世でゲームの企画やってたんだよ!最後に携わってたのが光のプリンスで……あれの、番外編イベントの企画考えてるところで事故っちゃって」
「私はただのOLでした。光のプリンスはずっとやってましたよ!待ちきれなくて仕事帰りにスマホいじってゲームしてたらホームに落ちちゃって……」
「じゃ、君も不慮の事故?」
「はい」
こんなことがあるのだろうか。ゲームの世界に、そのゲームをよく知る日本人同士が転生なんて。
私はヒロイン、国王様は企画だったから攻略対象者にはならずそれを上から見るような存在になったのだろうか?何にしても意味がわからない。
「いやぁ……何というか、まさか君が俺と同じ日本人だったなんてね」
「すみません……」
「謝らないでよ。あー、自分が企画したゲームの世界に転生してるってわかったときはびっくりしたしなんで国王?って思ったけど、光のプリンスを知ってる子がこうしてヒロインとして出てくるなんて……」
「ほんとにびっくりです」
「ねえ。魔王なんていなかったじゃん?確かにファンタジー設定なのにファンタジー要素が人物の見た目だけだから魔王出すかって話もあったんだけどさ……」
「そうなんですか!?」
「や、でも、恋愛ゲームに魔王別にいらないっしょ。ややこしくなるから却下だったんだよ。それがまさかこんな形で反映されるとは……」
「ルリジオン様のことは企画ではありましたか?」
一番気になっている部分を聞く。
「いや……第二王子までって設定だったよ。俺の記憶が戻ったのがルリジオンが生まれた時で……それで今の転生にびっくりしたけど、じゃあなんで第三王子が?って本当にびっくりして……加えて、魔王を封印する漆黒の髪だろ。信じられなくて、信じたくなくて」
「そうだったんですか……」
「やっぱり我が子は可愛いよ。しかも末っ子で、俺によく似てて、黒髪だよ?失いたくないだろ……」
「……」
「君も気づいてるよね?ゲーム開始のエテルネルが16歳の頃にはルリジオンも魔王もいないっていうことはどういうことか」
「はい……」
「なんとか……ならないかな……」
「はい……」
沈黙が続き、国王様がそういえば、と問いかける。
「そういえば、なんでルフレやエタンセルじゃなくてルリジオンなの?」
「わかりません……そもそも記憶が戻ったきっかけがルリジオン様で、知らずに育っていた私が一目惚れ……したからかと……」
「君もルリジオンがきっかけなんだ。なんだか複雑だよ。確かにヒロインで君は若いんだけど、中身は大人で、俺の息子に……」
「すっすみません!」
まるで変態みたいに思われそうで謝るしかない。
「でも、国王様も記憶があるからといって前の人格のまま生きてるわけじゃないじゃないですか?私は、エテルネルの性格が強く作用してます。もともとは私、乙女ゲームにのめり込むほど奥手だったし、社交性もなかったし……エテルネルの積極性があったからルリジオン様と仲良くなれたので……」
「うん。そうだね」
国王様は穏やかに笑う。
「まだ話し足りないけれど、とにかくルリジオンの命を永らえる方法をこれから考えよう」
「はい」
「ではまたこうした時間を設けよう」
「はい!」
立ち上がりかけた国王様がそうだ、と私に告げた。
「そうだ。水色の髪、綺麗だろ?俺がヒロインの髪は水色にしようって推したんだよ」
(アナタが決めたんですか!?)




